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ゲロムスの遺児  作者: 粟沿曼珠
幕間
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第九十一話 追憶 〜決して潤うことは無く〜

 何十、何百、何千と屑共を殺しても、俺の心は決して潤うことは無く、ずっと渇いたままだ。

 奴等の悲鳴と共に流した涙を、断末魔と共に噴き出た血を浴びても、それでも尚求めてしまう——奴等を殺す機会を。


 それこそが、俺の為すべきことだから。

 それこそが、俺の罪の贖いなのだから。


 かつ、かつ、と靴音を立てて通路を進んでいく。靴音がする度に、奴等との距離が近くなっていく。

 来る敵を迎え討たんと、奴等は得物を構えて待機していた。


「来たぞ! やれ——」


 ——激流よ、奴等を斬り殺せ。


 その願いと共に巨槍を薙ぐ。

 穂先から生じた激流の刃は通路の壁をも斬って進み、一瞬にして眼前の敵達の体を——首を斬って飛ばした。


 その後ろで待機していた連中、その青褪めた顔が見えた。


「お、お前ら逃げ——」


 刃は逃げる隙さえ与えずに奴等を真っ二つに斬った。

 断末魔の絶叫が狭い通路にこだまし、断面から溢れ出る血が壁や床を真っ赤に濡らした。


「……おい、何をしている? 何故、逃げようとする? 何故、生きようとする?」


 ——そんな権利の無い屑共が。


 かつ、かつ、といった靴音はやがてぴちゃ、ぴちゃと水気を伴う音に変わっていった。

 体を斬られても尚も蠢く者、逃げようと這いずる者、抵抗しようと得物を手に取る者——生きる権利など無いのに、何とか生きようと足掻く者——


 ——激流よ、首を斬れ。


 ——その悉くを、確実に殺す。


「……死ぬことこそが、お前達に与えられるべき道なのだから」


 この通路の続くところ——殺すべき敵がいる場所を見据える。

 そちらの方から絶えず叫喚が轟いている。どこかに脱出用の出口でもあるのだろうか?


 ——行かせるか。


 足元に水を生み出し、その流れを操作して音を頼りに敵を追う。

 奴等の姿はすぐに見えた。然程広くない通路を埋め尽くし、どこかへ一心不乱に逃げている敵の姿が。

 お互いに押し合い、罵り合い、我こそが生きようと必死に足掻いている。そんな反吐が出る敵を見て、巨槍をぎゅっと握る。


 逃げる敵目掛けて跳躍し、流星の如き勢いの激流に己が身を呑み込ませる。更に激流を旋回させ、願う。

 ——激流よ、斬撃を飛ばせ。


 敵との距離が一瞬にして縮まる。

 奴等がこちらに気付いて悲鳴を上げた瞬間と、その体が切断されて血が噴き出した瞬間は同時だった。

 血飛沫と肉が通路中に飛び散り、ただ一人生き残った男の前で着地した。


 眼前の男はどの団員よりも豪奢な服装に身を包んでいる。ならばこの男こそが、地を這う者達(アポラスト)の団長のブロスト・ゼルフなのだろう。

 その顔は青褪め、失禁によって股間の辺りを濡らし——そんな恐怖の中にいても尚、彼は光り輝く右腕を突き出し——


「っがああああぁぁぁぁ————————っっっ!!!」


 巨槍を投擲して、右肩ごとその腕を斬り落とした。鮮血と共に右腕が飛び、血を撒き散らしてどさりと落ちる。


「あっ……あがぁぁ……!」


 激痛の中で、男は尚も生きようと足掻いていた。這いずり、血の小川を作りながらこの拠点の出口へと——希望の扉へと向かっている。


 ——だから、お前達にその権利は無いだろう?


通路に突き刺さった巨槍を引き抜き——


「があ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!?」


 右脚に突き刺して切断した。左脚、左腕と同様に切断し、遂にブロストはぴくぴくとしか動かなくなった。


「が、あ゛……だれ、が……たず、け……」


 ——まだ、生きていやがる。


「があ゛あ゛あ゛あ゛————————っっっ!!!」


 死にかけの虫みたいに蠢くその背中に巨槍を突き立てた。そして引き抜き、突き刺し、引き抜き、突き刺し——その度に彼は「がっ!」と声を零した。


「…………」


 途端に虚しくなり、巨槍を突き刺したままにして彼が息絶えるのを待つ。


「……な、なぁ……」


 彼はすぐに尽きる力を振り絞って頭を僅かに上げ、掠れに掠れた声で話しかけてきた。


「と、取引をしないか……? 俺達地を這う者達(アポラスト)にできないことは無ぇ……お、お前の望みを、何でも……」


 全てを言わせる前に立ち上がる。


 ……望みを何でも、か……


「そうだな……なら——」


 彼の体から巨槍を引き抜き——迫る希望に、彼の顔が口角を上げて歪むのが見えた。


 ——俺がお前達に望むことなんて、一つしか無いだろう?


「死んでくれ」


 希望に笑った男の顔が、一瞬にして絶望に歪み——






 ブロストの首を掲げた瞬間、同胞のある者は言葉を失い、ある者は戦慄し、ある者は嘔吐し、ある者は気を失った。


「殺したぞ」


 俺の一言に、しかし返ってきたのは通路の入り口から入ってくる風の音だけだった。


 ……分かっている。俺が異常だってことは。

 ファレオの規則的に、例え悪人であったとしても殺すことは望ましくない。仮に殺すことになったとしても、こんな惨たらしいことなんてする必要は無い。


 だけど、そうせずにはいられないんだ。


 あんな屑共さえいなければ、正しく生きる人々は誰も苦しまずに済んだんだ。

 あんな屑共さえいなければ、村の皆が、友人が、家族が——妹が、殺されることなんて無かった。


 だから、憎くて憎くて仕方無いんだ。

 無辜の人々を、大切な人達を殺した屑共に同じくらいの——いや、その何倍もの苦痛を与えたいんだ。

 ——そんなことをしても、渇きが潤うことが無いと分かっていても。


 その後、俺はナラの護衛から外された。曰く、「もう絶えられない」とのことだ。

 俺はこれから一人で行動することになった。

 そして、一切の殺害を禁じられた。

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