緊急家族会議パート2
リオンはヤキトリの尊い犠牲により、巨大なイノシシを手に入れた。
イノシシをそのままにしておくと、鉄臭くなるのでリオンは首の辺りを切断して血抜きを行おうとする。
イノシシを逆さに吊るすための大木は、そこら中に転がっていたので、木の先端にイノシシの脚をくくり付けて、スイに持ち上げさせた。
さすが魔法職でもレベル100のスイである。
中二病を発動しなければ、スイはそこらの戦士よりも馬鹿力を発揮している。
「リオン君、僕は凄い事を思いついたのだ。この落ちてる大木を空中に思いっ切り投げるのだ」
スイはドヤ顔でリオンに言い放った。
「その後どうするの?」
リオンは嫌な予感がしたが、取り合えずスイの主張を聞いてみた。
「空中を飛んでいく大木に乗れば、楽ちんに移動できるのだ。どうなのだ?凄いのだ」
どうだとばかりにスイは胸を張り、大木を肩に担いだ。
「いや、それもう考えた人がいるよ。世界一の殺し屋さんだったかな」
「やるのだ。流石世界一なのだ。僕と同じ考えに辿り着くなんて、その人も闇に住まう者なのだ」
「人の真似になっちゃうから、その大木は地面に置こうか」
「残念なのだ。僕もその人に負けないようにカッコイイ事を見つけるのだ。頑張るのだ」
スイは握り拳を天に向かって掲げ、己の誓いを叫ぶのであった。
◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇コケ◇◆コケ◇◆コケ◆
普通に村の前に移動する事に成功したリオン達は、イノシシを吊るした大木を村の入り口に突き刺した。
村の入り口には特に何もなく、誰かが村に入るのを見張っている事もなかった。
「この村で泊まれるといいが。流石に連日の野宿は疲れるからな。皆、注意しておくが村人とか簡単に殺しちゃ駄目だからね」
リオンはとにかく問題児達が、取り返しのつかない問題を起こさないかの心配をしていた。
「弟のお願いを聞くのはねぇねの嗜みなの な」
「僕は暗殺拳の使い手なのだ。これを使うのはトモと闘う時なのだ」
「分かってるわ、リオンちゃん。お母さんは息子の秘密は詮索しないわ」
それぞれ訳の分からない返しをしてきたが、最低限の人を殺さない事を約束させる事に成功したリオンは一息付いた。
もっとも問題は確実にリオンの足元まで迫っているのだが……。
リオン達は覚悟を決めて村に入ろうとしたが、村に入るまでもなく直ぐに第一村人を発見した。
「あのう……」
声を掛けようとしたが、その村人はリオンを見ると一目散に逃げていった。
「コケ~!流石、主っス。小さい子は全てお見通しっス。主の変態波動に恐怖したっス。コケコケ」
そう、リオンは幼女に声をかけようとしたが、逃げられていたのだ。
言われなき侮辱を受けたリオンは、怒りを抑えながらも革袋から竹串を取り出し口に咥える。
咥えた竹串を人差し指と中指で挟み込むとそれを高く掲げた。
竹串の持ち手部分に取付けられていた細い糸が、リオンの唇を通り過ぎていく。
周囲の気配を窺いつつ、リオンは竹串を捻り脂身に開いた極楽浄土の道に向かって力強く突き刺す。
竹串に手応えを感じたリオンは、さらに力強く突き刺す。
「コケ―!俺っちの大切なア、アナが……妹のアナ……」
ヤキトリがとんでもない事を言いそうになったので、リオンは細い糸をイノシシが吊るされている木に引っかけると、そのまま糸を引っ張った。
「コケコケコケ。俺っちは、俺っちは負けないっス。こけ~!」
スイに糸の先端を木の幹に括りつけてもらうと、リオンは竹串の先についた脂身の重りでピンと張った糸にバイオリンを奏でるように振動を与えていく。
「コケコケコケ。コ~ケ~。コッ!」
リオンの演奏が終わると共に、ヤキトリの声は途絶えてしまった。
リオンの演奏はヤキトリを天国へと旅立たせたようだ。
この場合は血抜きではなく糞抜きと言うのであろうか?
下の地面にはボトボトと、力の根源たるピンクの物体がヤキトリの体から抜けていく。
「ふっ!悪は成敗される運命なのだよ」
リオンは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「お前さん達は何者ですだ?」
リオンは突然声をかけられた方に顔を向けると、先ほどの女の子が親を連れてきていた。
リオンはやましい事はないのだが、親が来たので一瞬身構えてしまう。
しかりリオンは、強化魔法『俺はロリコンじゃない』の呪文を唱える事により少し落ち着きを取り戻していく。
「お騒がせしてすいません。私達は旅をしている者なんですが、今日この村で泊めて頂けないでしょうか?」
リオンの発言を聞いた男が、顔を少し歪めてしまう。
「儂等の村は食料が少なくてな。余所者を止める余裕はないんじゃよ。分かって貰えんかのう?」
女の子の親が申し訳なさそうに、村の窮状を語ってくる。
「問題は食料だけなんですか?」
「うん。まあ……そうじゃな」
「それではこれを差し上げましょう。今日の晩御飯にでもしてください」
いまいちハッキリとしない男であったが、リオンはここぞとばかりに男に畳みかけた。
幼い子供に声をかけようとしていた事を有耶無耶にしてしまう作戦だ。
「その……木に吊るされた太った鳥だか?」
男は余り嬉しくなさそうに、脂しか乗っていないヤキトリを眺めた。
ヤキトリが一瞬ビクリとしたようだったが、未だに力の根源を抜かれて続けている。
「違いますよ。この糞まみれの脂肪の塊は食べたらお腹を壊しますよ。こちらのイノシシの方を差し上げます」
「本当だか?これを儂等にくれるというのか?こんなに大きいのを?」
女の子の親は先ほどの嫌そうな顔とは一転、期待の籠った顔をする。
「そうです。その代わりと言っては何ですが、今晩村で泊めていただければと」
「そったら儂の家に泊まるといい。儂は村の代表をしとって、そこそこ家は広いでな」
「ありがとうございます。それではお世話になります。イノシシはどうしましょう?」
「そのままでいいだ。後で村の衆を連れてくるだで。取り合えず儂の家に案内するだ」
リオン達は村長に案内されながら村の中に入っていく。
悲しい事にヤキトリは、意識を取り戻すまで村の外に放置されていた。
一瞬村人達に料理されそうになったが、糞まみれだった事が幸いしヤキトリは命拾いをする事になる。
◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇コケ◇◆コケ◇◆コケ◆
今、リオンは村長の家に招かれているのだが、ここでシューリン達3人が緊急家族会議を開催していた。
キッカケは村長の家に入った際に出て来た2人の娘にあった。
一人はリオンより年上で隣に住んでいるお姉さんって感じの娘だった。
もう一人は可愛い妹という感じの……先ほど村の入り口にいた幼女だ。
妹の方が突然リオンに笑顔で抱きつき、お姉さんの方も優しい微笑みをリオンに向けたのだ。
食事事情で困窮する所に食料を提供してくれたリオンに、姉妹は愛想を振りまいただけだった。
いわゆる女性がよく使う生存戦略というやつだ。
しかしリオンは不味い事にお姉さんのお愛想の微笑みで、少し顔が赤くしてしまう。
ここが女性に慣れていない男の悲しいところであろう。
もっともリオンも照れて顔を赤くしただけで、よくあるハーレムをこの村で作る気などはサラサラないのだが。
そんな事をしらたリオンは惨殺死体となって、そこらへんに転がっている未来しかない。
故意に殺される事はないだろうが、悲しみや怒りで力の制御が甘くなったシューリン達に、うっかりで爆散させられているだろう。
そんな状況だったのだが、悪い事は重なるものだ。
リオンが村娘に顔を赤くしている場面を、シューリンにバッチリと見られてしまったのだ。
それからはもう何を言ってもシューリンが話を聞いてくれないのは、ここで語らなくても分かって頂けるだろう。
シューリンは息子が悪の道に落ちるのを防ぐためにと、ネルとスイを集めて緊急の家族会議を開く運びとなったのだ。
「リオンちゃんを悪の道から助け出すのよ。まず、妹役を決めないといけないわ」
シューリンは鼻水を垂らしながらも、スイとネルに力強く主張した。
「あの?シューリンさん」
シューリンは息子の声を涙ながらに無視して、ネルの方を見る。
「ねぇねは、ねぇねなの な。妹はねぇねの誇りが許さないの な」
ネルは手をビシッと上げて、自分の立場を主張する。
「私もお母さんに転職したばかりだし。妹に転職するのは……ね。スイちゃんはどう?ズピィー」
熟した果実が枝から落ちるように雫が鼻から落ちそうになったが、シューリンは母親の底力で何とか重力に逆らっていた。
「僕は今4人兄弟の末弟なのだ。妹だと逆になっちうのだ。不味いのだ。うおおおおおお」
闘気を上げようとしているのか、スイは雄叫びを上げる。
肌にピタリと張り付いている拳法着を、スイは力んで何とか破こうとしていたが、それは敵わなかった。
全く闘気の出てないスイは、上着をイソイソと脱ぎ、スポーツブラとスパッツ姿になっていく。
「仕方ないわね。妹役はヤキトリちゃんで行くしかないかしら」
雫が落ち着いたシューリンは、ヤキトリを妹として迎え入れる事を提案する。
「問題ないの な」
「僕は妹を奪った胸に傷を持つ男…奴を見つけ殺すまでは、例え泥をすすってでも生き延びるのだ」
「よく分からないけど、追加の設定はOKよ。スイちゃん」
ヤキトリが妹設定なのもオカシイが、お前達の目的は一体なんなんだと思わずツッコみそうになるリオンであった。
「じゃあ次はお姉さ……」
「の な。の な。の な」
シューリンが最後まで言い終わる前に、ネルが右手をピシッと上げて自身をアピールする。
「そうねえ。お姉さん役はネルちゃん以外に適役はいないわね」
「の~な~」
ネルは起立すると気を付けをした後に敬礼した。
非常に可愛らしい敬礼だった。
「スイちゃんはどうする?弟役でいいの?」
「ヤキトリ……どこまでも哀しい女なのだ。ならばおまえのためだけに死ぬ男が一人ぐらいいてもいいのだ。ひょ~」
スイは怪しげな掛け声と共に、ウネウネと手を動かす。
スイの手には隠蔽された魔法陣があり、その効果で真空を作り出していた。
それに触れればカマイタチの様にパックリと皮膚がさけるであろう。
「分かったわ。スイちゃん、お兄ちゃん役頑張ってね」
シューリンは母性を感じさせる微笑みをしていたが、リオンにはなぜ今の会話で兄役をやりたいとなるのかリオンには理解できなかった。
末弟はどこにいったのだと。
「皆の配役が決まったし、私は……オカンがいいかしら。でもまだ私は母親のジョブをマスターした訳じゃないし……どうしましょう」
リオンはシューリンの言葉を聞いて、思わす吹きそうになった。
オカンとの呼び名は思春期の男達が、自分の母親の事をお母さんと呼ぶのを恥ずかしがって呼ぶ代名詞だからである。
本当に何処に向かっているんだ、この集団はと頭痛を覚えるリオンであった。
【次回予告 俺っちがスイちゃんの妹にされるっス。殺されるっス。助けてほしいっス】




