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ゲロムスの遺児  作者: 粟沿曼珠
第一章 謎の少年との邂逅
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第二十八話 救出

 転倒した列車によって抉られ、土が剥き出しとなった大地に着地する。それと同時に、列車の中から続々と教団の教徒達や兵士達が現れ、わたし達の前に立ちはだかる。


「奴らの狙いは子供だ! 先頭には行かせるな!」


 ポン君がいるのは先頭車両。それが分かっただけでもありがたい。

 最大の問題は、眼前の敵達だ。まだまだ敵は現れ続け、その数はわたしの予想通り数百に及ぶと思われる。


 敵がわたし達を囲むように周囲に立ち、剣や銃などの各々の得物を構える。ぱっと見ただけでも、その数は百人近くいると分かる。しかしそんな数の差など——


「——うわぁ何だぁッ!?」


 わたし達には意味が無い。

 敵の真下から水の壁が湧き上がり、彼らは呑み込まれる。そして——


 ——冷気よ、水を凍らせろ!


 その願いと同時に、一瞬にして水が凍って敵を拘束した。水に呑まれなかった部分だけしか動かすことができず、氷の冷たさもあってある者は叫び、ある者は呻く。


「行くぞ!」


 ダスさんはそう叫ぶと同時にわたしの体を抱え、跳躍する。突然抱えられたことに驚きつつ氷の壁を越え——


「来たぞ!」


 氷の壁の向こうで既に銃を構えていた敵達が、わたし達を狙っていた。


「うわぁダスさんあれはまずい——」


 それに気付いた瞬間に銃弾が放たれ——


 そしてそれと同時に激流の壁がわたし達の眼前に生じた。その猛烈な勢いに呑まれた銃弾は、わたし達に届くことなく落ちていく。


「銃撃が効かない……!?」


 敵に動揺とざわめきが走る。無理も無い。「水を出す魔術」とだけ聞けば、確かに弱く感じてしまう。

 しかしダスさんは修練を重ねに重ね、水の魔術を極めた。移動や回避は当然のこと、攻撃を防ぎ、銃のように撃ち、剣のように斬ることさえもできる。

 だからこそ、彼は『ファレオの魔獣』と呼ばれるに至った。


 着地し、わたし達を列車に入らせないかのように立ちはだかる敵を睨む。その数の多さもあり、さながら分厚い壁のようである。


「流石に多いな。ゲロムスの魔術師を乗せているだけのことはある」


 それが示すのは、ゲロムスの魔術師の危険性でもあり、帝国と教団にとっての重要性でもあろう。

 敵達は今にも襲い掛かってきそうにこちらを睨み、各々の得物を構え——


 敵の後方にあった列車の車両の一つが、突然その下で何かが爆発したかのように、轟音と共に空中へ吹き飛ばされた。

 炎上している車両は宙を舞い——さらに発生した爆発の如き炎に吹き飛ばされ、こちら目掛けて飛んでくる。


 ダスさんはそれを目で捉えて巨槍を構え、縦に振る。巨槍を介して激流の刃が飛び、飛来する車両を真っ二つに切断した。

 その残骸はわたし達の横に落下し、地面に深々と突き刺さった。


「……やはり、貴方達でしたか……まあ、予想はしておりましたが……」


 聞き覚えのある声が響いてきた。その声は徐々に大きくなり——


「これだけの護衛を用意して正解でしたね」


 わたし達の前に現れたのは、果たしてジャレンさんであった。鎧を纏い、剣を握り、いつでも戦に臨める様子である。

 彼の隣には四人の兵士がいる。ジャレンさんと同じような、白と金の豪奢な印象を感じさせる鎧を纏い、魔卿ないしそれに近しいような高い地位にあることが窺える。


「ジャレンさん……ポン君は返して貰います!」


 彼を睨み、声高に宣言する。そんなわたしに呆れたのか、彼は嘆息を零してこちらを睨む。


「折角助けられた命を、無駄にしようというのですね……ならば……」


 彼は一度深く俯き、そして——


「貴様等二人共殺してくれるわァッ!!!」


 剣の切っ先をこちらに向け、憤怒の叫びを轟かせた。それを開戦の合図とし、敵が一斉にこちらへ突撃し始めた。


「ミーリィ! 飛ばすぞッ!」

「はいっ——え?」


 ダスさんの叫びに反応したが、「飛ばす」の意味を理解できず——


「ぎゃあぁ————————っ!!??」


 次の瞬間にわたしは宙に飛ばされて悲鳴を上げていた。

 ダスさんの叫びの直後にわたしの真下から激流が生じ、わたしを呑み込んで転倒した列車の前方へと飛んで行った。


 ——確かにダスさんの魔術で飛ばす方が手っ取り早いけど……事前に聞いておけば良かった……






 ミーリィが列車の前方へ飛ばされているのを確認し、迫りくる敵を睨む。ジャレンとその横にいる兵士とは異なり、薄汚れて鈍く銀に光る鎧を纏っている。

 恐らくは場数をそれほど多く踏んでいない兵士か、教団の教徒、といったところであろう。


 ——膂力を強化しろ。


 まずはそう願い、身体強化を行う。そして巨槍を構えて跳躍し——


「来るぞッ!」


 迫りくる敵の一人が叫んだ。


 ——激流よ、敵を斬れ。


 その願いと同時に巨槍を斜めに薙ぐ。敵との距離はあり、その斬撃は当然当たらない——が、巨槍から放たれた激流の刃が迫りくる敵の体を真っ二つにした。

 右腕を大地に向けて再び激流を願い、その手から激流を放って自身を空へと飛ばす。


「ひ、怯むな! 狙撃手ッ!」


 銃を構えた兵士達が銃口をこちらに向けたのが、視界に映った。

 再び激流を願い——背後に生じた激流が俺を撃ち出したのと、銃声が轟いたのは、ほぼ同時出会った。

 俺が通った軌跡を、銃弾は通り過ぎていく。そして眼下を睨み——


 ——銃撃の如き雨を降らせろ。


 その願いと同時に激流の雨が降り始めた。その雨は真下にいる敵数十人に降り注ぎ——


 しかし、宙に発生した炎の壁がそれを阻んだ。


 ——やはり蒸発されるか。


 心の中で、思わず文句が零れた。

 数百に及ぶ敵の撃破を優先すべきか、俺の魔術を打ち消してくるジャレンを先に倒すか——


「——あ? 何だ?」


 白と金の鎧の兵士が、こちらに向かって飛んでくるのが見えた。その背中には何か白いものがあり——


「——クソ、ジャレン以外にもいるのか」


 その背中の白いものが翼であると、目前に迫ってきたところで気付いた。その翼を羽ばたかせると一瞬にして肉迫され——


「ぐッ……!」


 振り下ろされた大剣を巨槍で防ぐので精一杯であった。その重い衝撃に吹き飛ばされ、大地に体を打ち付けられる。


 ——あのジャレンと同じ鎧を纏った連中……全員完全な魔腑を持っている、か。


 その事実に舌打ちを零し、眼前の敵を睨み——


「——ッ!?」


 そこには、ジャレンの姿が無かった。

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