無能と蔑まれてパーティーを追放されましたが、本当は『運命操作』でパーティを幾度となく救ってきた能力者でした。戻って来いと言われたけれど、王女様を助けたので王宮で幸せに暮らしていく予定です
聖歴728年。7月27日。
シヴァニア王国にて。
今日この頃。俺、レグ二ルは良くない状況におかれていた。
「なあ、もう……お前要らねぇよ」
面と向かってガゼルにそう言われる。
ガゼルというのはパーティー仲間でこのパーティーのリーダーでもある。
強そうな装備を軽々と着こなしていた。
近くでは他の仲間であるリアとリオンも見ていた。
いつもよりも酷く蔑んだ目だった。
俺はなにが起こっているのかさっぱり分からず、唖然とする。
「なに、とぼけた顔してんだよ。これがどういう状況かわかってんのか!」
「いいや、わからない…………どういうことだ?」
俺は状況がわからず、聞く。
「どうしたもこうしたもねぇ。お前が要らないって言ってんだ。悪いけど俺の……いいや、俺たちのパーティーから抜けてくれ」
「意味がわからない。何故俺が……」
「とぼけんじゃねぇよ。わかってんだろ。お前が無能すぎるからだ」
「無能……? 前に説明しただろ。俺は能力者だって」
「ああ、たしかに説明された。俺は元々あんたに助けてもらったからここにいるんだしな」
「そうだろ」
俺は2年前、モンスターに襲われ、死にそうになっているガゼルを助けた。
いいや、助けたと言っては誤解がある。
助けるように仕向けたが正解だな。
その結果、俺とガゼルでパーティーを組むことになった。
リアとリオンは適当にメンバーを募集した時に集まった。
こうして4人のパーティーが出来上がった。
それが今はこうだ。
3人がそんなことを思っていたなんて、信じられない。
「俺はあんたのおかげで生きられている。でも……でもな、もう必要ないんだよ」
「必要…………ない?」
「ああ、正直にいえば邪魔なんだ。俺たちの成長の邪魔なんだよ」
俺は予想していなかった言葉に驚く。
必要がない?
俺が?
どうして?
もはや理解できなかった。
しかし、それとは裏腹にガゼルは言った。
「だって、あんた全く戦闘で活躍しないじゃないか」
「…………は?」
「リアとリオンは盾を持って前線でモンスターを足止めして、俺は後ろからモンスターを狩る。そしてあんたは周りのサポートをするはずだった。でも、実際にはなにもしていない。近くにモンスターがいるとかの報告しかしないじゃないか! 全く活躍してねぇだろ!」
「そんなことない。ちゃんと力を使って……」
「力って……じゃあ、その力の正体を教えてくれよ」
ガゼルはもう耐えられないといわんばかりの表情で俺を見つめて来る。
俺はいいたいことも反論したいこともあったが、その顔を見て、なにもいえなくなる。
「あんたに助けられたから能力があるって信じてあんたと一緒にここまで来た。でも、あんたが能力を使っている瞬間なんて今の今までずっと見たことがない。そんなので、力があるなんて信じられるかよ」
「そんな……」
ガゼルが言うことに少し傷つく。
本当は違う。
ずっと、使ってきた。
使っているが、ガゼルたちにはわからないのだ。
そういう力なのだから。
「なあ、教えてくれ。いったいあんたの力はなんなんだ!」
問い詰められる。
「ごめん。俺には…………言えない」
「そうか……」
言えない。
言えるはずもない。
「わかった。もういい、あんたと組んだ時間は楽しかった。だけど、もうこれで終わりにしよう。いい加減俺たち3人もうんざりしていたんだ。全く活躍もしない無能に俺たちが稼いだ金をむしばまれるのは」
「いままでありがとね。でも、もう3人で簡単なクエストならこなしていけるし、大丈夫よ。心配しないで」
「そうですね。もう必要ありませんし。いいでしょう」
他の二人も俺に慈悲はないらしい。
前々からやろうとしていたような手際の良さに絶句する。
そして、少しだけ傷ついた。
「荷物をまとめて出て行ってくれ。もうこれ以上俺たちの邪魔は…………しないでくれ」
そう言われて宿を追い出された。
今現在、俺は森の近くを歩いていた。
あの場所からは結構遠ざかっている。
もちろん、ガゼルたちの姿はない。見送ることもなかった。
「…………はぁ、なんだったんだ、いったい……」
荷物を持っていると、ここで暮らした約1年の思い出が浮かび上がってくる。
最初はガゼルだけだった。
たくさん遊んで馬鹿やって。でもクエストはきちんと行って。
そしたらリアとリオンが仲間になって。
楽しかった。
ずっとこのままだと思っていた。
だけど、現実は違った。残酷だった。
俺は深くため息をつく。
「……マジか。こんなことになるなんて……思いもよらなかった」
俺には才能、というか能力がある。
ほとんどの人は持つことが出来ない、約1%のみが所有できる力。
能力者と聞けば、周りの人間はすぐに寄ってきて、ちょっとした人気者になるレベルだ。
聞こえはいい。だが、実際はもっと悲惨なものだ。
特に俺の能力なんかはそう。
どんな力なのかバレてしまえば間違いなく大変なことになる。
人が俺を求め、抗い、やがて……争う合う。
迷惑をかけてしまう。
危険な目にも合わせてしまう。
実際、過去に一度そういうことがあった。思い出すだけで苦しくなる出来事だ。
だから、アイツらには絶対に言えない。…………言えるわけがない。
「これからどうしよっかな。他の町に移動するのもいいけど……正直この町は気にっているんだよな」
この町、ファーラインの景色を見る。
のどかで、広々とした町だ。
「出ていきたくないな」
少しだけ涙が出そうになってくる。
辛くて、泣き出したい気分だ。
そんな時だった。
「!? なんだ、今の!」
物凄い大きな悲鳴が聞こえてきた。
女性の悲鳴だった。
キーンと俺の耳に響いて離れない。
「…………なんだ……いまの。助けに行くべきなのか……」
少しだけ悩む。
もしかしたら大したことじゃないのかもしれない。
その場で転んだ。そんなことかもしれない。
だけど、俺は困っている人を放ってはおけない。
助けたい。
だって……
「俺の力は……そのためのものだろ」
俺は急ぎ足で悲鳴のあった方角へ行く。
木に隠れながら見てみた。
そこにいたのは。
「!? もしかして……王女様か!?」
小柄な体に金髪の髪。
少女といってもいいくらいの女の子。
シヴァニア王国の王女様、ミリア様だ。
しかし、状況はあまりよろしくない。
俺が思っていたよりも酷い有様だった。
馬車が倒れていたのだ。
馬は横たわり、荷台はひっくりかえっていた。
そして最も悪い状況だと言えるのが、
「これは……誘拐ってやつか?」
ミリア様は3人組の男たちに口を抑えられ、連れ去られようとしていた。
声も出せなさそうで、目には涙が見える。
誘拐犯たちは黒いマスクをかぶっていて、姿は良く見えない。
周りをきょろきょろと見ながら、そのままその場を立ち去ろうと考えているらしい。
「まだ……バレてないのか」
幸い、俺はバレていなかった。
木に体を隠しているからだろう。
少し前の自分に感謝だ。
「やだ! 離……」
「うるせぇ! お前は黙って俺たちについてこい!」
「馬鹿……声をあげるな。他の人にバレたらどうするんだよ」
ミリア様が離れようと抵抗するが、全く効かない。
周りには俺しかいないようで、どうにかできるのはどうやら俺だけらしい。
「俺が…………やっていいのか」
怖くなる。
今日、俺は初めてあんな出来事があった。
それもこれもこの……力のせいだ。
もしかしたら、この力のせいかもしれない。
俺は一生能力を隠しとおしていた方がいいのかもしれない。
でも力があったからあいつらと出会えることが出来た。
まさしく、パラドックスだ。
だからこそ、悩む。
使っていいのか。それともいけないのか。
俺は…………どうするのが正解なんだ。
「うぅぅ…………誰か……誰か、助け……て」
ミリア様の弱弱しい声が聞こえた。
もう完全に泣いていて、辛そうな声。
そこで俺は思い出した。
俺の能力がいったい、なんのためにあるのかを。
誰のために使うのかを。
だから、決心した。
「やるぞ……」
俺は腕を上にあげて、思いっきりおろす。
すると、事件は起きた。
「な、なんだ?」
大きな音が鳴り響く。
ゴロゴロとなにかが転がる音。
すると、仲間の一人が気づく。
「……土砂崩れだ! 危ねぇぞ!」
岩がなだれ込んできていた。
これが俺の能力『運命操作』。
俺は奴らの運命を不運に変えたのだ。
だから、土砂崩れという不運なことが発生した。
「な、なに!? 土砂崩れだと!? このそばに山とかはないはずなのに!」
「俺もわからねぇよ。でもあるのが事実だろ!」
「う……仕方ない。早く逃げろ!」
突如として土砂崩れが彼らを襲う。
彼らに道徳心なんかなかった。
自分の命優先で他の仲間なんかいざ知らず、逃げ出していく。
もちろん王女を置いて。
ミリア様は恐怖心が芽生えたのかキョロキョロと周りを見ながら地面に膝をついた。
手は震えているのが見える。
「え……私……死ぬの!?」
辛そうにそう口に出していた。
前から迫ってくる土砂たち。
これに飲みこまれれば確実に死ぬだろう。
「ああ……神よ。誰か…………私をお助けください」
そうつぶやいて、ミリア様は目を閉じた。
そこで、俺はさっそうと木から出ていく。
素早く動き出して、彼女を抱っこした。そして、一目散にその場から離れる。
「…………え?」
ミリア様は俺に抱えられているのに気付いたようで、驚きの表情を浮かべていた。
「あ、あなたは…………」
「えっと……俺は…………ただの旅人です」
走りながら答える。
とっさに思いついたのが旅人だけだった。
さっきパーティーから追放されて、ひとりぼっちですなんか言えるはずがない。
ある程度走ったところで俺は一度止まった。
ゆっくりとミリア様を地面におろした。
「もうここまでくれば大丈夫のはずです。結構走りましたし、あの盗賊団からも逃げれたはずです」
「あ、ありがとうございます……助けてくださって……」
「いえいえ、普通のことをしたまでです」
あくまでいい人っぽく話す。
王女様に嫌われでもしたら命がいくつあっても足りない。
「そうですか…………そういえば、旅人っていってましたけど……荷物はどこにあるんです?」
「…………あ」
さっきの場所においてきてしまっていた。
荷物を持ちながら走ることなんてできないし、仕方がない。
いま戻ったところで多分土砂に飲み込まれて、わからなくなっているだろう。
諦めよう。
「と、特に荷物はないんですよ」
「そうなんですね!」
「じゃ、じゃあ俺はこれで…………失礼します」
一応、俺の役目は無事に終わった。王女様を助けれてすっきりした。
でも、これ以上ここにいるとどうしてあの土砂崩れが来たのかとか調べられてしまえば、俺の能力の正体がバレるかもしれない。
退散することにした。
そう思ったのだが。
「あのちょっと待ってください!」
「え?」
引き留められる。
「もしかして……その様子からして……泊まる宿がなかったりするのではありませんか?」
荷物を持っていない事からそう判断したのだろう。
王女様はそういった。
「まあ、ないといえば……ないですけど」
「そうですか! なら…………お礼として王宮で暮らしませんか!?」
「…………王宮で!?」
「ダメ…………ですか?」
「だ、ダメなんかじゃないですけど……」
驚きのあまり声が出てしまった。
いったいどういうつもりなのだろう。この王女様は。
「じゃあ、決まりです! いまから王宮に向かいましょう!」
にこやかに返事をする王女様がそこにはいた。
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