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賢者の試練


「さてとヒレスから儂が試験をする事は聞いておろう。お主達の力を儂に示すががよい」


「ここでの戦闘では、大切な蔵書が破損しかねませんよ」


 トゥルーは、ここでは本気で戦闘ができないのではと疑問を呈する。


「気遣いは不要じゃぞ。儂は天空庭園の蔵書量を目指しておるのでのう。お主達に大切な本を傷つけさせることはせんよ」


 賢者は本を持っていた左手を少し持ち上げると、そこに魔力が集まり出す。


 賢者の指先に魔力が集まったが、すぐに消えてしまった。


 唖然とした4人だったが、一瞬で彼等の周りに数十の空気弾が現れ、一斉に彼らを襲いだした。


 絶え間なく注がれる空気弾であったが、タッチの差でアリエノールの結界が4人を守った。


 荒々しい空気弾が注がれていたが、周りの書籍には一片の傷もついていないようだ。


 力任せのように放たれた魔法であったが、一つ一つが緻密に制御されており、全ての効果が賢者によって支配されていた。


「魔法陣の隠蔽と、これほどの魔力の緻密な制御を行えるなんて」


「シエル。関心してばかりはいられないよ」


「分かっているわ。私詠唱に入るわよ」


 シエルはトゥルーに応えると、魔法の詠唱を呟き出した。 


「お兄様、シャックス。身体強化魔法を掛けておきました」


「おう!ありがとう」


「ありがとう」


 シャックスとトゥルーはアリエノールに礼を言うと、トップスピードで賢者の元に駆けだした。


「ほうほう。まずは第一段階はクリアかのう。咄嗟に無詠唱を行えるとはゴリラの娘も優秀じゃのう」


「アリエノールだけじゃないですよ。獄炎よ」


 トゥルーは細身の剣に炎を纏わせ、賢者に連撃を加えていく。


 しかし、賢者は本から顔を上げる事もなく、上半身だけでトゥルーの剣戟を避けていく。


 身を躱すだけでは剣の衝撃は避けらえても、炎の暴力からは逃れられない。


 剣が賢者の体を通り過ぎる際に、獄炎が賢者に襲いかかった。


 しかし炎は賢者を認識していないのか、存在しない者として扱った。


 トゥルーは獄炎が全く効いていないと分かると、攻撃を突きに変更し賢者の体の中心を狙う。


 賢者は左の人差し指を突き立てると、トゥルーの鋭い突きを、その指で受け流していく。


 終いには蝋燭を吹き消すように指に息を吹きかけると、トゥルーの剣に宿っていた獄炎が掻き消えてしまった。


「儂の息程度で掻き消えるなぞ、魔法の制御に難ありじゃのう」


「む!貴方の魔法制御が緻密過ぎるのですよ」


 トゥルーは剣の炎が消えても突きの連撃を止めることなく、更に激しくしていく。


「うりゃあああ」


 後ろに回り込んでいたシャックスが、大剣を全力で賢者の背中に叩きつけた。


 大抵の者であればシャックスの衝撃に耐える事ができずに、真っ二つにされている所だ。


 しかし賢者は目線は本に固定したまま、本を持っていた左手でシャックスの大剣を受け止めていた。


 賢者が持っていた本は、シャックスの攻撃の瞬間に魔法をかけられたのか、床に落ちることなく空中を浮遊している。


「連携で後ろに回り込むのは良いが、掛け声はよけいじょぞ。儂なんぞ驚いて本を落としてしまったぞ」


「よく言うぜ、賢者様。余裕で本に浮遊魔法をかけてるじゃないか。俺の全力の剣も片手で止めてるし。本当に魔法使いか?」


「お主らもバカな事を言うのう。儂が師匠に弟子入りした時なぞ、20年は身体の鍛錬のみであったぞ。魔法なぞ一切教えてくれなんだ。当時は不満だらけじゃったがのう。今思えばアレがどれだけ大事な事だったか分かるのう。出来る事なら過去の愚かな儂をぶん殴ってやりたいのう」


「まあ伝説の魔法使いの弟子は、そんなに甘くはないということですね」


 トゥルーとシャックスは同時に賢者から間合いと取った。


「第4階梯魔法【地獄の業火 インフェルノ】」


 詠唱が終わったシエルが杖を掲げると、その先に魔法陣が現れる。


 魔法が発動しようとした瞬間、賢者は指を素早く動かした。


 賢者が最後に指を鳴らすと、シエルの展開していた魔法陣が一瞬にして消えた。


「え?なんで?魔法は完成したはずなのに……」


 シエルは完成したはずの魔法が不発に終わり、少しパニックになっていた。


「魔法使いとしては失格じゃぞ。敵に己の魔法陣を見せてどうする?相手にバレてしまうじゃろうが。じゃから儂に横から書き換えられてしまうんじゃよ」


「そ、そんなぁ。人の魔法をあんな一瞬で書き換えられる人なんていませんよ」


 シエルは泣きそうな顔になりながら、理不尽な賢者の能力に文句を言った。


「何を言うておる。現に目の前にいるではないか」


「それこそ何を言ってるって感じですよ。賢者様のような方がそうそういる訳ないじゃないですか」


「儂なんぞ未だに師匠の足元に及ばんのじゃぞ。200年魔法の研鑽を積んでおるが未だに師匠達がおわす深淵を覗くことすらできんのじゃからのう」


 賢者は自分の不甲斐なさを思ったのか深い溜息を吐いた。


「まあ、お主達は個々の技量はイマイチだが連携に関しては中々じゃのう」


「当たり前だろ。何年一緒にコイツラとやってると思ってる」


「ふぉふぉふぉ。そうかそうか。では少し儂の運動に付き合ってもらうとするかのう」


 今まで一切立ち上がる事のなかった賢者がゆっくりと立ち上がると、床に突然大きな魔法陣が輝き出していた。


「何?何が起こるの?」


 慌てるシエルだったが、シャックスが彼女の方に手を置くと急速に落ち着きを取り戻していった。


「慌てることはないぞ。ただ外に移動するだけじゃ。ちと運動には、ここは不向きでな」


体が固まっていたのか、賢者は体をポキポキと鳴らして柔軟体操を行っていた。


「ほれ。転移するぞ」


 賢者の言葉と同時にシャックス達は、塔の前に広がる魔獣平原に転移していた。




◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇コケ◇◆コケ◇◆コケ◆


「さてさて、それでは二次試験を始め……」


「わはははは!ついに見つけたわよ、シャックス!貴方のヒミツを私が暴いてみせるわ!」


 魔法使いの衣装を着た変な女の子が、ビシッとキメポーズで賢者の言葉を遮った。


「あれじゃぞ。不意打ちを狙って仲間を隠しておくなら、最後までしっかりとした方がええぞ。儂も今まで気付かんかったのじゃからな」


 賢者は困ったようにシャックスに言い放ったが、困っているのはむしろシャックスの方であった。


「シャックス!とうとう追い付かれたわね」


 シエルが右手を額に当てるポーズを取ったが、アリエノールは頬を膨らませて明らかに不機嫌になる。


「賢者様、アイツは俺達とは無関係なんで、このまま二次試験を続行で」


 シャックスは魔女っ娘をガン無視して、賢者に試験の再開を促す。


「儂はよいが、そやつが巻き込まれても儂は責任持たんぞ」


「分かってますよ。彼女も自己責任ですよ」


 トゥルーも彼女を見放しているのか、その被害の責任は彼女自身にある事を主張した。


「そういうもんかのう。では……」


「何をいってるのよ。こんなに可愛い私が貴方の仲間になって上げるって言ってるのよ。感謝しなさい!」


「もう面倒じゃのう。仲間として攻撃させてもらうぞ。ほれ」


 賢者は溜息を吐くと、両手を軽く振った。


 彼の腕の振りに反応するように、5人の周りに強烈な竜巻が起こる。


「きゃああああああああああああああああああ。誰か助けてぇ。シャックスゥゥゥゥゥゥゥ」


 シャックス達4人は何とか地面に足を踏ん張っていたが、魔女っ娘は上昇気流により空の彼方へ飛ばされていった。


【次回予告 俺っちの予想では飛ばされた魔女っ娘がカギっスよ】

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