冒険者ギルドに行こう
「やっと、ここまで来られたか……」
深い森を抜けると、そこは一面の麦畑だった。
そのずっと先へと視線を移すと、黄金に染まる麦畑の海に浮かぶ桶樽の様な物を見つけ、やっと目的地らしき所に出られた事に安堵を覚える。
畑の色からも分かるが、どうやら収穫の時期らしく、あちらこちらの麦畑で、せっせと農夫が麦の刈り取りに精を出している姿が見え、俺は頭に被っていた『冥王の頭蓋』を外し、人前に出ても大丈夫専用の装備へと切り替えると、麦畑の外縁沿いに道を探して歩き始めた。
遠目から見た時は桶樽の様に感じたが、近づくにつれ、それが分厚く高い壁に囲まれた、大きな街だというのが鮮明に見えて来た。
街へと入る壁門には十数人ほどの者達が並び、入街の為のチェック待ちをしていて、俺もその最後尾へと並ぶ。
暫く手持ち無沙汰にして待っていると、俺は「あれ?」と、自身の体の変化に気が付いた。
髪の色が黒へと戻っていたのだ。
「しまったな……この首飾り、魔力補充が必要なタイプだったか」
どうやら、おっさんからもらった髪色を変える魔道具が電池切れを起こしたらしい。
首元から出して見てみると、取り付けられた魔石の輝きが薄くなっており、効果を発揮しなくなっていた。
ここまでの間に使い過ぎたか……
魔道具や魔石への魔力補充は、魔術師と名乗れるほどの技能がないと難しいと聞くし、魔術の素養に関しては赤点をもらっている俺には無理だ。
まあ、でも、この街なら、コレは必要ないはずだ。
やがて俺の番が来て、門番の兵士らしき人が「身分証か、ギルド証」と、少し粗雑に声をかけて来た。
俺が、その両方が無い事を告げると、門番は「あそこへ行け」と指をさし、言われた通りに門の脇にある詰め所の様な所へと行くと、その中で軽いチェックを受ける事となった。
髪の色を誤魔化せない事に不安があったが、内容的には背丈と性別と名前くらいの物で、少し塩対応ではあったが、小銀貨を1枚支払うと、思いの他すんなりと街へと通された。
「ふぅ……ここがビーウォルか」
そんなこんなで、やってきました。
隣国のリックマーベ王国にある、ビーウォルの街。
入る時にも感じたけど、街壁がかなり頑丈に作ってあるなぁ。
お隣が、隙があれば襲い掛かってくる俺の実家だけあって、要塞じみた街壁を備えた大きな街である。
家出を決行し、隣国まで無事に脱出できたまでは良い。
ここまで来れば一安心ではあるが、まだ安全とまでは言えない。
王族の血統を持つ者が国外に流出なんて事態は実家が見逃すはずもなく、あちらこちらに追っ手を放っているはずだ。
ここに来るまでの間も、ちょくちょく俺を捜索している者達とニアミスをした。
捕まりでもすれば十中八九殺されるか、運が良くても幽閉辺りが関の山なので、細心の注意を払い、移動は夜間に限定し、寝るのも休むのも、人里離れた場所を選ぶしかなかった。
おかげで、のんびりと観光がてらの旅になると思っていた予定が台無しである。
国内程ではないにしろ、国外にも追手は差し向けられているだろうし、早急に、実家に見つかっても、おいそれと手出しをされない『力』と『立場』を手に入れる必要がある。
力に関しては一定の目途が立っている。
転生の時に、神様らしき存在から便利な能力をもらっているので、それを活用すれば何なんとかなるはずだ。
ここに来る間にも、能力のテストも兼ねて色々と訓練もしたので、多少は自信が付いた。
あとは立場だが、それも旅の途中で色々と考えた。
第一候補としては、やはり『冒険者』になる事だ。
冒険者とは、前世で読んだラノベやネット小説でよく見かけた職業だと言えば分かるだろうか?
街などへ自由に出入りができ、国の垣根を越えて活動ができる権限を持ち。
様々な国家に対して、冒険者ギルドが冒険者達の一定の身分の保証と保護を行い。
高ランク冒険者ともなれば、貴族や王族に近い扱いがなされる。
そんな便利な職業である。
俺の持つ能力と、王都で会ったオーティマ一家から聞いた話を加味するに、冒険者になる事が、何者にも脅かされない立場を得るのに「これが一番早いと思いますRTA」だと思われる。
俺は神から授かった能力を駆使し、冒険者になり、実家からの干渉を跳ねのけられる立場と力を手に入れてやる!!
そう心に決めた俺は、希望を胸に、ビーウォルの街の大通りを歩き始めた。
「まだ日も高いし、さっさと冒険者ギルドに行って登録をしておくか」
街壁の門から徒歩で十分。
大通りを歩いていくと、他とは一回り大きい石造りの建物が見えた。
三階建ての重厚な壁に、正面には巨大な二枚扉が構えられ、その上には金属で象られた剣と盾を模した看板が掲げられている。
「……これが、冒険者ギルドか」
看板以外は特に余分な飾りつけも無く、質実剛健といった雰囲気だ。
扉を開けて中へと入ると、広々としたホールへと出た。
ホールの中央部は天井が高く、二階までの吹き抜けとなっており、開放感がある。
向かって右と正面に受付カウンターらしき所があり、左側にはテーブルと椅子が並べられたカフェの様な物になっていて、受付の奥では職員らしき人達が粛々と仕事をし、カフェでは数人の男女がくつろいでいる姿が見える。
広々とした作りにも関わらず、そこまで人は多く無く、静まり返っている訳ではないが、猥雑さも感じられない。
「ふーん……」
もっと、こう……
冒険者ギルドと言うからには粗野な物を想像していたんだけど……
なんだか、洋風の古めの銀行や市役所といった雰囲気だな。
冒険者志望の者が不良気味な冒険者に絡まれ一悶着、なんていう、お決まりの展開は起きそうもないが、逆に「ここが本当に冒険者ギルドなのか?」と少し不安になる。
まぁ、ここで気を揉んでいても仕方がない、さっさと登録を済ませてしまおう。
「ようこそ冒険者ギルドへ。ご用件を伺います」
右にある受付へと俺が近寄ると、カウンターの向こうに座っていた女性から先に声をかけられた。
受付の女性は、ギルドの制服らしい物をキッチリと着こなし、明るい水色の髪を綺麗に結わえ、その髪からは少し尖った耳を覗かせている。
もしかしてハーフエルフって人種の人かな?
何気に、今世では初めて見るかもしれない。
そんな事を考えながら、ジロジロと見るなどという愚行を犯さない様に、俺も要件を告げる。
「冒険者になりにきました来ました。受付はこちらで合っていますか?」
「冒険者免許受験希望ですね。こちらで問題ありません。では、この用紙に必要事項の記入をお願いします」
彼女はそう言うと、一枚の紙を差し出してきた。
ん……?
受験、希望?
渡された紙をまじまじと見ると『冒険者免許受験申込書』と書かれている。
……あっ!
そう言えば、トリカさんとアネリの二人が冒険者になるにはテストみたいな物があるとか言っていたな?
楽勝だろうと思って、完全に失念していた……
「あの……試験の内容って、どんな物ですか?」
「はい? 試験は筆記と実技の二つですが……」
テストの大まかな内容だけでもと尋ねてみると、受付の人は少し訝し気な表情を浮かべ答える。
どうやら一般常識らしい。
まぁ、ラノベやネット小説でも、こんな感じでテストを受けて、いきなり上位ランクの冒険者になるなんてサクセスストーリーをキメる展開もよく見かけるし?
なんとかなるか。




