23 ヴェルクリ
ヒメ湖のシナギさんたちや、ヒューネ湖周辺の皆さんとも、
申し訳ないけど、今回は駆け足でのご挨拶。
精霊さんたちとは、後ほどじっくり時間を掛けて交流した方が良いかなって。
国をどうこう出来ちゃう種族同士のお付き合い、
お気軽にご近所さん感覚でってわけにもいかんでしょ。
そんな感じでアルセリア王国を抜けて、
次は、リグラルト王国。
そっか、考えてみたら、
アレノマ王国からエルサニア王都に向かう最初の幌馬車旅を、逆走して戻ってるんだよね。
ちょっと感慨深いよ。
あれからいろんなことがあったし。
「まさに最終回のナレーション状態」
やめてよ、イオちゃん。
俺たちの旅はこれからでしょ。
あー、すごく打ち切りっぽいね、これ。
「なんだか申し訳ないよ、仕事なのにこんなに楽しく旅するなんて」
「『転移』での楽々移動と、のんびり幌馬車に揺られるだけの旅」
「同僚から叱られちゃうよ、こんな呑気旅」
ようやくお気付きになられましたか、メリシェラちゃん。
どうせ報告出来ない案件ばかりなんだし、
この際だから、おとなしく旅を楽しんじゃえば良いのですよ。
「でも、アマツさんが3人のお嫁さんたちとイチャイチャしているのも、監視対象として目を離すわけにもいかないし」
「って、よくよく考えたら、そもそも新婚旅行の監視任務って、デバガメそのもの……」
つまりは、メリシェラちゃん自身が通報される対象ってことですな。
「うっ……」
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ヴェルクリの街に到着。
挨拶回りを済ませたら、乙女軍団は全員ショッピングに突貫しましたよ。
俺は、お気に入りの小さな公園で、まったりお茶しております。
メリシェラちゃんも吹っ切れたみたいで、
ヴェルクリ商店街でのショッピングを、思う存分楽しんでるみたいですな。
良いことだと思いますよ、
せっかくの旅行なんだから、羽目を外さない程度に楽しまなきゃね。
「この世界を、自重しながら楽しんでくれているみたいで何よりです、アマツさん」
お久しぶりです、けんちゃん、アヤさん。
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「まさかの、竜のお嫁さん、ですか」
まさに、まさかの、なんですけど。
ってか、俺の身の周りに起きるイベントって、ちょっと尖り過ぎてますよね。
もしかして、俺の方の神様ちゃんが、面白人生にしようとして変な風にイジくったりしてませんかね。
「それは無いと思いますよ」
「観察側が変にちょっかいを出す癖が付くと、段々と手出しをやめられなくなって、自分の思う方向に進まないとイライラしちゃうっていう最悪のパターンにハマっちゃいますから」
「観察対象が自由に振る舞ってくれていることが、結局は一番楽しいんです」
なるほど、納得。
そういえば今回、イオちゃんはレミュさんのことを事前に察知出来なかったみたいだけど、
"天使"だからって何でも出来るわけじゃないんですね。
「そうですね、もちろんイオタさんもレミュラシュレアスさんも、世界をどうこう出来ちゃうほどの強さをお持ちです」
「この世界には、天使、竜族、魔族、精霊、つくも神、他にもいろんな種族の方々がおられますが、優劣では無くて、それぞれ強さの方向性が違うっていう感じなんです」
「複雑なジャンケン、みたいなものかな」
「僕としては、争わないで仲良くしてくれることを祈るのみ、ですね」
俺も出来るだけ、家族円満に務めますね。
「もしかしたらアマツさんの特殊能力は、やりたいことが自然と世界を平穏に導いちゃうっていう、凄いものなのかも」
「僕の『鑑定』では、隠し固有スキルとかはお持ちでは無いみたいですけど」
えーと、よく分からんのですが、今まで通り呑気してて良いってことですかね。
「もちろんです」
「どんどん頑張って、いろんな種族のお嫁さんと仲良くしてくださいね」
善処しちゃっていいのかな……




