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3つで1つ

「それで、まあ、僕はゴフトを把握しコントロールできるようになっている。でも国海さんはまだまだ慣れていないし、その出力もまったく選べずに危険な状態なんだ」


確かにその通りだ。今の私はオンかオフかくらいしかない単純なスイッチみたいなもので、コントロールするためには練習が必要だろうなと思っていた。


「ええ、そうですよね」


 私は素直に頷いた。それを見て「まずそうだな」と顎をさすりながら羽田さんは話を続ける。


「君のような能力を制限するには、最初から段階を決めておくのが一般的かな。簡単にいえば5段階くらいで強さを決めておくとか。あとはそうだなあ」



 羽田さんは携帯端末を取り出すと操作しようとしだがすぐに手を止めて私の方を見た。


「ちょっと座学だからね、場所移そうか」


 そう言われて、立ちっぱなしも辛いからと屋内へと移動する。



私は椅子を勧められたままに座り、羽田さんは再び端末を取り出して、壁をスクリーン代わりに資料を開いた。


「一般人のゼウスっ子の講習の時に見せるものなんだけどね……」


 雷のゴフトを受ける者が非常に多いゼウスのゴフテッド用に作られたという資料を見ながら説明を受ける。


「ゼウスがなんで雷を使うか知っている?」


「ええ……と、いえ。どうしてですか?」


 私は神話にはそんなに明るくない。イザナミについては、ゴフトを受けてからは毎日のようにネット上で関連記事を読んでいるから付け焼き刃程度の知識はあるが、他の神の権能の由来などわからない。


「ゼウスは色々あって父親のクロノスと戦っていたんだけど、その戦いの過程で、3巨人、まとめてキュクロプスと呼ばれる神を助けたんだ」


アルゲス   稲妻

ステロペス  雷光

ブロンテス  雷鳴


 ひとつ目の巨人が3柱、名前と司るものをが書かれて画面に現れる。なるほどね。


「助けられたキュクロプスはゼウスに感謝して、無敵の武器である雷霆、いわば雷の力を授けましたとさ」


 めでたし、めでたし。とでも続けそうな口調で彼は言った。ゼウスが雷を使うイメージがあるのは、この貰った力のおかげなのか。また一つ神雑学が増えた。


「それを踏まえてね、ゼウスのゴフトをできる限り無害に使いたいなら、どうする?」


「無害にですか……」



 まあ順当に考えるならば、3つで1つのゴフト、それを細分化して考えろってことだろう。その考えを告げると褒められた。さらに無害化するなら、と考える。


「電光だけ、光だけ出せば安全じゃないですか?」


 我ながらナイスアイデアだと思う。だってゴフトを使って、すべて光として使えばそれはただの目眩しだ。広範囲に電撃が走り、周囲の人が病院送りになんてならないはずだ。

 まあでも何故か病院送りは、日常茶飯事なのだが。


「うんうん、いいね! そうだね、まあ出来ないんだけどね!」


「え?」


 この流れは正解ではと思っていたところに、『出来ない』と急にトーンの下がった羽田さんの声にぎょっとする。


「エネルギーって色んな形態があるでしょ?」


「はい」

 

「熱、光、音、電気エネルギーやらを含めての雷なんだよね」


 まあそうですよね、そう考えると雷って発電とかに使えないのかな? とか思考が流れていきそうになるのを、押し留めて羽田さんの話に耳を傾ける。


「完全にコントロールし、任意のエネルギーに変換するのを成功したのは今のところ一人しか知らないね」


「えっとその一人とは?」


「雨雲カイリ」


彼は天を指さして雲をかき混ぜるようにクルクルと指を回した。


「ああ〜」


納得の声が自身の喉から漏れる。


雨雲カイリ


 ゼウスのゴフテッドであり、『雷鳴ライブ』と呼ばれる、ゴフトを活かしたパフォーマンスで半年前くらいからテレビに引っ張りだこな若手男性アイドルだ。



「あっ! ていうことは、もしかして雨雲カイリと会ったことがあるんですか?」


「いや残念ながらないね、別の支部の人から話を聞いたくらいかな」


羽田さんは肩をすくめて答えた。なんだ芸能人に会えるかと思ったけれども残念だ。


どうやら雨雲カイリが、神話を参考にして自力で雷鳴だけ、雷光だけ、とエネルギー変換を完璧にできるようになったらしい。


それをGCO側が聞いたので、ほかのゼウスのゴフテッドに対して同じようなことができる人が居るかもしれないと思い、もちろんカイリの許可を取って講習を受けるゼウスっ子たちにその解釈を広めているらしい。


ただ残念なことに、まだカイリと同様に完璧にコントロールをできる人はいないようだ。


「まあ出来る人がいないから、代わりに自分の中で5段階くらいでレベル分けをしておくことをみんなには教えている」


「そうなんですね」


 最初の段階分けの話へと戻ってきたわけだが、なんだか思ったより捻りがない。


「でも、神話を理解することは非常に大切だ。そこで! イザナミノミコトについて調べてきたんだけど、国海さんの場合は8段階で制御しようと思う!」


「えっ5では……なぜ8段階なんですか?」


「知ってるかな? 八雷神やくさのいかづちのかみ


 あッ! 予習したやつだと目を見開く。そんな私に羽田さんは頷きで返した。


「知ってるみたいだね、簡単にいえば死んでしまい、腐ったイザナミノミコトの体の部位から生まれた神々だ」


「確か手とかお腹とかですよね」



 そう確かそのうちの一つが陰部なんだよな、羽田さん相手に全部言えとか言われたらキツい。イザナミはヒノカグツチを出産したときに火傷してそれがきっかけで死んでしまったからなあ。


「うんうん……で、次回までの宿題! 八雷神を調べて、それらを1から8まで君の中で順位付けてきてね、理由もつけて」


 一番弱いものから一番強いものまで。今後よく使うのは一番弱いものである、とのこと。人を痛めつけない解釈を考えついたなら、もちろん教えてほしいとも言われた。



「最終的には8段階にするっていうのを考えて、今日はひたすら、ゴフトに慣れる練習をしよう」


 その後私はたくさんの雷を出してみた。出力を小さく小さくしようとしても、難しい。やりすぎると気持ち悪くなった。うっ、と胸元を抑える私に対して羽田さんはよくあるのか心配しつつ、休憩をすすめてくる。


「これが限界ってやつですか?」


「そうだね、無尽蔵にゴフトを使えたらそれこそ神になっちゃうからね。焦らずやっていこう」




 ゴフトを使いすぎてか、その日の夜は疲労感で重い身体では宿題も後回しですぐに寝てしまった。

 


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