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ゲロムスの遺児  作者: 粟沿曼珠
幕間
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第七十八話 千年越しの復職

「そうだ。魔術師の時代の頃の私は()()()()()()()()()()


 シャールの放った一言に衝撃を受ける。

 それだけでは無い。実のところわたしはファレオに属しておきながら、ファレオの起源について全く知らなかった。ファレオの起源が魔術師の時代にあるということについても驚いている。


「千年越しの復職、ということになるな。尤も、昔のファレオと今のファレオでは形態も活動内容も大いに異なるがな」

「へー、どんな感じだったの?」


 多少興味が湧いたので、そう尋ねてみた。

 すると彼はどことなく躊躇っているように灰色の空を見上げた。


「……まあ、貴様が知りたいと言うのであれば、此方が躊躇う必要など無いか。座れ」


 彼に促され、わたしは灰色の大地に腰を下ろした。


「さて、何から話そうか……」


 そう言って彼は再び灰色の空を見上げ——そして視線を下ろしてこちらを見た。


「今でこそファレオと帝国は実質的には敵対関係にあるが、私の時代には帝国——当時のダプナル帝国だな、それが擁する組織であった」


 成程、当時は自警団では無かったのか。だとしたら、仕事内容も今のファレオとは異なるのだろうか?

 そう疑問を抱いたこちらの思考を読んだからか、彼は憎たらしい笑みを浮かべた。


「ただ語るだけでは退屈するであろう。ここで一つ——いや、二つだな、問いを出す」

「問い?」


 まあ確かに普通に話を聞くよりは楽しめると思うけど……


「では一問目」


 彼はすかさず問いを投げ掛けてきた。


「組織名の『ファレオ』は古ダプナル語の言葉であるが、その意味は何か?」

「え、古ダプナル語?」


 現在ゴーノクルで主流となっているダプナル語、その前身となるのが古ダプナル語だ。

 魔術師の時代が終わった後に諸言語と混ざり合って生まれた今のものとは違う、純粋な魔術師の言語。

 ポン君なら或いは知っているのかもしれないが、当然わたしには分からない。


「えー、ファレオ……?」


 とはいえ、わたしが知っていることを出したら意味が無い。

 頭を捻ってファレオの仕事に相応しい言葉を考え——


「んー……守護者とか、そういうの?」


 わたしの出した答えに、


「不正解」


 彼は憎たらしい笑みを崩さずそう言った。


「正解は——『影』、或いは『闇』だ」


 告げられた回答の所為で、彼の顔がより一層悪辣に見えた。


「……何のつもりよ」

「それを踏まえた上で、二問目だ」


 訝るわたしの言葉を無視し、彼は次の問題を出し始めた。


「当時のファレオの仕事は何か?」

「…………」


 その問いを答える気になれなかった。

 実際に、本当にそうだったのかは分からないけれど、彼の言おうとしていること、やろうとしていることが見え透いているが故に。


 何も言わずに立ち上がって振り返り——


「貴様、もう察しているのであろう?」


 彼の言葉を無視し、早足で歩き始める。彼の声がこれ以上耳に入らないように無意味な言葉を、文字列を頭の中で垂れ流し——


「暗殺だ」


 しかし、彼の言葉は確と耳に入ってきた。


「帝国専属の暗殺者組織——それこそが、嘗てのファレオだ。まあ、自警団的な側面も無くは無かったがな」


 耳に入る雑音を尚も無視し、わたしは歩き続けた。

 ——昔のファレオが暗殺者組織だとしても、わたしには関係無いこと——


「そうだ、貴様には関係の無いことだ」

「きゃっ!?」


 どういう訳か、シャールはわたしの目の前に立っていた。

 彼は大きな嘆息を零し、そしてわたしを見て口を開く。


「こうなると分かっていたから躊躇ったのだ……ミーリィ・ホルムよ、確かに貴様には私を受け入れて貰いたいが、今回は貴様がこの話題を振ってきた。自分からその話題を振っておきながら、気に入らない話になった瞬間に逃げる——それが礼節を欠く行為だと、学の無い貴様とて理解しておろう?」

「うっ……」


 学が無いって発言は余計だが、それ含めて彼の言う通りではある。

 ……仕方無い。逃げるのを諦め、嘆息と共に腰を下ろした。


「余計なことは言わないでよね」

「善処する」

「善処って……」


 ただ言わなければ良いだけだから簡単だろうに。

 彼もまた灰色の大地に腰を下ろし、憎たらしい笑みを浮かべてこちらを見た。話の続きの内容を探るかのように空を見上げ——


「……そうだ、当時のファレオの仕事だ。帝国の組織ということもあって、帝国の仇を暗殺するのが主な仕事だったが、私のように個人で暗殺を行う者もいた……と言うよりは、少なくとも私が属していた時には私しかいなかったな。はは、懐かしい」


 そう言いながら彼は腕を組み、自信に満ちた笑い声を上げた。


「『殺し屋シャール』——名声を求めて殺し屋になった訳では無いが、それでも気分の良いものであった。私の名が——シャール・ウェイスの名が、栄誉と恐怖と共に語り継がれたのだからな」


 どこか遠くを見つめてそう言った彼の顔は誇りと郷愁——そして不思議と切なさのようなものが感じられた。

 こちらの心を読んだであろう彼は、顔の向きはそのままに視線をこちらへと移した。


「ああ、少し思い出してな……当時のことと、殺された瞬間のことをな」

「え……」


 殺された瞬間。つまり彼は殺されたのか。

 意外だった。ボスカルの獣との戦いではダスさんと同等、或いはそれ以上の実力を見せていた彼が殺されたなんて。


「不意打ち——しかも仲間にやられたのだ。如何に猛者であろうとも、心を読まなければ対処できまい」

「仲間に、って……」


 シャールは憎い存在ではあるが、それでも可哀想に思ってしまう。仲間だと思っていた存在に殺されたとなれば、例え千年も前の話であっても切なく感じてしまうだろう。

 しかし、一体どんな理由で——


「理由は、奴等曰く『殺し過ぎ』」

「可哀想って思って損したよっ!」


 笑い声を高らかに響かせてそう言った彼を、思わず叫び声で殴ってしまった。殺し過ぎとなれば、そりゃ殺されて当然だ。


 その後も彼は当時のファレオの仕事のこと、そして自分の活躍や功績を語り続けたのだった。

 ……その最中でも、彼の顔からは先程感じた切なさのようなものが感じられた。

 憎たらしい笑みがお似合いの彼の顔——そこに時々微かに浮かぶ切なさは、一体何によるものなのか。


 しかし彼は、わたしの心が読めるにもかかわらず、そのことについて答えることは無かった。

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