シューリンを黙らせる幻のアイテム
皆が村の中心にある広場へと集まっていた。
広場は20世帯あるかどうかの小さな村の全員が、集まるには十分の広さがあった。
リオン達も村長の娘さんに誘導されて、宴の場に顔を出す。
広場の中心にはリオン達が狩ったイノシシ料理が置かれていたが、村の食糧事情が逼迫しているのか、それ以外には目ぼしい料理はなかった。
「ああ、リオンさん。こちらにどうぞ」
村長が自分の隣の席にリオンを招こうとする。
当然ネルとシューリンはリオンの後に続いた。
スイが何処にいったのか疑問に思ったリオンだったが、その疑問は直ぐに解決する。
スイはイノシシの料理の側に、ヤキトリが吊るされた大木を地面に突き刺していたのだ。
「やっと僕の妹を探し出したのだ。これで僕の肩の荷も降りるのだ」
「スイさん。それがスイさんの妹なのか?とても妹には……」
リオンは大木からぷら~んとしているピンクの塊を眺めながら聞いてみる。
「大丈夫なのだ。今から服を着せるのだ」
スイは白い裾の長いワンピースのような服を、ヤキトリに無理やり着せようとしていた。
胸の辺りは大胆にカットされており、ヤキトリの柔らかな肌が露わになっていた。
もっとも未だに逆さに吊るされているので、がっつりとスカートが捲れてヤキトリのモモ肉が露わになっているのだが。
「コケ?ここは何処っスか?俺っちは?」
「僕は君の兄なのだ。君は盗賊に攫われて、僕が世界中を探して回っていたのだ」
「お、お兄様ぁぁぁぁ」
ヤキトリはスイの吹き込んだ設定を、そのまま信じて妹になってしまう。
「流石にその恰好で……」
リオンは逆さ吊りにされている不細工なヤキトリを見ながら、思わずつぶやいてしまった。
スイはリオンの呟きを拾い、安心するように笑顔でサムズアップしてくる。
「大丈夫なのだ。僕の妹は眼が見えないのだ。今から目を、くり抜くのだ」
スイはニコニコしながら、両手を拳法のようにウネウネ動かしていく。
もちろんスイの両腕には隠蔽された風の魔法陣が刻まれていた。
その影響でスイの腕の周りは真空状態になっており、人間の体なら血を流さずにパックリとえぐり抜く事ができる。
「ス、スイちゃん。俺っちは妹じゃなかったっス。思い出したっス 」
ヤキトリは速攻で前言を撤回して、何とかこの場を逃れようとジタバタ暴れ始める。
しかし、ヤキトリはぷら~んと揺れる事しかできなかった。
「愛を知らぬおまえには、決して分からないのだ!!」
ヤキトリの言葉に耳を貸さないスイが、手で軽く大木の表面を撫でると、その部分が簡単にくり抜かれてしまった。
「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。俺っちは……俺っちは」
スイのうねうねしていた腕が力強く振り切られると、スイの周辺にできていた真空の空間が、状態を維持できなくなったのか急激に周囲の空気を吸い込みだした。
真空によって作り出された風が、ぷら~んとしていたヤキトリを遊園地にある空中ブランコのように、大木を軸にグルングルンと勢いよく回していく。
ヤキトリは恐怖の余りに言葉が出ず、代わりにアバロンの扉を開きピンクの物体を世界に送りだした。
それはもう盛大にまき散らしていた。
お手製の費用散布機の様だったと、後日リオンはあの時の様子をそう語った。
そして脂身の中にどれだけの埋蔵量があるかは誰も知らないとも付け加えた。
「てめえのクソは何色なのだーーーっ!」
理不尽な脱糞の波状攻撃に怒れるスイは叫んだ。
「自慢じゃないっスが、俺っちのはピンクっス。健康的な色っス。恥ずかしいっス」
空中ブランコに振り回されながらも、ヤキトリは顔をポッと赤く染めて、モジモジしながら答える。
凄い余裕である。
「許さねえ……てめえは人間じゃねえ!」
スイは怒りが頂点に達したのか、大地を掻き毟りながら大粒の涙を流した。
「お、俺っちはこう見えても鶏っス。人間に見えるかもしれませんが、正真正銘の鶏っス。トレーサビリティのしっかりした鶏っス。キャ!言っちゃったっス。恥ずかしいっス」
ヤキトリは恥ずかしいのか短い羽で顔を隠したが、汚いお尻は隠していなかった。
断っておくが、ヤキトリは未だに肥料散布機である。
スイはヤキトリのお尻を睨みながら、両手を翼のように大きく上下し、右の膝小僧を胸のあたりまで持ち上げる。
今にも白鳥が湖から飛び立つような美しさを、リオンはスイから感じ取っていた。
ただスイの体重を支えている左足は、プルプルと震え出している。
スイの行動がスピリト【中二病】に認定されたのか、スイの筋力が著しく弱ってきているのだ。
どの辺が認定されたかは謎だが、その辺は気にしない事を決め込んだリオンであった。
「俺っちはこんな死に方はしたくないっス。こんな死に方は嫌っス!!てか誰か助けて欲しいっス。あるじ~たすけて~くれっス」
流石にこれ以上はヤキトリが本当に鶏肉にされてしまうと思い、リオンが行動を起こそうとすると、ドスンと地面に何かがぶつかる音がした。
リオンが視線をそちらに向けると、スイが地面に倒れていた。
「おい!スイ大丈夫か?何があった?」
よく見ると左足が痙攣しており、筋力低下にスイは耐える事が出来きなくなったようだ。
だがスイは弱体化を無視して、空にある何かを掴もうと右手を必死で動かしている。
「ふっ、とうとう昼でも糞が見えるようになったのだ」
いや今は夜だよとツッコミ、さらに糞って何だよと二段階でツッコミを入れるリオンであった。
今だにスイは天に向かって手を伸ばしていたが、ヤキトリの糞がスイの手にべったりとついていた。
それだけ手についていれば糞もバッチリと見えるだろうと思いつつ、リオンは取り合えずヤキトリを解放してやる。
「あるじ~!あるじ~!流石は俺っちの主っス。俺っちはもう少しで危ない世界に引きずり込まれる所だったっス」
解放されたヤキトリは、普段では考えられない感謝をリオンにしてくる。
気持ち悪いくらいだ。
「コケコケ!ムシケラども!!よく聞くっス。生きていられるだけありがたいと思えっス。お前達は今日から選ばれた民っス。それが神聖モテモテ王国の掟っス」
ヤキトリは世紀末のようなトサカを付けて、どこから取り出したのか鞭をバシバシとふりまわしていく。
「おい!そこの村娘!主はモテモテイケメン王子っス。今晩どうっスか?」
ヤキトリは調子に乗って村娘にちょっかいをかける。
「おい、ヤキトリ」
リオンは余りにもな雑魚キャラにジョブチェンジしたヤキトリに苦情を入れようとした。
ヤキトリも重大な過ちに気付いたのか鞭を落とし、即座にリオンに土下座してきた。
「主、申し訳ないっス。俺っちが間違っていたっス。主の事をモテモテイケメンなんて真っ赤な嘘を言ってしまったっス。極悪非道の悪行っス。地獄に行くしかないっス」
「てめえ!」
リオンは血管を浮き上がらせていたが、ここで怒ったら事実を認めた事になると思い、何とかヤキトリに制裁を加えるのを我慢した。
「仕方ないっス。モテモテなんて嘘をついてしまったっス。切腹もやむを得ないっス」
いつの間にか白装束に着替え、ヤキトリは覚悟を決めたような顔し切腹用の竹串を自身の前に置く。
あくまで馬鹿にしてくるヤキトリに、リオンはそれでも何とか我慢した。
それに待ったをかける者が現れた。
「コケ~!ぐべ」
突然ヤキトリの頭に特大の竹串が刺さっており、彼はそのまま気絶した。
というか気絶だけで済むのが不思議なくらいに竹串はヤキトリにめり込んでいたが……。
竹串はイノシシ料理の方から飛んできたようで、そちらを見ると犯人はネルのようだ。
リオンはネルの偉業に心の中で、最高の賞賛を送った。
料理の場所に近づくと、お姉さん役のネルがリオンの料理を取り皿に取り分けてくれようとする。
その行為自体おかしな事はないのだが、1点変な事があるとすればネルの恰好だろうか。
ネルの今日のイメージは隣の綺麗なお姉さんらしいのだが、いつもは平たい胸が違和感があるくらいに大きくなっていた。
何を詰めているのか分からないが、状況に合わせて揺れたり形を替えたりしている。
優秀な偽装アイテムがネルの胸を偽っていた。
さらにネルは化粧をしており、綺麗なお姉さんというよりはオマセな子供が母親の化粧道具で何とか化粧をしたような顔になっていた。
「リオン君は何が好きなの な?イノシシの料理でいいの な?」
隣のお姉さんを意識してるのか、今はリオンの事を君呼びしている。
語尾は全く変わっていないが。
「ああ。イノシシ料理でいいっていうか、イノシシ料理しかないだろ」
「わかったの な。ちょっと待っているの な」
ネルは甲斐甲斐しく料理を取っていくが、その動きに耐えられなかったのか、ネルの胸の膨らみが下へ下へと落ちていきポッコリお腹になっていく。
変な化粧とポッコリお腹で、ネルはとても微笑ましかった。
しかしリオンはとてもじゃないが、ネルにその事を指摘出来ずにいた。
そんなリオンの危機を救ったのは、一人の女性の声だった。
「ふふふ。リオンちゃん!お母さんも、とうとうリオンちゃんが求める力を身に付けたわ」
その声は確かにリオンの今の危機を救ったが、新たな危機を巻き起こしていく。
シューリンは早速スカートを捲りあげようと、両手をモゾモゾとしだす。
「シューリンさん!シューリンさん!ちょっと何をしようとしてるのかな?」
「えっ?リオンちゃんの要望のボクサー」
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああ」
「どうしたの?リオンちゃん?」
シューリンは可愛らしく首をコテリとしたが、リオンはそれどころではない。
シューリンのとんでもない行動を阻止するために、ピンクの脳細胞を高速回転させる。
このミッションに失敗したら、母親のパンツ姿が衆人の目に触れてしまうのだ。
しかもただのパンツ姿ではない。
ボクサーパンツの上に、股間が軍手でモッコリしている変態的な姿が、皆の脳裏に焼き付けられるのだ。
リオンにとって、それは耐えがたい苦痛であった。
どんなに問題行動を起こそうともシューリンはリオンにとって一応は母親なのだ。
そんな崖っぷちにあったリオンであったが、走馬灯のように昔の映像だけが、ピンクの脳細胞に浮かぶのだった。
シューリンが楽しそうにしている映像が、リオンの心を埋めていった。
「俺は……もう死ぬのだろうか……って違う!ここで諦めたら俺は一生後悔する。仲間を家族を見捨てられるか」
何となくカッコよいセリフを吐いているリオンであったが、やっている事は母親の変態行動の阻止である。
「うん?」
リオンの走馬灯に一際喜ぶシューリンの映像が映し出された。
シューリンの手には、あるモノが握られていた。
「これだ!これしかシューリンを止める方法はない。確か昔作った物が……あった」
リオンは革袋に目当ての物を探しあて、ニヤリと頬の筋肉を上げた。
「さあ、リオンちゃん!お母さんの修行の成果を見てね」
シューリンのスカートの裾が透き通るような白い肌を露わにし、もうギリギリの所にまで迫っている。
世の男共なら生唾モノの光景であったが、リオンには危機でしかなかった。
「シューリンそれ以上は駄目だ。禁止だ」
「え?どうして?お母さんはリオンちゃんのために修行を頑張ったのよ」
「それでも駄目だ」
「リオンちゃんは、リオンちゃんはお母さんの事が嫌いなの?ぐび」
シューリンの顔に洪水の兆候が現れてくる。
彫刻のように美しかった顔はもうそこにはない。
リオンはタイミングはここだと必殺のアイテムを取り出した。
「シューリン!俺は母様が大好きだ。その証拠がコレだ!コレをシューリンに渡す代わりに今回の修行の成果を永遠に封印して欲くれ」
リオンは幻のアイテムを掲げ、シューリンにこれでもかと見せつけていた。
「リオンちゃんがお母さんを大好きだってぇ。そ、それにリオンちゃん!え?そ、それは幻の……これをどこで……」
リオンはシューリンの反応を見て手応えを感じ、あくどい表情を浮かべていく。
「さあ、どうする?シューリン、この幻のアイテムはもう二度と入らないと思うぞ」
「そ、そんな。でもお母さんは修行の成果をリオンちゃんに見て……」
「そっかそっか。シューリンはこれはいらないんだね。それじゃあ……残念だけど破壊するしかないなぁ……」
幻のアイテムを破壊しようと、リオンは邪悪な笑みを浮かべながら両腕に力を入れる。
「だ、だめ~。リオンちゃん!お母さんは今回の修行を封印するわ。だから、だからそんな酷い事は止めて。全てお母さんが悪いの。幻のアイテムには罪はないわ」
シューリンは涙を堪えながら、リオンに必死に訴える。
「ふっ。そうか。シューリン、取引は成立だ。それでは幻のアイテムをシューリンに贈呈しよう。くれぐれも今回の修行の封印は忘れないように。でなければ幻のアイテムの効力も幻となってなくなると思え」
「わ、分かっているわ!リオンちゃん、お母さんは息子との約束は必ず守るから。絶対よ!」
シューリンは涙を拭い、決意を込めた強い目でリオンを見つめ返した。
リオンはシューリンの本気の視線に若干引いてしまったが。
シューリンはリオンの手から幻のアイテムを引っ手繰るように奪っていく。
シューリンの顔は天使の微笑みを通りこして、ぐへぐへ顔に変形していった。
もう涎が零れ落ちそうなほどにニヘラとしている。
「ぐへぐへぐへ。リオンちゃんの……リオンちゃんの肩叩き券を手に入れてしまったわ。ぐへへへへ」
そう、シューリンの手に大事に握られていたのは、リオンが作成した肩叩き券であった。
しかもこの肩叩き券は10枚つづりとなっており、作成時期はリオンの心の綺麗だった4歳ぐらいの時代の物だ。
「まあ、シューリン。券を使うのはいつでも構わないぞ」
「え”?肩叩き券を使う?そんな、どうしましょう?使うべきなの?でも永久保管も……」
シューリンは券を使用して一時の天国を手に入れるか、最後までデザートのように取っておくのか、究極2択の無限ループの闇へと落ちていった。
【次回予告 憎いイケメンが出るっス。次回シャックス死すっス。やっぱり主と違ってイケメンは簡単に死なないっスかx?残念っス】




