16 お世話
竜さんのお名前は、
『レミュラシュレアス』さん。
長い年月、修行に励んで、
念願叶ってようやく龍と成る準備が整ったばかり。
で、竜の里のしきたりに従って、
龍と成るための巣篭もり出来る場所を探して、
ようやく見つけた寝床にちょうど良い感じの場所が、
人里離れた深い森の奥にある、
滝の裏の居心地良さそうな洞窟。
ワクワクしながら諸々準備を整えて、巣作り完了。
さて後は熟睡するだけって、うとうとしてたところに、
俺らがおじゃま虫して起こしちゃった、と。
『……台無し』
本当、申し訳無いです。
その、龍に成る手順ってのはよく分からないんですけど、
俺らに出来ることがあったらなんでも、
は、ちょっとキツいんで、
出来るだけのことはお手伝いしますから、何とぞ穏便に願います。
『いろいろと面倒臭い準備が必要』
『星回りとか、月との関係とか、里長の機嫌とか、もちろん私の体調とか』
『ようやく準備を整えて、あとは誰にも邪魔されずにぐっすり眠るだけ』
『なのに、全部台無し』
えーと、もしよろしければ、
快眠のために、いろいろ頑張りますけど。
『龍の儀式は、一度中断されたら、最初からまるっと全部やり直し』
『人族の寿命では、全然足りない』
……本当ごめんなさい。
『責任取って、再度準備が整うまで、私を養うべき』
全て仰せのままに、
と言いたいところですが、
もしかして竜さんのお世話ってめっちゃ大変じゃないですか、食費とか。
『食が大丈夫なら、お世話、可?』
えーと、この洞窟にお住まいの竜さんに、
毎日三食、美味いものを持ってくれば良し、ですか?
『来るのが面倒なら、これから人族の住処に行く』
すみません、うちはこじんまりした一軒家なんで、
竜さんのその身体では、快適に暮らせないかと。
ってか、今から隣の草っ原を整地して建て増ししなきゃ。
『住も大丈夫なら、お世話、可?』
はい、俺らの住んでる町は、みんな良い人たちばかりですから、
竜さんだからって討伐も差別もしないと思いますよ。
『分かった』
『じゃあ、契約』
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竜さんの里の掟では、異種族と本気の約束ごとをする際には、
"血の契約"っていうのが必要だそうで。
えーと、俺をガブリして血をゴクゴク、みたいな?
『どっちかって言うとペロペロ』
なるほど、ちょっとだけで良いので、
お互いの血を飲ませっこするそうですよ。
ってことで、
竜さんが自分の指を噛んで、
俺が短剣で自分の指を切って、
お互いの血をペロペロ。
『契約完了』
『お互いが死ぬまで、魂が結びついた』
じゃあ、短い間ですけど、よろしくお願いします。
『なんで?』
いや、人族って寿命短いし、俺の方が先にさよならするので。
『魂が結びついてる間は、強い方が基準』
?
『私の寿命まで、あなたも生きる』
えーと、これからは俺も長生きってこと?
『しっかりお世話、よろしく』
……頑張ります。
『じゃあ、人族の住居までの『転移』は、そこの"天使"に任せる』
スゴいっすね、イオちゃんが"天使"って分かっちゃうんですね。
でも、この大きさの竜さんの『転移』って大丈夫かな、さすがのイオちゃんでも。
『ちょっと待て』
ピカリンッ




