賢者の試練2
魔女娘が退場するのを見計らっていたように、突然竜巻が強力なプラズマ放電を始める。
まともに喰らえば、魔物であっても一瞬で意識をもっていかれたであろう。
彼らが意識を飛ばされずにいるのは、アリエノールが必死に結界を維持していたからだ。
電圧の威力が意識を狩る威力から肉体を焼き尽くす暴力になるまでに時間は掛からなかった。
竜巻が渦巻の面積を縮めながら回転速度を増加させていく度に、そこに蓄積されていく電圧も爆発的に威力を増し、シャックス達に牙をむく。
放電による攻撃だけでなく、地面にある石や砂が巻き上げられ運動エネルギーを得た凶悪な武器が次々と4人を襲う。
さらに悪い事に、激しい上昇気流による風圧によって彼らは満足な攻撃態勢を取る事さえ出来なかった。
アリエノールの結界は辛うじて現状の電圧や石礫等に耐えていたが、その結界が崩壊するのに5分もかからないだろう。
「今から魔法を放つから、その瞬間にシャックスとトゥルーは飛び出して!」
シエルは賢者に魔法を書き換えられた失敗から、魔法陣を隠蔽しながら刻んでいく。
慣れない魔法陣の隠蔽に時間がかかり、彼女の顔に焦りが浮かんでいた。
「シエル!俺はお前を信じてるから、ゆっくりやれ!」
緊迫した場面だというのに、シャックスは気楽に声をかけた。
「全く!あんたは!賢者を前に私も少し力が入り過ぎていたようね」
シエルは強張っていた顔の筋肉を緩めると、深呼吸し集中力を高めた。
シャックスとトゥルーは、シエルの詠唱の完成に合わせるように、タイミングをうかがいながら身体強化を行っていく。
「いくわよ、2人共!」
「うし」
シャックスは短い返事をすると、シエルの魔法完成を待たずに竜巻から飛び出していった。
「分かりました」
「第4階梯氷魔法【フィンブル】」
シエルの詠唱と共に魔法陣は発動したが、賢者に妨害されないように最後まで隠蔽しきった。
彼女の額には大量の汗が浮かんでおり、その困難さを物語っていた。
魔法発動に成功したのだろう、彼女が立っている地面が急速に冷却されていく。
空気の急激な冷却により上昇気流が止まり、竜巻の威力が半分以下まで弱まった。
トゥルーは竜巻の減退と同時に飛び出し、一直線に賢者の元に向かっていく。
「第2階梯氷魔法【アイスランス】」
トゥルーはシエルが凍結させた地面を利用して時間の短縮を行いながら、アイスランスを生成し賢者に放った。
同時に愛用の細剣に獄炎を纏わせ、アイスランスの陰に隠れるように賢者に接近する。
賢者が軽く手を振ると、アイスランスが全て粉々に砕け地面に散らばる。
トゥルーはそのまま鋭い剣戟を繰り出すが、賢者は前回と同じように上半身だけを軽く動かして避けていく。
シエルはすかさず杖を構え無詠唱でアイスランスが砕けた残骸を利用し、第1階梯土魔法【マッド】と唱える。
シエルも賢者の魔法への介入を恐れて、魔法陣を隠蔽している。
【マッド】は単純な魔法であったため、賢者の妨害の入る間もなく素早く魔法が完成し、賢者の足元が泥と化した。
、
「ほほう。足元を悪くするのは良い考えじゃのう。まあ儂はその程度で態勢はくずさんぞ」
賢者は足元が泥でかなり悪くなっていたが、全く気にしている様子はなかった。
一方の剣戟を繰り出しているトゥルーは、泥を避けながらも賢者が泥の結界から出ないように誘導していく。
しばらく剣戟を繰り返した後に、トゥルーは賢者から大きく距離を取った。
と同時に上空から高速回転しているシャックスが降ってくる。
竜巻から飛び出すと同時にシャックスは、竜巻の上昇気流を利用して空中に飛び上がっていた。
最高高度まで到達するとシャックスは、事前に決めていた目標値に向けて降下を開始した。
その際に剣にスピリト【一撃必殺】をかけ、身体を縦に回転させていた。
単に上空から一撃を加えるだけでは、賢者には全く効かないとシャックスが感じたからだ。
加えてシエルにより、シャックスの大剣に重力倍化と強化の魔法がかけられていた。
賢者は素手では不味いと思ったのか、杖でシャックスの攻撃を受け止めた。
「うりゃああああああああああああああああああああああああ」
シャックスは降下してくる際は声を上げなかったが、杖にインパクトした瞬間に気合の雄叫びを上げた。
賢者の強烈なお仕返しが伝わってくるが、シャックスは気合と共に、全ての力を自分の愛用の大剣に注ぎ込む。
全身が竜巻の影響でボロボロになっていたが、シャックスはお構いなしに最後の一滴を絞り出すように大剣に力を込める。
「グががああああああああああああああああ!」
シャックスの一撃の威力は書庫で賢者に浴びせた5倍ほどにまで高まっていた。
通常であれば耐えることもできたのだが、賢者は一瞬足を泥に取られ体勢を崩した。
「これでも無理なのか。賢者様は本当に魔法使いかよ?」
シャックスは驚きと共に、嬉しそうに口角を上げた。
「まあ、それもこれも儂の師匠が偉大だったからじゃがのう」
すかさずトゥルーが賢者の隙を見て、先ほどよりも剣速を上げた突きを放つ。
風魔法を纏う事により、体の動きを速めているようだ。
だが体勢が崩れているにも関わらず、余裕で突きを躱していく。
トゥルーは突きが交わされる事を見越して、剣に真空を起こす風魔法を纏わせていた。
突きの軌道上には、真空により生成されたカマイタチの猛威が賢者を襲う。
「これでもダメですか?」
「ふぉふぉふぉ。発想は面白いのじゃがな」
トゥルーの攻撃の合間に、シャックスは大剣での斬撃を賢者に叩き込む。
しかしその攻撃も賢者に届くどころか、その衣服を汚す事さえできなかった。
賢者の無傷を確認するとトゥルーとシャックスは、荒くなった呼吸を整えるために賢者から距離を取る。
「第4階梯魔法【地獄の業火 インフェルノ】」
すかさずシエルが時間をかけて行った魔法が発動し、半径10メートルの範囲で地獄の業火が賢者を襲う。
2人は、賢者から距離を取っていたのとアリエノールの多重結界により無傷だった。
30秒ほど続く炎の嵐が、周囲に熱波をまき散らす。
結界を張っていなけえば、その余波だけで全身火傷の重傷になっていた事だろう。
爆炎が全ての物を飲み込んでいく。
全ての獲物を喰らい尽くしたのか、獄火は満足げに地獄に帰って行ったように感じた。
しかし、それは大いなる勘違いであった。
「ふぉふぉふぉ。もう少しじゃったのにのう。残念じゃのう」
賢者は先程と何一つ変わらない姿でそこに立っていた。
「本当に化物だな。あはははは」
「ふふふふふ」
シャックスとトゥルーは強すぎる賢者に笑う事しかできなかった。
シエルとアリエノールも魔力が尽きたのか、地面に尻餅をついていた。
「二次試験は……とその前にお前達の頼みとは帝国を守るために援軍ってところかのう?」
「そうです。我が国は魔王軍との戦闘に専念するのですが、王国と教会が何をしてくるか分からないためシャラトゥストラ様にご助力頂きたいと……」
「儂は人の争いごとは嫌いなんじゃがのう……人間同士でいつまで争いを続けるのかのう」
賢者は悲し気な表情で、王国がある方角を見た。
「シャラトゥストラ様!1つ情報なのですが、これでご助力をお願いできないでしょうか?」
「ほう?儂に情報を売ると申すか?ふぉふぉふぉ。面白い。その情報に価値があると儂が思えば、お主の頼みを聞いてやるぞ」
シャラトゥストラは好々爺のようにし、白い髭を触っている。
「情報なのですがシャラトゥストラ様の師匠を辺境の街近くの『魔の森』で見ましたよ」
「何じゃと!それは本当か?嘘じゃないじゃろうな」
賢者は先ほどの冷静さはどこへやら、血相を変えてトゥルーに詰め寄った。
「ええ、陛下と一緒におられました」
賢者の豹変ぶりにあせるトゥルーは、さらにとっておきの情報を賢者にぶち込んだ。
「なんと!これは大変じゃて。こうしっちゃおれん。儂はすぐに行くぞ!」
賢者は無詠唱で転移魔法を発動しようと指を動かす。
慌ててトゥルーは賢者が発動しようとした転移魔法を何とか阻止した。
「何をする?儂は急いでおるのじゃ」
賢者は今までの威厳はどこへ行ったのか駄々っ子のようになっていた。
「待ってください。シャラトゥストラ様、まだお話が……」
「話じゃと……うん?何じゃ……これは?」
賢者は今までの暢気な雰囲気が引っ込み、厳しい表情をして周囲の様子を窺う。
「一体何が?」
トゥルーは賢者の急変を疑問思い、それを尋ねようとした。
「これは……お前達の様に儂も試験のようじゃ」
賢者は嬉しいのが我慢できないのか、口角が上がっていた。
「試験……ですか?まさか賢者様をですか?」
「そのまさかじゃ。師匠が儂を試そうとしておる。先日、伝説の秘宝を手に入れた事じゃし儂の成長を師匠に見てもらおうかのう。お前達今すぐにこの場から離れろ。巻き込まれて死ぬぞ」
賢者の表情は、欲しかったプレゼントを貰った子供のようだった。
「賢者様。私達へのご助力は……」
「分かった。分かった。これが終わったら聞いてやる。分かったから、さっさと立ち去れ。本当に死ぬぞ」
賢者の目にはもうトゥルー達は映っていなかった。
「分かりました」
トゥルー達は賢者の助言に従い、その場を急いで逃げ出した。
【次回予告 賢者の戦闘が気になった読者様にはすまないっス。次回はスティリコちゃんがドミティアの無茶振りに再び振り回されるっス。俺っちも主に振り回されてるっスからスティリコちゃんの気持ちは痛いほど良く分かるっス。コケ~】




