決断
ナターシャが治療を受けた翌日、昼過ぎに薬屋の役人はララの家にやって来た。
机を挟んで向かい合って座るララと役人。
ララは役人にあたたかい紅茶を入れた。
役人「報酬は一晩で約10万、1週間に1回以上仕事を引き受けてくれている間は薬を定価の半分でお売りします」
ララ「えっ…一晩で10万…」
あまりの高額な報酬にララは驚きを隠せなかった。
役人「ララさんは自分の価値をご理解されてないようですね」
役人は紅茶を一口すする。
役人「ララさんは魔法魔術学校に在学されていますよね?治癒魔法を使える女性は価値が高いのです。その…男性からすると行為の時に治癒の魔力を受けると元気になるわけですから…ね」
役人の口元が少し緩み、ララはなんとも言えない気持ち悪さを感じた。
役人「それに学費も高額なのではないですか?学年が上がるにつれ実習も増えて忙しくなると聞きましたよ。今のように毎晩働きながらだと大変でしょうねぇ」
ララはうつむいたまま手に持ったカップの紅茶にうつる自分を眺めていた。
役人「何より成長期に入る妹さんは病状がさらに悪化する可能性が高いのではないですか?この仕事なら毎日働かなくても十分に稼げる。そうすれば夜も妹さんのそばにいられる日が増えますよ」
畳み掛けるように饒舌に説得をしてくる役人。
役人「1週間に1回、我慢すればいいだけですよ」
その言葉にララの表情がこわばる。
役人「怖いのは最初だけです。目を閉じていれば終わります。そのうちに体が慣れてくれば、どんどん…良くなりますよ」
役人は最高に気持ちの悪い笑顔でララを見つめた。
ララ「!!!」
ララはその笑顔に心底、嫌悪感を抱いた。
しかし、役人の話を聞いてこの仕事を選ぶ他にナターシャの闘病と自分の学校の両立は不可能だと思った。
役人「悪い話じゃないと思いますよ…どうしますか?」
ララ「……やります」
ララは下を向いたまま小さな声で答えた。
役人「ふふふ、最善の決断だと思います。時間がたつと決心がにぶります、今夜さっそく仕事を始めましょう。もちろん現金即日払いです」
ララ「!!そんなにすぐに……」
役人「……そうすれば退院の日にしっかりお薬を用意できますよ」
ララ(そうだ、ナターシャの退院までに薬の準備をしておくように言われたんだ)
ララ「はい…わかりました」
役人「今夜、9時にはお迎えにあがりますので、こちらの洋服を着てお待ちください。紅茶ご馳走様でした」
役人はそう言うと黒いドレスをテーブルの上に置いて、部屋を後にした。
ララは立ち上がることもできず、座ったまま俯いていた。
手に持ったカップの紅茶にポタポタと涙が入り水面を揺らす。
ララ「うぅ……うぅ」
ナターシャのいない静かな自宅にララの咽び泣く声が響いた。
ララの家を出て馬車に乗った役人はここ何年かで1番の上機嫌だった。
御者「旦那、ごきげんですね。仕事がうまく行ったんですかい?」
役人「ああ、何年も狙ってた上玉の女が手に入った。今夜、やっと味見ができる…」
(最初の客は俺だって知ったらあの女どんな顔するかな…)
御者「味見は旦那の特権だから羨ましい限りですぜ」
役人「こんな危ない仕事やってんだ、そのぐらいできなきゃやってられるか。しっかり仕込んでたんまり稼いでもらわないとな」
馬車の上で役人は溢れ出る笑いを堪えきれずに片手で口元を隠した。
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