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極大魔法【アッパッペー】

 各国が各々の思惑で動き出している頃、リオンはというと……王都に向かっていた。


 というか速攻で辺境の街を後にした。


 薬草採取で強敵との死闘を繰り広げたリオンであったが、あえなく初クエストは失敗に終わるという苦い思いを経験した。


 しかしリオンはどうにかして薬草採取ができないか、街に帰ってからも頭を捻っていた。


 街に薬草が不足し、価格が高騰して困っている街の人達を助けたいという純粋な心からではない。


 誰にも言えない崇高な目的を抱いていたリオンは、それ以外に道は無かったのだ。


 そんな時リオンの耳に、巨大なドラゴンが目撃されたとの噂話が入ってきた。


 冒険者が巨大なドラゴンを目撃したとの証言が冒険者ギルドに持ち込まれ、その情報で町全体が一時パニックになったほどだ。


 だが魔王軍侵攻の準備もあって辺境領には、強力な軍隊が終結しつつあり、パニックは急速に収束していった。


 1人だけパニックを治める事ができない人物がここにいた。


 我らが主人公リオンである。


 ドラゴンの出現を聞いた瞬間、リオンは思わず失禁してしまいそうになったが、少し我慢した事は褒められてもいいかもしれない。


 リオンは従者から裏切者が出たとの報告を受けていたので、その裏切者が自分を殺しに来たと思い、速攻で辺境の街から逃げ出す。


 崇高な目的もかなぐり捨てての、敵前逃亡である。


 いや敵はリオンの前にすらいないので、敵前逃亡とは言わないのかもしれない。


 そして今、リオンは辺境領の端にある村の手前まで来ていた。


 この村を超えれば、他の領地まではもうすぐの所だ。


 ちなみにシューリンは修行の旅に出ていて、行方不明の真っ最中である。


 置いてけぼりを喰らったシューリンは、リオンがいない事に気付いたら、美しい鼻水を垂らしている事だろう。


「ふう~。やっとここまで来たか。これで安心だな」


「大丈夫っスよ。主、裏切り者が来たら俺っちの極大魔法【アッパッペー】を発動するっスよ」


 ヤキトリは珍しくキリリとした顔で、リオンに言い放った。


「極大魔法【アッパッペー】?何か昔流行ったギャグに似てるな」


「失礼っス。俺っちの【アッパッペー】を馬鹿にするなっス。いくら主でも許さないっスよ」


 ヤキトリが短い羽でペンペンとリオンの頭を叩き抗議した。


「すまん。すまん。お前が珍しく頼もしい事を言ってくるから違和感があったんだ」


「仕方ない主っスね。今回だけは許して上げるっス」


「ああ、感謝する」


 リオンは裏切り者の追跡に頭が一杯で、ヤキトリの頼もしさに感激さえしていた。


 もっともレベル25のヤキトリではレベル100の斑龍ムジには逆立ちしたって勝てないのだが。


「ところで、その【アッパッペー】ってどんな魔法なんだ?俺も聞いたことが無いぞ」


「興味あるっスか?もう主は仕方ないっスね」


 ヤキトリはヤレヤレと、ふてぶてしい態度を取り始める。


「ああ、今後の参考になるかもしれない。教えてくれ」


 ヤキトリは得意満面のニヤニヤ顔をしていたが、リオンのヤキトリへの怒りの許容度はかなり緩くなってきている。


 普段のリオンならノータイムで、そのケツに竹串を突っ込んでいただろう。


 ヤキトリはリオンの頭から飛び上がり、空中で無駄に回転を加えて再びリオンの頭に着地する。


「コ~ケ~!」


 気合の入った鳴き声を上げると、力を全身に漲らせていっているのか、ヤキトリの体が小刻みに震え出した。


 その震えが段々と大きくなり始めると、ヤキトリのピンクの顔が真っ赤に変化していく。


 相当無理をしているのだろう。


 ヤキトリのクチバシからは荒い息が漏れ出ていた。


「準備完了っス。いくっスよ。極大魔法【アッパッペー】」


 つぶらな瞳をネルの興奮状態ようにかッと見開くと、ヤキトリは極大魔法を叫んだ。


 ヤキトリの体の震えが最高潮に達すると、ブリブリブリとの豪快な音と共にヤキトリの秘密のエデンから大いなる物体がその姿を現す。


 その神々しき姿が露わになると、リオンの頭にボトリと落ち始めた。


 そう極大魔法【アッパッペー】とは福井の方言で、『脱糞したい』という意味だったのだ。


 そしてヤキトリは盛大にリキムことにより、普段では出しえない光り輝く物体を増量気味に産み出していたのだ。


 それはいつもよりも粘性が強く、形状を自由に変形できる特性を帯びていた。


 ヤキトリはこの世に産み落とされた自分の分身を、それはもう赤子のように愛おしくし見つめている。


 その瞳は母性に目覚めた母親の様な優しさが宿っていた。


 そして……時は動き出し、リオンの体が震え出す。


 もちろん尿意からではない。


 激しい怒りから震えているのだ。


 一瞬でも馬鹿な鳥を信じてしまった自分に、どうしようもない怒りを覚えたのだ。


 なぜこんな鳥を信じてしまったのかと。


 リオンは震える手を何とか抑えると、産後の疲れ切ったヤキトリのエデンに向けて迷いなく竹串をツッコんだ。


「コケ~!」


 ヤキトリは恍惚の叫び声を上げたが、気絶は何とか思いとどまったようだ。


「ふっ。また、詰まらない物を刺してしまった」


 リオンは満足げに、竹串から手を放した。


 ちなみにヤキトリはリオンが言うように、便秘でお尻が詰まった事はなく、いつも快便であった。


「コケ。俺っちは昔の俺っちとは違うっス。母親の強さを見せてやるっス」


 ヤキトリは母親という言葉を使った瞬間、殺気を感じたが気のせいだと首を振る。


「何か悪寒がするような……」


 リオンも殺気を感じたんだが、今の殺気がシューリンでない事を心の中で祈った。


 もしシューリンの殺気であった場合、ターゲットはヤキトリだけにしてくれと心の中で、それはもう熱心に祈っていた。


「多分……ムジっちがもうすぐ来る鶏の予感って奴っス」


 しかりリオンの祈り虚しく、ヤキトリがムジの名前を出した瞬間、そこに豹変したネルとスイの姿があった。


「裏切り者は許さないの な。死あるのみなの な」


 ネルは半眼の眠たそうな目ではなく、鋭く敵を射抜くような鋭い視線をしている。


 腰には左右それぞれに刀が装備されており、いつでも抜刀できる状態にあった。


 銀髪を風になびかせながら、両腕は交差するように刀の柄の部分に軽く触れていた。


「そうなのだ。裏切りを行う者は本気で殺すのだ」


 対するスイは完全に姿が変わっている。


 肩で切り揃えられたウェーブの掛かった胡桃色の髪は、桃色に変化している。


 髪の長さも、お尻辺りまで長くなっておりツインテールで纏められて風になびいていた。


 背丈は150センチまで縮んでおり、衣服も格闘家のモノから魔法少女と言ってよい服装になっていた。


 ピンクの短いスカートが、スイの可愛いお尻を絶妙に隠し、絶対領域を形成したいた。


 右手には可愛らしいハートがオブジェになったマジカルステッキが握られていがた、そこに込めらてている魔力は莫大なモノであった。


 魔法抵抗力のない者であれば、簡単に廃人になってしまうであろう。


 殺気が駄々洩れの2人であったが、リオンには一切当たらない様に殺気をコントロールしていた。


 だが、その気遣いは悲しい事にヤキトリにはなかった。


 リオンを避けるよう流れている殺気は、モロにヤキトリに直撃していく。


 ヤキトリは今まさに鶏生最大の恐怖を味わい、体をガタガタと震わせていた。


 それはもう盛大に、直下型地震で揺れているように、リオンの頭で揺れる。


 当然の結果としてリオンの頭には、水のように柔らかくなったピンクの糞が噴水のようにまき散らされていた。


 先ほどの極大魔法で出現した粘性はなく、恐怖で水分が多めで変形が不可能であった。


 ついにヤキトリはお腹に貯めていた宿便を全て使い切ってしまったのか、プスプスプスという音と共に気絶した。


 直接殺気にさらされていないリオンであったが、殺気の残り香と言おうか、微かに感じる殺気で盛大に失禁している。


 さすがは闇の組織、失禁連合第一席に君臨し続けるリオンであった。


 ちなみに栄えある第三席には、名無しのゴブリンが就任していた。


「スイ、ネル。お前達が裏切者を許せないのは分かった。だが今は、その殺気をしまっておいてくれ」


 裏切り者に敵意を向けてくれる事をありがたく感じたが、その前にネル達の殺気で自分が死んでしまうとリオンは感じた。


 恐怖で心が挫けそうになったが、何とか勇気を振り絞り、リオンは殺気を抑えるように2人に頼んだ。


「む!分かったの な。ねぇねは、この怒りをムジにぶつけるまでは心の奥で取っておくの な」


「リオン君。僕も我慢するのだ。第十階梯魔法を連発してやるのだ」


 リオンの一言に2人は反応し、急速に殺気を消す。


 心の中でホッとしたリオンであったが、リオンと従者の間にある裏切者に対する感情の決定的な違いにリオンは気付いたいなかった。


 ネル達の殺気が段落した頃、草むらがガサガサと揺れた。


 その音を聞いたリオンは、似たパターンをいくつか思い出していた。


 その中から最悪のパターンを考えたリオンだったが、現実はリオンの最悪を超えていくのであった。

【次回予告 俺っちが主に狩りの極意を教えてやるっス】



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