表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲロムスの遺児  作者: 粟沿曼珠
第三章 白熱の冷海
107/168

第百七話 ダス・ルーゲウス愛好家現る

 美貌の男性の件があって、ダスさんは闘技大会に参加することになった。わたしとポン君は観客席でダスさんの勇姿を見届けるのである。


「……何か面倒なことになったな……」

「だね……」


 夕方の大会の観戦用の軽食を買い、わたしとポン君は観客席へと向かっていた。まだ西の空は赤みがかっていないが、早めに行かないとまともに座れない。

 やってもちょっとした賭け事程度だろうと思っていたのだが——ダスさんだけではあるものの——闘技大会に参加することになってしまった。しかも売られた喧嘩を買うという形でだ。


 ……あの人とはもう一悶着くらいありそうな気がする……


 あの強烈な性格故か、自然とそんなことを思ってしまった。


「まぁあのダスが負けるとは思えないけどな」

「同感。あの人、ダスさんがあのダス・ルーゲウスだって気付いていないのかな……?」


 地を這う者達(アポラスト)を壊滅させたことや、仕事で魔術犯罪者を惨殺していたことから、ダスさんはゴーノクル全土でかなりの知名度を誇っているし、『ファレオの魔獣』の二つ名で恐れられている。大人であれば多くの人が知っているはずだ。

 単に気付いていないだけか、知らないだけか——いずれにせよ、彼に喧嘩を売ったのはとんだ不幸であろう。


「ミーリィ、早く行こうぜ? さっきみたいに全然座れないのは——」

「おい嬢ちゃん!」


 と、またもや知らない人から声を掛けられてびくりと体が揺れた。先程とは違って女性の声だ。

 わたしもポン君も険しい顔でその荒々しい声の方を見遣ると——


「お、こえー顔。まァさっきの件があるから分かっけどさ」


 そこには真っ黒の外套に身を包んだ小柄の女性の姿があった。頭巾を深々と被っていて、口元を僅かに覗かせているだけである。よく見ると口の周りに文字や絵の刺青を彫っている。

 怪しさ満載の見てくれだが——目を惹いたのはその背中。ダスさんが持つものとそっくりの巨槍を背負っているのである。


「いやァうぜェのに絡まれたな、嬢ちゃん。ありゃアタシ以上のクズだぜ——ってのはどうでもいいわ」


 腕を組んであれこれ喋っていた女性はこちらを指さしてきた。


「テメェ、ダス・ルーゲウスの仲間か?」


 にやりと笑みを浮かべてそう言われ、思わず身構えてしまった。背負った鉄棍を咄嗟に取ることができるよう、右腕が僅かに上がる。


「そういう貴方はあれですか? ダスさんの熱心な愛好家……とでも言いましょうか」


 有名人となれば愛好家が現れる。それは往々にして芸能人や職人、聖職者に現れるのだが、ごく稀に兵士や傭兵などの愛好家も現れる——と、以前聞いたことがある。

 ダスさんにもそういう愛好家がいて、実際に会ったことがあると言っていた。


 ただ、嫉妬心などによる愛好家同士の喧嘩が時折起こるとも聞いたことがある。酷い事例だと、相手を殺したという事例があるらしい。

 そして彼女が巨槍を持っている以上、殺人など容易くできてしまう。


「……愛好家、ねェ。まァそんなところではあるか。そう身構えなさんな、テメェの豊満で上質な体が台無しだぜ?」


 にやりと笑みを浮かべたまま、彼女はわたしの胸を突いてきた。

 ……この人もこの人で面倒臭そうだな……というかさっきっから凄く馴れ馴れしいんだけど……


「あとそこのガキも。んだよ、武器でも隠し持ってんのか? それか魔腑でも喰ったか?」


 彼女は指をポン君に向けてそう言った。彼の右腕もまた、わたしと同様に僅かに上がっていた。

 図星を突かれ、彼は「う」と声を零してしまった。それを聞いた彼女は腕を組んで嘆息を零す。


「あーダメダメダメ。そこでんな声零すなバカが。ハッタリカマすんだよ。後で教えて——って、アタシにんな暇無ェか」

「……ミーリィ、行こうぜ」

「うん、行こっか」


 やたらと煩い女性を無視することにし、わたし達は振り返って観客席に向かい始めた。


「おォい待て待て!」


 彼女は叫び声を上げてわたしの背中に飛び乗ってきた。体がずんと重くなった——が、彼女はいないものとして進み続ける。


「アタシゃテメェらと一緒にダスの戦いを見てェだけで何もヤベェことする気は——」

「これまでの言動がヤベェと思います」

「わーったわーったッ! 大人しくすっから良いだろ!? な!?」


 彼女はわたしの肩に腹を当て、頭を掴み、身を乗り出して背後からこちらの顔を窺ってきた。

 そんなこと言っておいてこの行動は無いだろう——と言いたくなるのをぐっと堪え、彼女の口しか見えない顔を見る。


 ……口角が上がっていて、反省の様子が全く無い。正直一緒にいたくないけど……もしかしたらその言動が厄除けになるかもしれない。


「……ちゃんと大人しくしてて下さいよ」

「はぁ!? 正気かミーリィ!?」


 ポン君の困惑の絶叫が耳を劈いた。一方の黒の外套の女性はというと、歓声を上げながらわたしの背中から飛び降り、わたしの隣を歩き始めた。


「いやァ最近仲間が誰も来なくてよォ。一人でも楽しいっちゃ楽しいが、寂しさも感じるモンでねェ」

「まあそんなヤバい行動しているから当然だと思う」


 呆れと苛立ちからか、珍しくポン君が知らない人に暴言——といっても軽いけど——を吐いた。

 しかし彼女は何とも思っていない様子で、「違い無ェ!」と言って豪快な笑い声を轟かせた。


 ……彼女の中では、暴れないことが大人しくするということなのだろうか?


 そうやって歩いているうちに観客席への入り口に着いた。

 やはり皆席を確実に取りたいと思っているからか、既に長蛇の列ができている。もっと早く来るべきだったか。


「うーん、席に座れるかな……?」

「おい嬢ちゃん、アタシを先に行かせな」


 彼女はそう言ってわたしの前に立ち、そのまま長蛇の列へと進んでいった。わたし達は彼女の後を追い——


「……あれ?」


 列に並んでいる誰しもがわたし達に順番を譲っている。しかも嫌そうな顔で。


「ありがてェことによ、アタシが列に並ぶと皆譲ってくれるんだよなー。何でだろ?」


 ……絶対危険な人扱いされて避けられているだけですよ。

 というか、そうだとしたらわたし達も危険な人と見られてしまうではないか。とんだ冤罪である。


 お陰様ですらすらと前に進むことができ、入り口のすぐ前にまで来た。

 係員に観戦券を渡し、それと引き換えに一枚の紙——大会の出場者が記された紙を受け取る。

 それを眺めつつ入り口を潜り——


「あれ?」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ