08 行脚
良い機会なので、
家族みんなでエルサニア王都在住の皆さんにご挨拶行脚。
モノカさんのお宅で、最強乙女軍団からハグの嵐の洗礼を受けて、
ミスキさんのお宅で、もっと『黒猫嵐の魔導急便』を利用してねっておねだりされて、
サイリさんの事務所で、男衆の集会への参加をこっそり約束して、
メイジさんの屋台で、久しぶりの天ぷらうどんに舌つづみして、
アシュトさんのお宅で、もうちょっとツァイシャ女王様に優しくしてあげてねってライクァさんに命懸けの陳情をして、
いろいろと駆け足ながらも、しっかりとご挨拶回りが出来ましたよ。
「帰りは『転移』?」
どうしよ、イオちゃん。
みんなの意見が聞きたいね。
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はい、多数決の結果、
ペンネッタ行きの定期便の馬車でのんびり帰ることになりましたよ。
夕方発の最終便ですから、
途中で夜営して、
明日の朝、ペンネッタ着、の予定。
ちなみに我が家での多数決は、現在4人家族なのに、なぜか引き分けは無し。
なぜなら、俺の1票は0.5人分扱い。
まあ確かに、家長として、まだ一人前じゃないし……
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薄暗くなってきた街道、
魔導ライトが道を照らす幌馬車に、
乗っているのは御者のお姉さんと、
俺たち家族だけ。
「これでもちゃんと採算は取れてるから、心配しないでね、お兄さん」
いえいえ、でも大変ですね、
ひとりで定期便の幌馬車を運行してるなんて。
「こう見えてしっかり護衛もこなせるから、安心して家族サービスしてあげて」
男前だね、お姉さん。
「イレージュナです」
「短い間だけどよろしくね」
こちらこそ。
俺はアマツっていう新米冒険者ですけど、
うちの嫁たちは全員腕が立つんで、
大船に乗ったつもりで行きましょ。
「あら、乗せてるのはこっちですよ」
「でも、いいわね、家族旅行」
「王都は楽しんできた?」
あー、いろいろあったけど、めっちゃ楽しかったですよ。
家族サービスもバッチリ出来たかな。
「こんな感じで、お綺麗な方がいるとすぐにサービスする家族を増やそうとするんですよ」
「妻のナナミリスです、よろしくね、イレージュナさん」
「もしかして、"天眼通し"のナナミリスさんっ」
「昔の二つ名、まだ覚えている方もいらっしゃるのね」
「恥ずかしいです……」
えーと、めっちゃ気になるんですけど、ナナさんの二つ名。