夜狩大会
ノアとララは翌日以降も気まずい雰囲気が続いた。
ノアはもう一度謝りたかったが、ララはあきらかにノアを避けていた。
マックスが教室でノアの顔をのぞきこむ。
マックス「朝から元気ないねん」
ノア「べつに…」
マックスは肩をすくめた。
マックス(ノアがこんなに元気ないなんて珍しいな…)
マックス「もうすぐ夜狩大会だねん。誰とペアになるかワクワクしちゃう〜」
ノア「夜狩?なんだよそれ」
マックス「えー!知らないの?男女ペアになって男子が一晩で林にいる魔獣を魔法だけでどれだけ狩れるか数を競うやつだよ」
ノア「それ、ペアになる必要ないだろ」
マックス「ノンノーン、魔力だけしか使えないで狩りをしたらどうなると思う?」
ノア「…疲れる」
マックス「そうそう。だから女子は回復魔法で男子を回復させひたすら狩りをさせるってこと」
ノア「………」
マックス「優勝したら賞金もあるんだよ〜」
ノア「へー」
マックス「うわー興味ない返事」
ノア「いつやるんだ?」
マックス「来週だよ。今日の昼にはペアの発表があるからね」
ノア「発表?」
マックス「そう、成績上位者からペアになるんだよ」
ノア「差ができちゃうだろ」
マックス「いいんだよ、学年対抗だから」
ノア「なるほどな」
マックス「ノアは首席だから、女子の成績最上位の子とペアになるね!僕はかわいい子とペアになって癒されたいな〜。楽しみだな〜」
▲△▲
ノア・アレクシス & ララ・フローレン
1年生のペア発表の一番最初に2人の名前は書いてあった。
昼休み掲示板前は生徒であふれかえり、それぞれが喜んだり、残念がったりしている。
女子生徒「悔しい!ノア皇子とペアになりたかった!!」
女子生徒「あの悪女が成績最上位なんて本当かしら?先生に媚び売ってるんじゃないの?」
ノア(まさかララがペアの相手とは…)
ノアが辺りを見回すと、少し離れたところに掲示板を見にきたララもいた。
ララ(うそ…ノア皇子とペアなんて…)
ノアは意を決してララに向かって歩いていった。
ノア「この間は…ひどいことを言ってすまなかった」
ララ「……」
ノア「…夜狩大会、一緒にがんばろう」
ララはノアの誠実な態度に胸を打たれたが、それ以上に気恥ずかしい気持ちが強くその場から急ぎ足で逃げ出してしまった。
ララ(あんなに謝ってくれてるのに逃げるなんて…私のバカ!でも皇子といると恥ずかしくてしょうがない…)
ノア「……」
女子生徒「何あの態度!ひどい!」
女子生徒「ひどい!」
ノア(夜狩大会、こんな調子でちゃんとできるのか…)
ノアは不安な気持ちでその場を去った。
▲△▲
女「では、今から夜狩大会の練習を始めたいと思います」
校庭に集められた一年生達。
午後の授業は早速、夜狩大会の練習が始まった。
指導にあたるのはミニスカートをはいた背の低い可愛らしい女の先生、アビーだ。
アビー先生「始める前に男子の現在の魔力値を測定します。女子はペアの男子の魔力値を記録してください」
魔力の測定は魔力玉というビー玉の様な道具で測定する。握ると魔力値が数字で映し出される。
アビー先生「女子生徒は魔力玉を取りに来て下さい」
ララは魔力玉を先生から受け取りノアの元へ向かった。
ララ(恥ずかしくても逃げない、怒らない…うん、がんばる!)
ノアは自分に向かって歩いてくるララが見えた。自分を探して歩いてくる姿に妙に心が踊る。
ララ「…魔力玉です」
ノア「ありがとう」
魔力玉を渡すララの手には黒いレースの手袋がはめられている。
ノアが魔力玉をギュッとにぎる。しばらくしてから開かれた手のひらをララとノアは2人で覗き込んだ。
魔力は通常が50前後。
魔術学校に入学するような人は60前後ある。
生まれた時からある程度の魔力は決まっているとされ、努力をしても魔力は10上がるぐらいが限界だと言われている。
また、魔力が強くてもそれを使いこなすにはもちろん鍛錬が必要だ。
ララ「80ですね!…やっぱりすごい…」
ノアはニコリと笑った。王族は遺伝的に魔力が高い傾向にある。
ノア(気分や体調で、5ぐらい上下するけど、80なんて高い魔力初めて出たな…)
ノア「ララもやってみる?」
ララ「…笑わないで下さいよ?」
ララも魔力玉をグッと握る。
ノア「70!すごいな!」
ララ「今までで最高値です!」
嬉しそうに笑うララ。
ノア(かわいい…笑顔かわいい…)
周りの生徒もみんなざわざわと魔力測定をしている。
アビー先生「次に、男子は上空に魔力砲を1発打ち上げて下さい」
魔力砲とは魔力を砲弾のように勢いよく出すもので、1番基本的な攻撃魔法だ。
男子生徒は上空にむかって手のひらから魔力砲を撃つ。
バン!
バン!
あちこちで衝撃音がなる。
ララも他の女子生徒もおもわず耳をふさぐ。
ノアも右手を上空に高く上げ手のひらから魔力砲をだした。
バァン!
ひときわ大きな衝撃音が鳴り響いた。
ララ(…なにこれ!かっこいぃ!)
アビー先生「そうしたら、もう一度魔力を測定して下さい」
ノアはもう一度魔力玉を握る。数字は75に変化していた。
アビー先生「魔力砲1つにつき、どの程度魔力を消費するのかしっかり確認してください」
ララ「5消費するんですね…」
ララはしっかりメモを取りながら言った。
アビー先生「次は女子生徒が回復させるのですが、直接回復法ではなく、1.2メートルぐらい離れて回復波により回復をさせて下さい」
ララは後ろに5歩ぐらいさがりノアもうしろに数歩さがる。
ララはノアに向けて片手をだして集中して手のひらから回復の波動をだす。
ノア「おっ!?」
ノアは胸のあたりがほのかに暖かくなるのを感じた。魔法玉をにぎりその数値が80になったのを確認してノアが手でOKの合図をララに出した。
アビー先生「男子生徒がちゃんと最初の値まで回復できたか確認できましたか?」
ノア「さすがだな、ありがとう」
ララ「……いえ」
ララは、はずかしくてうつむいてしまう。
アビー先生「皆さん大丈夫みたいですね。では、林での実習に移ります。馬に乗り林に入り、魔力砲で下級魔獣を1匹捕まえ、その後魔力回復して、こちらまで戻って来てください」
みんなでゾロゾロと馬小屋まで移動する。
するとノアはララの様子がおかしい事に気がついた。
ララ(どうしよう…)
足取りは重く明らかに青ざめている。
ノア「どうした?何かあった?」
ララ「あの…わたし…馬に」
ノア「馬?」
ララ「…一人で馬に乗れないんです」