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ゲロムスの遺児  作者: 粟沿曼珠
幕間
36/168

第三十六話 ミーリィの秘めたる思い

~ミーリィ達がファレオの本部から出立した日から数日前の話~






 わたし達は旅の準備の為に、再びボリアに訪れていた。


 ボリアはゴーノクル全土で見ても最大級の都市で、また交通の要衝ということもあり、非常に栄えているだけで無く様々な物品が販売されている。

 市場にはゴーノクル全土の物品が集まり、その種類は「ある物より無い物を数えた方が早い」と謳われる程である。


 長旅のお供の干し肉に干し野菜、そして様々な小道具——それらが詰め込まれた袋を揺らしながらわたしとダスさんは人の行き交う往来を歩く。

 ちらりと横目にダスさんを見る。普段通りの凛々しくて、見方を変えれば楽しくなさそうな顔。果たして彼は、わたしとの買い物を楽しめているのだろうか?


 一方わたしはというと、正直気分が高揚している。ファレオの仕事から解き放たれた——いや買った物は仕事に関係する物だけれど——私的な二人きりの時間。

 思えば長らくこのような時間が無かった気がする。ファレオとして各地を巡っては人助けをして、ここボリアでポン君を助けて——勿論それが嫌だった訳では無いし、わたしのするべきことだと思っている。

 でも、それはそれとしてダスさんとの心休まる時間を送りたいという思いもあった。わたしの、身勝手な欲望ではあるのだけれど。


「ダスさん、折角ですし何か良いもの食べません?」


 お高めの食事もしばらく食べていないし、何よりダスさんに楽しんで貰いたいし——そういった思いを抱いていた。

 そう声を掛けると、彼は表情を変えずにこちらを向いて答える。


「そんなのに金を使うくらいなら、仕事に金を使うべきだろ」


 そこはけちな人間が多いファレオの中でもとりわけけちなダスさん。しかし、だからこそそう答えるのは明白。

 わたしは衣嚢に隠していたものを取り出し、ダスさんに見せつける。


「ふっふっふ……そう答えるのは分かりきっていましたよ……! という訳で——これ! 自分で色々と稼いできたんですよ!」


 そもそもファレオは死に近い職場でありながら業務で諸々の出費が必要となる為に、ファレオ自体から実際に得られる収入が少ない。それもあってファレオは魔獣討伐を専門とする組織『ヴォレオスの猟獣』と並んで就きたくない職業として頻繁に挙げられる。

 しかしその仕事内容——依頼は魔術犯罪者への対処から探し物まで多岐に渡り、その実態は自警団と言うよりは武力を持った便利屋と言った方が正しい。

 そして依頼には当然報酬が付き物で、わたし達は依頼で稼いだ報酬金を中心に生計を立てている。ありがたいことに、感謝と憐憫から少し多めに報酬を貰う時もある。


 ダスさんが色々と依頼をこなしている間に、わたしもわたしで——大衆からの信頼を得ているダスさん程では無いとはいえ——色々と依頼をこなしていたのだ。

 その金を、ここで解放する——!


「わたしが奢りますから、今日はこれで——」

「お、金稼いでいたのか。じゃあそれでもっと食料を買うか」


 滑って転ぶような感覚を覚えた。

 こうなったら自棄糞だ。ダスさんの前に立ちはだかるように早足で移動し、意を決して言い放つ。


「えぇい煩いですっ! これはダスさんと一緒に食事をする為に貯めたお金なんですっ! それ以外には絶対に使わせませんっ! ダスさん何かつまんなさそうですし、わたしは楽しませたいんですっ!」


 顔は紅潮し、心臓の鼓動は高鳴る——が、そんなことなど気にしてはいられない。言い終え、少し荒い呼吸が出てくる。

 一方のダスさんはというと、きょとんとした表情でこちらをじっと見つめ——


「……ああ、そんなこと気にしてたのか」


 こちらの気持ちを理解したようである。これなら、ダスさんを食事に連れていける——!


「ほらっ、行きましょうダスさんっ! 色々と調べたので——」

「別に、俺はお前といるだけで楽しいんだけどな。まあ確かに顔には出てないかもな、悪い」


 しれっと言い放たれた、その言葉。

 わたしの体は、脳は、心は、一瞬凍りつき——


「——っ!?」


 爆発する。


「ぁ、あぁっ、ぁ、あーっ! あーっ!」


 自分でも訳が分からずダスさんを手と足で何度も小突く。ダスさんはそれを飲み込めず、困惑している様子である。


 ——何て言った? いるだけで楽しい? いるだけで楽しい!?


「うーわっ! うーわっ!」


 高揚と羞恥と嬉しさと——そういった感情が心の中でこんがらがり、まともな思考も言動もできなくさせる。

 わたしはただ、まともでない思考のままダスさんを小突き続けた。


「落ち着けミーリィ、今お前変人だぞ」


 いや元からか、とダスさんは続けて小さく呟き、そしてはっとする。

 わたしは往来に目を配り——その視線の全てがこちらに向けられていることに気付く。


「…………」


 ……冷気よ、わたしの体を冷やせ。


 その願いの直後、わたしの体は冷気に包まれて冷やされる。顔全体の熱が引いていき、体と胸と心の高揚や羞恥は多少落ち着き、思考は冷静になる。

 縮こまるかのように俯き、か弱い声で言う。


「……行きましょう、ダスさん。良さげなお店を調べてきましたので」

「お、おう」


 そしてわたし達はゆっくりと歩き出し——俯いたまま、己の顔を見せないように隣にいるダスさんに体を寄せる。今は、今だけは、それができた。


「うぉっ、寒っ」

「すみません、我慢して下さい……こうしないと、色々と……です」

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