表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

暴発

私は神の声を聞いた。




【かわいそうに……我らが子。裏切られて拒絶される、嗚呼……なんて……辛く憎い、憎い憎い憎い憎いニクイ、ニクいナぁ?】


「ホント有り得ないよ」


 息を吐きだしながら呟いた。あの声は、目の前の彼には聞こえていないだろう。だってこれは……


「え、なに? チカ? もっ一回言って」


【そうじゃろうて。其方に我が力を与えよう。なに、憎い相手に復讐する力じゃ】





 頭の中に響いていた声。イザナミノミコトという概念が頭に浮かび、そしてスッと胸の内側に入ってきた何かを感じた。


 久しく感じた事のない全能感、これが……寵愛!! ゴフト‼


 彼はすでにその時には私を見ておらず、お風呂に向かおうとしていた。だが異変に気付いたのか、こちらに戻ってきていたようだ。



 このまませりあがってくる高揚感のままできそうなことをしてみてはどうだろうか。そう私はわくわくした。

 しかしながら端っこに追いやられた私の理性が囁く。本当にしてもよいのか?と。一瞬脳裏に浮かんだ想像ではヒロ君の肉は裂けるだろうなとふんわり思った。



 けれどもそんなことをしたら、私が犯罪者になってしまうではないか!

 私の心は無力感や不安に上塗りされていき、少しでも体を動かすとヤッてしまいそうで、ふっと体の力を抜き膝から床に崩れて無言で涙を流す。


 お風呂場に向かおうとしていたが戻ってきた彼は「どうしたのっ?」と声を上げて慌てた様子だ。そんな彼の横のポットが突然爆発した。ビリビリっと私の怒りに合わせて爆発したのだろう。




「どうしたの? じゃねえーよ‼」


 私が叫んだ瞬間、ポットに続いて近くの冷蔵庫やゲーム機が煙を出し小さな爆発を起こした。

 殺したくはないが、イライラするものはイライラするんだ。私の優しさに感謝するべきところだろう。





「っ、ゴフト…………」



 彼が小声で呟いて、じりじりと私から距離を取り玄関へと向かい走り出した。

 何逃げてだよ! いや、いっそ逃げてくれ!


 と声は出ず思っただけだが頭の中が一瞬白く光ると、彼の方へと私が座り込んでいる床からバリバリ? チリチリと黒い樹木の柄が焼きついていった。



「助けてください!」


 焼き目は彼には届かず、遠くから情けない男の声が聞こえる。



 この焼き目は以前ネットで見たことがあるリヒテンベルク図形ってやつだろうとフワフワした頭で思った。

 「助けて〜」とか言って逃げてったアイツには当たらなかったけど、アイツの大切な家財は駄目になったようだ。



 あー全部全部クソ‼︎ 見た目しか見ないクズだったんだ。アイツに割いた時間が惜しい、イラつく。無性にイラつく‼︎







△△△


 動きたくない。考えたくない。イライラして頭とお腹が熱い。

 しかしながら客観的に自分を見ている冷静な自分もどこかにあって……私はしなければいけないことはわかっていた。携帯端末を持って、震える手で800と打った。ゴフテッド関連の緊急連絡先だ。





 ピッ、ピッ……ピ……。電子音が今の私の耳には痛かった。



「はい、ゴフテッド対策局です。どうされましたか?」


「ぁ…………すいません、ゴフトが……あの家を一部燃やしてしまって、その」


「落ち着いてください。ゆっくりで大丈夫です。ゴフトの能力が出て、家の一部が燃えてしまったのですね?」


 深呼吸をしてくださいと言われ正直に、息を大きく吸って吐く。少しだけ落ち着いた気がするが深呼吸のおかげか、はたまた電話口のお姉さんの冷静だが温かみのある声によるものなのか。



「はい」


「まだ火は燃え続けていますか?」


 私は周りを見渡す。火や炎って類じゃない、これは雷だ。伝え間違えてしまったが上手く舌が回らない。


「いえ、燃えるというより焦げるというか……小さい爆発というか焦げただけで。わからないですが必要かもしれません。混乱しててすみません」


「念のため消防車も呼びますね、けが人はいますか?」


「いないです」


「わかりました、住所を教えていただけますか?」


 私は「うっ」と言葉に詰まる。住所っていうと郵便番号とかを思い浮かべるが詳しくは知らない。


「あっ……彼氏の家なので詳しくは分からなくて、東京都○○区の△△駅の近くにあるメゾン・サクラカワの401号室です」


「ゴフテッド対策局職員も向かいますので安全な場所に退避していてください」





 よかった、十分伝わったらしい。電話は到着まで繋いだままにしておくように言われ、私は少し玄関側に移動して呆然と彼らを待った。





△△△


 警察やらゴフテッド対策局員やらが到着し、私は取り押さえられたかもしくは保護された。どうやら話を聞くに彼氏も800に通報していたようだった。


 あんな男なんてどうでもいいや。マジで最悪としか言いようがない。

 確かに私は化粧をしていました。眉毛もなく目も小さいつぶらな瞳です。鼻もがっつりシャドウ入れて高く見えるようにしています。マスカラ塗って睫毛も伸ばしています。


 だからって私のすっぴん見てあの態度なに? 失礼すぎだろクソがっ‼



 そんな荒ぶる心も関係なく私は移動することになった。ただしその前に薬を投与してできる限り暴発を防ぐ必要があると言われた。

 看護師に心を落ち着かせるための注射を左腕に打たれて5分もしないうちに、沸騰する怒りが頭からベールを被るようにサーッと血の気が引いてくる。思考がクリアになっていくように感じる。




「効いてきたみたいです」


「効いてきましたか、気分が悪いなど体調で何か悪いところはありませんか?」



 少し離れて私を見守っていた看護師に言われた通り、効果が表れたので報告する。

 ちょっとだけ気まずいのでパーテーションでも欲しかったがこの状況でそんなものはない。いやもしかしたら市街地でのゴフト暴発などであったらあるのかもしれない。



「特にありません。……というか注射なんですね、錠剤のイメージがありましたから」


「緊急性が問われるので今回は注射ですね、錠剤に比べて効果が強くすぐに表れますから。よくテレビとかで言われている有名な錠剤は……今後常用することになります」


「へえそうなんですか。やっぱり飲むことになるんですね」



 感心を示し、常用薬ができるのか……飲み忘れないかな? とか少し不安になった。そのあと軽く問診をされて看護師は去っていった。


 また先ほどまで必要最小限失礼にならない程度の応答だけして、ムスッと無言で注射を打たれていた私が普通に話せる程度の理性が戻って来ていたことには驚きを感じたものだ。




 移動する前に、すっぴんだしパジャマだったので着てきたワンピースに着替えさせてもらった。ただし化粧はさせてもらえなかったのですっぴんのままだ。


 ただ、これを着て後悔する……顔面を作った後でないと着る資格がないお気に入りのワンピースは顔と服とで絶望的なアンマッチを引き起こしていた。

 内心失敗したと思いつつもお願いして着替えた手前パジャマに戻るのも憚られる。このまま移動することになり今度は悲しみから涙が出そうだ。




もうどうにでもなれ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ