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禁書

 時は300年前に遡る。


「ぜえぜえぜえ。何だこの硬さは!これは本当に、ただの本なのか」


 全身から汗を吹き出しながら魔王ツウーンライは、目の前にある重厚な本を睨みつけていた。


 魔王ツウーンライが全力を込めた剣撃を放ったが、その本には全く傷をつける事が出来なかった。


「クソ、この本が従者の目に触れれば裏切る者や暴走する者が現れる。何とか破壊しないと……仕方ない。従者の力を借りるか」


 従者とは魔王ツウーンライに創造された108人いる部下の事だ。


 魔王ツウーンライは戦闘態勢を解くと、耳に手を当てて全ての従者達に通信で連絡を取った。


『全従者に告ぐ。勅命だ!30分後に従者全員の全能力を借り受ける。【勅命 帝王への供物】を使用する。不都合な者は申し出よ。それ以外の者は勅命への準備をせよ』


『『『『御意』』』』


 通信には次々と従者からの快諾の返事が舞い込んできたが、その声色は歓喜に満ちているようだった。


 従者は全て魔王ツウーンライのためにのみ存在し、魔王ツウーンライが定めし使命を遂行する者として作られているので、直接魔王ツウーンライに自分の能力を使用される事に格別の喜びを感じるのだった。


 魔王は30分の経過を待つために、目の前にある分厚い本について色々と試してみた。


「取り合えず召喚してみるか。来い!フェニックス」


 魔王の掛け声に反応して巨大な炎の魔法陣が現れると、そこを潜り抜けるように炎に身を包まれた巨大な鳥が現れた。


『クエェェェェェェェェェェェェェェェェェ』


 大きな鳴き声と共にフェニックスは巨大な翼をはばたかせると、大きなクチバシを開けて魔王が敵と認定した本へと高速で攻撃を仕掛けた。


 フェニックスが本にぶつかると周囲100メートルは爆炎に包みこまれた。


 灼熱の炎は3,000度を超えていたが、龍皮紙で作られた本を喰らい尽くそうとその炎は再生を繰り替えし、爆炎の温度を急激に上昇させていった。


 爆炎を燃料にさらなる爆炎を再生産していたが、炎の温度が6,000度をこえた時点で爆炎がやんだ。


 時間にして5分位だろうか。


 ここが異空間でなく街中で行われていたら、その都市は爆炎でクレータと化していただろう。


 嵐のような炎の暴力が止むと、ゆっくりと視界が開けてき、無傷の黒い表紙が現れた。


「やはり無理か。本に傷一つ付いてないようだな。ありがとう、ヤキトリはもう帰っていいぞ」


『クエェェェェェェ』


 ヤキトリと呼ばれたフェニックスは嬉しそうに鳴くと、炎が霧散するようにその場から消えた。


「そろそろ時間かな。都合が悪い従者はいなかったようだな。最初は物理攻撃から行くか。武器は四死刀(ししとう)五乃型(ごのかた)がいいな」


 従者達と繋がっているストレージから物理攻撃特化型のネルが愛用している刀四死刀(ししとう)をとりだした。


 四死刀は通常、一乃型物体断絶、二乃型魔力断絶、三乃型空間断絶、四乃型天理断絶の四本の刀の状態である。


 そして魔王が今手に持っている五乃型は四本の刀が融合した状態であり四死刀ししとう本来の姿である。


 しかしあまりに強力なために、この状態を維持できる時間に制限があった。


 もっともデメリットを考慮しても、その刀の力は四つの絶対断絶を誇る最強の武器の一角となっている。


「スピリト【勅命 帝王への供物】発動。これで従者のレベル・能力の全てを一時的に借り受ける事ができる。さあて、やるか」


 スピリトとは個々人が目覚める特殊能力であるが、万能とゆうわけでなく、メリットもあればデメリットも存在する能力である。


 例えば魔法能力を上げるために、筋力が著しく低下するスピリトなどである。


 魔王は腰に刀を差し、一呼吸すると抜刀の構えをした。


 通常の魔王のレベル125だが、現在の魔王は従者の力を借り受けており、レベルで言えば200は超えているだろうか。


 人族世界の英雄がレベル10だと考えると、現在の魔王は従者たちですら化け物と呼ぶ存在になっていた。


「スピリト【絶対切断】発動。うりゃあああああああああああああああああああああああ」


 掛け声と共に魔王は抜刀したが、その姿は人の目には留める事が許されなかった。


 いつのまにか鞘に刀が納まっていたが、直後にソニックブームが起こり、周囲に暴風が渦巻いた。


 その抜刀の一撃を受けたなら大陸すらも、両断されていただろう。


 爆風が止み、その先へと視線を向けると、そこには重厚な本が変わらない姿で鎮座していた。


「くそったれ。運営の奴め。何て物を作りやがったんだ。これじゃあ最強の盾じゃないか」


 自身の今持てる最高の物理攻撃を使っても破壊できなかった本に魔王は悪態をついた。


「この状態で魔法が通じるのか?でもやるしかないか。この本は絶対に従者には見せる事が出来ない。魔性の本だ。見られると少なくとも従者の半分は理性を失くすか、俺を裏切り反乱を起こすかもしれない。まさに禁書だな」


 魔王は大きな溜息を吐きながら、四死刀ししとうをストレージにしまうと、スイのマジカルステッキを代わりに取り出した。


「なんかこれを自分で使うのは嫌だな。性別の制限がないのはいいんだけど、ちょっとデザインがなあ。魔法少女の装備だし。魔法少女の恰好をしろっていわれたら全力で拒否するけどな。そういえばスイの弟子で魔法少女の恰好をした変態爺がいたな。たしか賢者とか呼ばれてたっけ。アイツも可哀そうだったよなぁ。弟子入りして20年はスイの【中二病】のせいで剣士の訓練しかさせてもらえなかったからなぁ」


 魔王はマジカルステッキをクルクルとまわしながら、覚悟を決めようとしていた。


「中二病的な事をしないといけないとか頭が痛いな。ふう。よしやるか。ワハハハハハ。我が名は魔王ツウーンライ。9つの異界を征し、破壊と殺戮を司りし漆黒の大天使なり。我が前に存在を許されるのは虚無のみ。全ての存在はその根源を我に差し出せ」


魔王ツウーンライは右手で顔を抑え苦しそうな表情と共に、光る指先で空中に膨大な文字を書き始めた。


魔法陣を描いているように見えるが、実は特に意味はない。


魔王ツウーンライの口上にも特に意味はないが、スピリト【中二病】が発動し魔法の効果が大幅に上昇しつつ、対価として筋力の弱体化を受けていた。



「スピリト【双子の共鳴】発動、スピリト【陣地構築】発動、スピリト【帝王への忠誠】は発動しないな」


 相変わらず左手で空中に何かを書いていたが、右手で変な印を結んでいた。


 ちなみに、この印も特に何の意味もない。

 

 【双子の共鳴】が発動すると魔王の背中に三対の白い翼と、その翼を覆うような一対の巨大な折れた漆黒の翼が現れた。


 白い翼が魔王の身体に馴染むようにブルブルと震えたかと思うと、漆黒の翼は無理やり折れた部分を動かし、背伸びをするように天に向かって大きく広げた。


 【双子の共鳴】が発動し、共鳴状態になると自身の能力を3倍まで引き上げる事が出来る。


 その姿は黒い衣装と相まって、神に逆らって天界を追放された黒い天使のようだった。


 【陣地構築】により周囲1キロの端に巨大な軍旗が突き刺さっていた。


 軍旗の刺さった内側が光り輝いており、この中にいる味方の能力を1.5倍に跳ね上げる。


「世界に溢れるマナよ。我が願いを具現化し世界の理を歪めよ。永久の時の終焉を贄に、新たな生命の誕生を祝え【超新星爆発】」


 詠唱と共に半径10キロの巨大な球体の魔法陣が現れたかと思うと球体の表面に浮かんだ魔法文字がゆっくりと輝きだした。


「………あれ?まだ魔法文字の読み込みが終わらな……い?というか魔法陣大きすぎないか?反対側が見えないんだけど………これってかなりヤバくないか」


 魔王は急いでマジカルステッキを構えると、新たな詠唱を何にするか考えた。


「絶対にヤバイ。防御魔法を張るしかない。中二病セリフを言いながら、絶壁発言をしたらいいのか?」


 魔王はマジカルステッキを回転させながら魔法陣に向けると中二病的な詠唱を開始した。


「天界におわす女神よ、その慈愛によりて我を守り給え。そしてイノの胸は絶壁胸のスライム仕様、本当の胸はマイナスAカップ。スピリト【絶対防壁】発動」


 従者イノは防御結界の使い手で、その胸も能力に違わずに絶壁だったが、スライムを駆使することにより偽りの豊かな大地の実りを作り出していた。


 【絶対障壁】の真の力を発動するにはイノの乙女の秘密を大きな声で叫ばなければならないのだが。


 【絶対障壁】が発動すると、魔王の目の前で光輝く障壁が出現した。


 通常の魔法障壁は1ミリ程度の厚さであるが、この障壁の厚さは1メートル以上はあり、その強度はバカげたものだった。


「全ての物質の時を停止させる凍てつく嘆きの川よ。その涙によりて罪深き者を永久に捉える空間となれ【コキュートス】」


 詠唱が終わると魔王の背後に100メートル級の巨大な青い魔法陣が出現し、光が魔法文字をゆっくりとなぞっていた。


 全ての魔法文字をなぞり終えると魔法陣は青い霧となり、その場に漂い始める。


 暫くして青い霧が晴れると、そこには巨大な老人の顔が現れた。


 老人は苦悶の表情で悲痛な嘆き声をあげていたが、目の部分には瞳はなく深く黒い空洞になっていた。


 老人の目の部分を見つめていると、その奥から決壊したダムのように涙が止めどなく溢れ出してくる。


 涙は巨大な川となり周囲を覆い尽くしていき、その川は全ての物の行動を止める凍てつく空間を作り出した。


 魔王の全面1キロ四方に絶対零度空間【コキュートス】が作りだされ、全ての物質の運動を停止する空間が完成された。


「これでもたりなそうだな。危機感知がバンバン警報をならしている。スピリト【機械仕掛けの要塞】発動、スピリト【龍化】発動 スピリト【金剛】発動。


 スピリト【機械仕掛けの要塞】により魔王の周囲1キロの大地が盛り上がり始めた。


 隆起した土は徐々に形を成していき、最終的には黒光りする要塞と化していてた。


 この要塞はレベル90未満の魔法攻撃・物理攻撃を無効にし、レベル90以上の攻撃でも30%の攻撃力を削減してくれる。


 スピリト【龍化】が発動すると魔王の全身から漆黒の龍の鱗が生え、スピリト【金剛】により鱗の強度が三倍に跳ね上がった。


「これでどうだ?まだ危機感知が反応するの…か」


 魔王の周囲1キロが機械要塞と化し龍の鱗が全身に生えた魔王は、何を思ったのか、この緊迫した状態で左手を股の間に突っ込んだ。


「あは~。これを使うのはいやなんだけどな。死ぬよりはマシか。スピリト【不浄の左手】発動」


 魔王は急にモゾモゾと股間をいじりだしたが、股間から左手が離れた際に、そこには二枚の軍手が握られていた。


 魔王は臭いそうな軍手を二枚とも左手に装着し、そのまま左手で自分の顔面に押し当てた。


 すると魔王の全身にモワッとしたような嫌なオーラが漂っていた。


「これで何とか死ななくなったな。それでも股間に挟んだ軍手を顔に当てるとか意味不明なペナルティースピリットを作った昔の俺を殴ってやりたい。しかも俺の穿いていたパンツは黄色と赤のグイグイ尻に食い込むブーメランパンツに変更されてるし。はあ~」


 スピリト【不浄の左手】が発動すると、発動者の下着が、かなり際どいブーメランパンツへ強制変更される。


 しかもある部分を偽装強調するため、軍手が2枚突っ込まれているのだ。


 その軍手が放つ臭いを自身に取り込む事によって、自分を含めた全パーティーメンバーを不死の状態にすることが出来る。


 もちろん不死状態といっても、死なないだけで負傷はするし行動不能にもなる。


 しかし蘇生の必要ない事は、かなりのメリットとなるのだ。


 魔王が軍手の香しき臭いを溜息と共に吐き出した時、【超新星爆発】の魔法陣の文字の呼び込みが終わり一瞬淡く光った瞬間、魔王は気が付くと100キロほど吹き飛ばされていた。


 魔王の胸から下は完全に消滅しており、上半身も左腕は肩からえぐれており右腕も複雑骨折していた。


「マ、ジ……か。あれだけのっ、レベル200以上の、鉄壁防御でも死にかけ………じゃないか。しかも……何があったかっ、全くわからん。この動体視力でも……と、捉えられないのか」


 飛ばされて来た方向に何とか顔を向けると、そこには青白く、黒く、赤く輝きながらプラズマのようなモノをまっとた球体が現れていた。


 その球体は周りの物を見境なく吸い込み、自身のエネルギ―へと変換し、その巨体をさらに大きく膨張させていった。


「不味っ、い、な。ここから……この空間から……脱出しないと、転移魔法……しないと。【転移】」


 魔王の声が響くと、その体は超新星爆発が荒れ狂う空間から逃れ、玉座の間に避難していた。


「はあはあはあ。【不浄の左手】の不死が………なかったら死んでいたな。完全な自爆だよな。何だかな。あははっははは。痛たたたっ」


 魔王か自嘲気味に笑っていると、玉座の傍に控えていた執事が恭しく一礼する姿が魔王の視界に入った。


「創造主よ、どうされましたか?」


【次回予告 処分に失敗した禁書は誰の手に…実は俺っちが持ってるっス。あっ!これはネタバレっスね】


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投票を頂くのは厳しいものだとは重々承知しています。


ですが同時に読者様の評価は本当に描き続けるためのエネルギーとなります。


星1つでも構いませんので、どうぞよろしくお願い致します。

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