10 夜話
zzz……
「即落ちでしたね」
はい、この子は夜更かし苦手なんですよ。
夜は見たまんまのお子ちゃまですから。
「なるほど、つまり奥さまはおふたりってことですね」
そういうことで。
で、よかったらさっきのお話しの続きを、是非。
---
ナナさんの二つ名"天眼通し"
昔、冒険者していた頃の武勇伝。
師匠さんとの冒険の旅の途中、
深い森の奥で、ギルド依頼の討伐対象、盗賊のアジトを発見したナナさんたち。
前衛は、大剣使いの師匠さん。
後衛は、魔導銃使いのナナミリスさん。
圧倒的な強さで賊を薙ぎ倒す師匠さんだったが、
最後に残った賊の首領に、人質を盾にされてはなすすべなし。
ナナさんからの射線を通さぬよう、
子供を抱いた母親の陰に巧みに隠れた首領は、
じわりじわりと距離を取る。
ついには森に紛れて、人質ごと姿を消した首領。
歯噛みする師匠さんの耳に、
かすかに聞こえたカチリという音は、
ナナミリスさんのロングバレル魔導銃の引き金の音。
しばらくして、
子供を抱いた母親が姿を見せてひと言、
『ありがとうございました』
森の奥には、
眉間を撃ち抜かれた首領。
深い森の木々の隙間を通して仕留めたスナイパー。
それからも大活躍した魔導銃使いナナミリスさん、
いつしか"天眼通し"と呼ばれるようになったとか。
「私も御者する前は冒険者してたんです」
「"天眼通し"のナナミリスさん」
「"双砲乱牙"のマリエレンさん」
「ふたりの女性魔導銃使いの勇名は、当時の女性冒険者たちの憧れだったんですよ」
凄いな、ナナさん。
でも、照れ屋さんなんで、あまり深掘りしない方が良いかも。
「後でいっぱいピロートークしてあげてくださいね」
心得ました。
いっぱい照れ顔させてみせますから。
「はいはい、ご馳走さまです」
「アマツさんは寝なくても平気なんですか」
そういえば、幌馬車定期便の組合の方から、
警戒用の新型魔導具が支給されてるんでしたっけ。
「あの『黒猫嵐工房』の魔導具が使われるようになってからは、魔物や強盗の被害が激減したんですよ」
「私も何度も助けられてるんです」
「アマツさんも、安心して休んでくださいね」
……では、おやすみなさい。
おっと、そこのちっこいのを回収しなきゃね。




