ララのお仕事
家を出たララは王宮に向かった。
王宮は夜になるとライトアップされ外堀の池の周りには広場がある。
小高い丘にある王宮は白い城壁に青い屋根がとても美しい。
王宮の広場は高い壁に覆われていて自由に入ることはできないがその周りにはいくつものレストランや宿泊場があり人気のデートスポットになっていた。
広場より中に入るにはゲートで入場許可書を見せなければならない。
広場への入場は警護にあたる騎士団や城内で働く者、そして王宮の隣にある宴会施設で働く者は入場を許可されていた。
入場門では馬に乗った警護の騎士2人と小柄な中年男が検問作業している。
中年男「ララちゃんお疲れ!あれ顔色良くないよ?」
ララ「…そう?おじさんはいつも元気そうね」
おじさん「おじさんは太りすぎて困ってるよ。へへへ」
ララは入場許可書をコートのポケットからだしておじさんに見せる。
おじさん「はい、オッケーね。今日は宴会場が目が回るほど忙しいってエイミーが言ってたよ」
ララ「何かのお祝い?」
おじさん「皇子様の入学祝いパーティーらしいよ。へへへ」
ララ「…なるほどね」
おじさん「へへへ、体調が良くない時はあまり無理しちゃいけないよ」
ララ「はーい、ありがとうおじさん」
ララはそう言うと王宮の裏側にある宴会施設に向かった。
警備騎士「今の女性は?」
おじさん「宴会場で雑用の仕事をしている子だよ。へへへ、昔と違って今は王宮の主な仕事は外交だから宴会が多くてな。人手が不足してんだわ」
ララは宴会施設の裏から厨房横の倉庫に入りコートを椅子にかけて作業用のエプロンをつける。
背の高い女が空のワインボトルを抱えながらドアを開けた。
ララ「エイミーさん!お疲れ様です!」
エイミー「あぁララ、今日も来てくれたんだね。お疲れ様!」
ララ「私がやります」
ララは空のワインボトルを受け取ってケースに入れた。
エイミー「ありがとう、ずっと忙しくて全然片付いてないんだ。ララが来てくれて助かったよ。ワインを追加で10本持ってきて。それと皿を洗って棚に補充しといてくれる?」
ララ「はい!承知しました!」
エイミー「そうだ、これ忘れないうちに渡しとかなきゃ。先月のお給料。ありがとうね」
そういうとエイミーは給与の入った包みをララに渡した。
ララ「ありがとうございます!」
ララ(これで今月の薬代は何とかなりそう…)
エイミー「臨時で手伝ってくれた芝刈りの分も入ってるからね」
ララ「助かります。…あの臨時のお仕事は今月はないでしょうか?」
エイミー「そうねぇ、芝刈りは芝が伸びなきゃやらないし。あとは…」
エイミーは眉間にしわを寄せて考え込んだ。
エイミー「あるにはあるんだけど…良い仕事じゃないんだよ…」
ララ「…私には難しい仕事なのでしょうか?」
エイミー「いや難しくはないんだ…むしろ楽だろうけど…まあ少し考えとくよ」
ララ「すいません…よろしくお願いします」
エイミーはララの肩をポンと叩き厨房に戻って行った。
ララはワインを取りに別棟の倉庫に向かった。
ララ(10本は流石に一回じゃ持てないかな…)
その時近くから人の声が聞こえた。
女「ねぇ皇子様、特別な入学のお祝いを用意したんだけど…」
男「レディは…だいぶ飲み過ぎてしまったようですね」
その声はノアだとララはすぐに気づいた。
反射的に木の影に隠れる。
ララ(ノア皇子だ!いやだ、こんな時に会いたくないよ…)
女「お酒に酔ったんじゃなくて、貴方に酔ってしまったのよ…」
ララが息を潜めて隠れていると会話のつづきが聴こえてくる。
ノア「……それは大変ですね……」
女「ねぇ、ノア皇子?今日は王宮に泊まりたいな。もっとあなたに酔いたい気分なの」
ノア「今夜は残念ですが…先約がありまして」
女「先約!?」
ノア「かわいい声で何度もおねだりしてきて、朝まで離してもらえないんですよ」
ララ(!!!!?)
女「!!!?…もう帰るわ!」
そう言うと女は宴会場に戻って行った。
ララもその音に紛れるようにさっとその場を離れた。
ガサゴソ!
ノア「おい、いくぞ」
ノアが茂みに向かって話しかけると茂みから銀色の何かが飛び出してきた。
マックス「僕がいるの、いつから気づいてた?」
ノア「最初から。何をそんなにのぞきたかったんだよ」
マックス「胸が大きい美人だったからさ〜」
ノア「…今日はそんな気分じゃないんだ…」
マックス「え、朝までポーカーやるって本気だったわけ?」
ノア「先約だからな」
マックス「ノア負けないからつまんないんだけど」
ノア「一勝でもしたら何かひとつお願い聞いてやるよ」
マックス「えっ!本当?」
ノアとマックスも宴会場に戻って行った。
ララは小走りでワインの保管してある倉庫に着いた。
ララ(…あの女の人は皇子に言い寄ってたのかな?ノア皇子ってやっぱりモテるんだな…当たり前だけど、全然生きてる世界が違う…)
ワインの箱を運ぶララには、今夜の王宮はいつもより煌めいてみえた。