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ゲロムスの遺児  作者: 粟沿曼珠
第一章 謎の少年との邂逅
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第十九話 優しさの理由

「はぁっ!?」


 荒い息を吐いて目を覚ます。汗で背中が濡れている感触を覚え、心臓の鼓動は高鳴る。

 森の中は闇に包まれており、焚火がその中で仄かに輝いている。まだ夜は更けていない。


 またあの時の夢だ。父さんと母さんと別れてから、この夢を何度も見る。


 高鳴る心臓を、恐怖に満ちた心を落ち着かせるように大きく息を吸い、吐く。それでも、治まることは無いのだけれど。


 いくら明日の為に休息を取るべきだとはいえども、何度もあの夢に(うな)されるくらいなら寝たくない。おれは立ち上がり——


「ポン君、どうしたの!?」


 ——と、おれの声に気付いたのだろう。心配そうな表情のミーリィが駆けつけてきた。

 彼女とダスは、交代で見張りをしている。今まで起こされなかったということは、ネドラ派の奴らはおれ達がボリアの外にいることに気付いていないのだろう。


「……いや、大丈夫。悪い夢見ただけ」


 詳細を話して迷惑を掛けるのも嫌だし、変に心配されるのも面倒だ。おれはそう言って誤魔化し——


「え、本当に大丈夫? おっぱい揉んで落ち着く?」

「……お前いっぺん殴っていいか?」


 両手で胸を持ち上げる彼女に呆れ、嘆息を吐く。

 というかおれを一体何だと思っているんだ? 興味無いと言えば嘘になるが……その程度で悪夢を忘れられる程おれの脳味噌は単純じゃない。


「まあそれはさておき……大丈夫? 眠れそう?」


 そう聞かれておれは少し黙り——


「……いや」


 そう答えた。実際眠りたくないし、これに関しては嘘をついて誤魔化す程のことでも無い。


「……そう。だったら——」


 すると彼女はこちらへと軽い足取りで寄って来て——おれの手を握った。


「——ッ!?」


 唐突な出来事に思わず身構える。顔と耳が熱く、鏡を見ずとも紅潮していることが分かる。

 そんなおれを見て、彼女は微笑んで言う。


「少し話そっ?」






 そしておれは森の端——ボリアが見えるところに連れていかれた。

 月はまだ夜空の天辺で輝いていて、雲一つなく満天の星がよく見える。


「星がよく見えるねー」


 空に輝く星々を眺めて、彼女はにこやかにそう言った。


「星は天に還った魔術師達——って、よく父さんと母さんが言ってたな」


 ふと思い出した、父さんと母さんの言葉。特に話すことも無いので、何となく言ってみた。


「……離れ離れになっている状況で聞くべきじゃないかもしれないけどさ、ポン君のご両親ってどういう方なの?」


 少しの間沈黙に包まれ、そして彼女はどこか申し訳無さそうに問い掛けてきた。

 その問い掛けに、父さんと母さんとの思い出が蘇る。


 昔からずっと迷惑を掛けてきたのに、それでもおれを見放すこと無く、おれに愛情を注いできた人達。ずっとおれの側にいて、優しくしてくれた人達。

 ……おれを逃がす為に、命を張った人達。


 全ての思い出が、今ではおれの心を苦しめる、暗く重い記憶なのだけれど。


「……何と言うか、親馬鹿な人達かな。おれの馬鹿みてぇな我儘に散々振り回されて……それでもおれに愛情を注いでくれて……」


 父さんと母さんのことを思い出し、伝える——ただそれだけなのに。


「……奴らから逃げる時だって、その時初めて、おれを逃がす為だけに奇跡魔術を得て……」


 涙も、声の震えも、止まらない。


「…………本当に、頭がおかしいのかって思うくらい……良い人なんだ」


 情けなく涙をぼろぼろと零すおれを、彼女はその優しげな茶色い瞳でじっと見てくる。そしておれの手をぎゅっと握り、微笑みかける。


「大丈夫。ご両親はちゃんと助けるからね」


 宥めるように放たれた、優しくて温かい言葉。それを聞いて思い出した、母さんの言葉。


 ——困っている人がいたら、苦しんでいる人がいたら、そんな人達を守れるような魔術師になってね。


 彼女が手を放し、そしておれは涙を手で拭いて彼女に問い掛ける。


「……なあ」

「ん? どうしたの?」


 いざ聞こうとすると、おかしなことを聞いているんじゃないかと思って躊躇ってしまう——が、それでも意を決して彼女の方を向き、問い掛ける。


「……何でお前は、そんなに優しいんだ? こんな見ず知らずの色んな奴らから狙われている餓鬼を、最悪の場合死ぬのに、何で命を張って助けようとしてるんだ?」

「あ、優しい!? いやぁわたしとしては当たり前のことをしているだけなんだけど、褒められるとやっぱり嬉しいねぇ!」


 そう言って彼女は照れ臭そうに空を見上げ、体を左右に揺らした。


「…………」


 聞くんじゃなかった。さっきの雰囲気が台無しだよ。


「……同じなんだよ」

「は?」


 突然言い放たれたその言葉に、疑問の声が口から飛び出てきた。

 そんな彼女は優しく、しかしどこか悲痛そうに目を細めて微笑んでいた。夜空をじっと眺めるその横顔は、過去に思いを馳せているようにも見える。


「わたしも、ポン君と同じでさ……一人でずっと彷徨っていたの」


 ——ミーリィも一人で彷徨っていた。


 その事実に衝撃を受ける。おれと同類だという印象は全く無かったが……


「死にたくない——そう思っていたけど、体も心もぼろぼろで、本当にいつ死ぬか分からないような状況で、でも頼れる人は誰一人としていなくて……そんな時に、ダスさん——そしてファレオに出会ったの」

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