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ナターシャの薬

ナターシャ「お姉ちゃん、お姉ちゃん、スープ冷めちゃうよ?」


 ボーッとしていたララはナターシャの声で我にかえった。


ララ「…あ、うん。そうだね」


 今日もララとナターシャは2人で夕飯を2人で食べていた。


ナターシャ「お姉ちゃん、玉子焼きいらないの?」


ララ「…うん。ちょっとダイエット中なの。ナターシャお姉ちゃんの分も食べていいよ」


ナターシャ「わーい、ありがとう!」


ララ「ううん、…毎日同じご飯になっちゃってごめんね」


 最近の食事はじゃがいものスープと卵焼きとパンばかりになってしまっている。家計内で用意できるギリギリのメニューなのだ。


ナターシャ「ううん!ナターシャお姉ちゃんのご飯好きだよ」


ララ「…そっか」


 美味しそうに玉子焼きを食べるナターシャを見てララは微笑んだ。


ナターシャ「ねぇ、今日は王子様、学校にいた?」


 ララの心臓がトクンとはねた。


ララ「い、いたよ」


ナターシャ「お姫様とか悪者とかはいないの?」


 ナターシャは王子様とお姫様が出てくる童話をよく読んでいるので王子様に興味深々だ。


ララ「お姫様は…どっかにいたのかもしれないけど、お姉ちゃん目が悪いから見えなかったよ。悪者は…多分いないんじゃないかな。いても、ほらアルロお兄ちゃんがみんなやっつけちゃうから」


ナターシャ「そっか…じゃあ王子様は学校でなにをしてるの?」


ララ「そりゃもちろん、勉強だよ。あとは……か、かくれんぼ…とか?」


 放課後の出来事を思い出したララはドキドキをぶり返してしまった。


ナターシャ「かくれんぼ?」


 ナターシャが小首を傾げる


ララ「あはは…でも今日、はっきり皇子様のお顔が見えたんだけど…」


ナターシャ「どうだった?」


ララ「めっっっちゃかっこよかった!」


ナターシャ「わー!お兄ちゃんより?」


ララ「…まあ、お兄ちゃんとはちょっと違うって言うか…まず髪の毛が絵本の王子様と同じでとっても綺麗な青色してるの、あとは瞳が優しげで、甘い感じっていうか…吸い込まれるっていうか…。体もお兄ちゃんも大きいのにそれより大きくてがっしりしてて、それに何より声が最高だった!」


ナターシャ「…?よくわかんないけど。いいなぁ。ナターシャも王子様見てみたい…」


ララ「ふふふ」


 瞳をキラキラさせるナターシャをララは愛しく見つめる。



ナターシャ「ゴホンッッ!ゴホゴホ!」


 ナターシャが激しく咳き込んだ。


ララ「!!ナターシャ!」


ナターシャ「ゴホゴホ!」


 ララはナターシャの背中をさする。


ララ「夜はやっぱり咳がひどくなっちゃうね…」


 ナターシャを寝室に連れて行くと部屋の暖炉をつけベットに寝かせた。


ナターシャ「ゴホンッ!ゼェゼェ…ゲホッ!」


ララ「お姉ちゃん、お薬用意してくるから少し待っててね」


 ララは寝室のドアをそっとしめて台所へ向かった。



ララ「………」


 残り僅かなナターシャの薬を見つめるララ。


 ナターシャの薬は高額な薬だ。


 しかもここ1年は材料の薬草が不足していて以前の2倍の金額になっている。


 アルロが渡してくれている生活費は決して少なくなかったが薬が値上がりしたことと、ナターシャの病気が悪化していて飲む回数が増えたことで家計は破綻寸前だった。


 そのことをララはアルロに言えずにいた。


 アルロが妹たちに生活費を少しでも多く渡すために夜間警護の勤務を増やしてもらったことをララは知っていた。


 そこまで頑張っている兄に、妹の病状がよくないこと、生活費が足りていないことを正直に伝えることはララにはできなかった。


 学校に行かないことも考えたが、そうすると将来、妹の病気が完治するのは難しいだろう。


 何とか高等な治癒魔法を習得し自分の魔力を全て使ってでも妹の病気を治したい。  

 

 その自分自身への期待が最近はララの心を重くしていた。


ララ(お父さんから買ってもらったメガネも売ってしまったし、もうお金になりそうなものはないわね…)


 ララは薬と水をトレーに乗せると寝室へむかった。


ナターシャ「ゴホンッ!ゲホッ!ゴホンッ!」


ララ「大丈夫?今咳をとめてあげるからね」


 ララはナターシャの胸に両手を当てて魔力を集中させた。


 ララの手からわずかに光と冷気がでて、激しく上下していたナターシャの胸が穏やかな上下運動に戻る。


ララ「さあ、今のうちにお薬飲もうね」


 ナターシャは薬を飲んで横になるとすぐに寝てしまった。


 ララは力無く床に座りナターシャの胸の上に手を置いて、それが規則正しいスピードでゆっくり動くのを感じていた。


 ララの今の魔力では咳を2.3分止めるのがやっとだ。それでもかなりの体力を使ってしまい立ち上がるまでに1時間ほどこうやって座り込んでしまう。


 (この穏やかなリズムが止まってしまったら、どうすればいいのだろう)


 ここ数年、ララはそんな恐怖に何度も押し潰されそうになっていた。


 (神様は両親を失った時のあの悲しみを、あの無力感をまたわたしに味合わせるつもりなのだろうか……)


 とにかくララは薬代を早急に用意しなければならなかった。


 しばらくするとララはおぼつかない足取りで立ち上がり、髪を魔法で黒くしてから一つに縛り。足首まである長いコートを羽織りフードをかぶると家から出て行った。

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