悪女の誕生
ララは放課後、図書館のかたすみでイスに座りため息をついた。
今朝、教室でアルロと関係を聞かれた。
女子生徒「ねぇ、こんなこと聞いたら失礼かもしれないんだけど騎士団のアルロ様とはどういったご関係なの?」
教室で女子生徒4.5人に囲まれて質問された。
ララ「…(どうしよう…なんて言おう…)…」
女子生徒「恋人なのかしら?」
ララはぶんぶんと首を左右にふる。
女子生徒「ちがうの?ずいぶんと親しげに見えたけれど…」
ララ「親しくはしてますが、私は彼を特別な存在とは思っていません。(恋人じゃないからね!誤解しないで!)」
女子生徒がざわついた。
女子生徒「親しくしているとは…その…身体の?」
ララ「そうです。(身体の血がつながってるからね)」
女子生徒「!!!」
ララ「なにか問題……(ん?誰か泣いてる?よくみえないな)ありますか?」
ララはいつものように目を細めて女子生徒を見回した。しかし、それは女子生徒からしてみたらララが睨んでいる様にしか見えなかった。
女子生徒「ひぃ!ありません!」
逃げる様に女子生徒達は走って行ってしまった。
ララはなぜ彼女たちが行ってしまったのか、まったくわからなかった。
ララ(…親戚だとおもわれたのかな…)
教室にいた他の生徒たちもララたちの会話に耳をすましていた。
男子生徒「マジかよ。体の関係ってこと?」
男子生徒「すげぇな。うらやましい」
コソコソと生徒たちが話す中、ノアとマックスも同じ教室にいた。
マックス「…聞いた?」
ノア「…いいや、何にも」
ノアは読んでいた本から目を逸らさずにこたえた。
ノア(体の関係って…ものすごく大胆なことを平気で言うんだな)
マックス「耳ダンボにしてたくせに、嘘つき〜」
教室が、ざわつく中まさかのこのタイミングでアルロがララをたずねてきた。
アルロ「おはよう、ララ!今日もとってもかわいいね!」
まるで、彼の金色の髪と長いマントからは人を魅了するキラキラが振り撒かれているようだ。
教室中の視線がララとアルロに集中する。
ララ「!!!何しにきたの?(いつも無駄にキラキラして!やめてよ、また色々聞かれちゃうじゃない!)」
アルロ「心配だから今日も学校終わったら送っていこうか?」
ララ「……結構です!」
そう言ったララは教室の生徒達がやたら静かになりみんなに聞こえてしまっているような気がしてアルロにしか聞こえない小さな小さな声で続ける。
ララ「…お兄ちゃん、気持ちは嬉しいけど、これ以上目立ちたくないの!暗くなる前には絶対帰るから大丈夫!本当に大丈夫!」
ノアはその様子を今度は本から目を離しじっと観察していた。
アルロ・キッシンジャーが優秀で女性に人気があるというのはノアも聞いたことがあったが、同時に女と酒に興味がないつまらない男だとも聞いていたので目の前のアルロを見て噂はあてにならないと思った。
アルロはノアの視線を感じた。そしてララが昨日皇子に興味を持っていたことを思い出してなんだかおもしろくない気分になった。
アルロ「もう、恥ずかしがり屋さんだな。そんなとこもかわいいけど。じゃあ帰り気をつけてね、変なゴリラにも要注意だよ!」
ノア(アルロ班長は彼女にすっかり夢中なんだな…まぁ確かに彼女はものすごくかわいいしな。ん、ゴリラ?林にゴリラなんているのか?)
ララ(…また皇子様をゴリラって言ってる…かっこいいのか聞いただけなのに…やきもち?それともそんなにゴリラに似ているのかしら…)
ララ「もう!しつこい!」
ララはついつい声を大きくしてしまった。
アルロ「怒っててもかわいいね。でも本当に気をつけてね。暗くなる前には必ず帰ること」
チュッ!
アルロはノアをちらりと見てから、キラキラの笑顔でララの頬にキスをすると軽快にマントをなびかせて去って行った。
ノア(おぉ…頬にキスした…てか、柔らかそうなほっぺだな…おいしそうな…。ん?アルロ班長、俺をみてた?睨んでたのか??)
ララ(もう!いつまでも子供扱いするんだから…やれやれ、唾ついてないかな)
ララは手の甲でキスされた頬をぬぐった。
教室にいた全員がその一部始終を衝撃的感覚で見ていた。
女子生徒(キスされた!)
男子生徒(うらやましい!)
マックス(拭かれてるし…)
ノア(拭いた…)
教室の隅では女子生徒数人が集まりヒソヒソと話をしていた。
女子生徒「…アルロ様あんなに冷たくされて…可愛そう…なんて悪い女なの」
女子生徒「本当、とんでもない悪女ね」
ララにその声は聞こえなかったが、みんなが自分とアルロの話をしているだろうことはララにもわかった。
その時からララが悪女だという噂がじわりと広がりはじめた。