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ゲロムスの遺児  作者: 粟沿曼珠
第二章 千変万化の魔獣
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第五十六話 作戦開始

 作戦の為の準備と休息をし、遂にその日を迎えた。

 現在わたし達は斥候の作戦開始の合図を待っている。


 ポン君が自ら進んで出たこともあって、結局彼も作戦に参加することとなった——ボスカルの獣の縄張りを突破し、交戦する為の盾として。

 確かにポン君の奇跡魔術は強力だ——が、それでも子供を戦場に出すというのは気が引ける。実際他の人達も困惑していたし、中には猛反対する人もいた。


 しかしそれでも、彼は参加することを望んだ。

 だから、ボスカルの獣の討伐と同時にわたし達がするべきことは、彼に守られながら全力で彼を守ることだ。


「……ミーリィ、何でさっきっからずっと見てるんだよ」

「勿論、ポン君を守る為!」


 こんな可愛い子供を失うのは世界的損失——ということを抜きにしても、彼の身の安全が気になって仕方が無く、ついつい視線が彼に向いてしまう。それにこうしているうちに魔獣を飛ばしてくる可能性もあるしね。

 彼は嘆息を零したが、だからといってどうにかなる訳では無い。最早癖みたいなものなのだ。


「そこまで心配する必要も無いだろ。第一、ポンは自分の魔術で自分の身を守れる」

「あ、ダスさん!」


 どこかに行っていたのか、姿を見せていなかったダスさんがようやくその姿を見せた。

 もう既に作戦に参加する人達が殆ど集まっていつでも行ける状態だったが、ダスさんはまだ来ていなかった。


「どこ行ってたんですか? 随分と時間が掛かったようですが……」

「ああ、それがな……」


 そう言うと彼もまた嘆息を零し、それと同時に肩を落とした。


「……イギティの奴、やれミーリィとポンのことをちゃんと守れだの、やれあれこれ考えるなだの、やれ無理するな駄目そうな時は逃げろだのってつらつらと……」


 ……まあ確かに、何度もダスさんが無茶したという話は聞いたことがあるし、イギティさんが心配するのも無理は無い。


 ——ダスをお願いね。


 先日の彼女の言葉が脳裏を過った。わたしの言葉ならダスさんに響くのではないか、という思いの込められた彼女の言葉が。

 わたしもダスさんには死んで欲しくない。ここで無理をして死んでしまうとしたら——


「——ダスさん」


 彼の名を呼ぶ声が口を突いて出た。

 石畳を見下ろしていたダスさん、大きく開かれた目がこちらに向けられた。


「どうした?」


 呆けたかのような声で応えたダスさん、彼の瞳をじっと見つめて力強く告げる。


「どうか、無理だけはしないで下さい。ダスさんは大切な人ですから」


 ——ファレオとしての仕事、ポン君を故郷へと連れていく使命、そしてそれ抜きにしても、貴方はわたしにとって大切な存在だから。


 そう言うとダスさんはぽかんとしてこちらを見つめ返してきた。不意を突かれて軽く叩かれたかのように、こちらを見たまま動かずに何度も瞬きし——


 ……あれ、わたし、かなり恥ずかしいこと言っちゃった……?


 己の言葉を反芻する。


 ——どうか、無理だけはしないで下さい。ダスさんは大切な人ですから。


 ——ダスさんは大切な人ですから。


「…………」


 顔がかっと熱くなるのを感じ、自然と手が顔を隠すように動いていた。

 ……咄嗟だったとはいえ、凄いことを言ってしまった……!


「……すみません、忘れて下さい……言い方が……」

「…………」


 顔を覆った掌の向こうでダスさんが溜息を吐いた。指を僅かに動かして、そこから彼の姿を覗く。


「前イギティに呼ばれた時に吹き込まれたな……」


 そう小さく零したダスさん、呆れを通り越したのかその顔には微笑が浮かんでいた。


「お前達は守ってみせるが、まあ俺の命まで守るかは善処——」

「ダスさんの命も、です!」


 顔を手で覆い隠したまま体が前方をぐいと動かし、ダスさんの目と鼻の先で叫び声を上げた。

 彼は目を見開いて「お、おう……」と動揺を帯びた声で応えた。


「……なぁ、いつまでいちゃついてるんだ……?」


 わたしとダスさんのやり取りに割って入るかのようにポン君が呆れた声を掛けてきた。

 彼を見遣ると、目を僅かに開いてこちらを鋭い視線で突き刺してきた。


「あ、ごめんねポン君……って、別にいちゃついていた訳じゃ無いよ!」

「そーですか……」


 再び彼は嘆息を零し——


「そうこうしているうちに、連絡が来たっぽいぞ」


 と、鋭い視線でこちらを見たまま続けた。


「連絡——ってことは、帝国が動き出した?」


 その問い掛けに、彼は小さく頷いた。


「お前らがいちゃついている内にな」

「……えっとー、気、悪くしちゃった?」


 鋭い視線に、強い語気——何と言うか、先程からポン君が苛立っているような……


「……人がいちゃついているのを見るの、結構キツい」

「…………」


 きっぱり言われてしまった。

 というかいちゃついているつもりは全く無かったんだけど、ポン君にはそういう風に映ってたんだ……


「……ごめんね?」

「……まぁ、やるなとまでは言わないけど——」


 彼の声をかき消すかのように笛の音が街に響き渡った。音源の方——ウルスの門へと自然と目が移る。

 笛を響かせた人、そしてその隣に立っているマートさん。


「諸君! 帝国がボスカルの獣との交戦を始めた! これより作戦を開始する!」


 マートさんの咆哮の如き声が轟く。悪夢を終わらせんという意志に満ちたかのように力強く、そして不思議と悲痛にも感じられた。


「——どうか、あの魔獣を、帝国の生み出した戦禍を、討ち果たしてくれ!」


 その思いに応えるかのように、わたし達の誰しもが鬨の声を轟かせた。

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