最強の龍騎士誕生
ゴブリンが視線がする方に何とか顔を向けると、そこには赤い瞳をした人影が木の上に立っていた。
「アギャ!アイツはヤバい奴だギャ。関わったらいけないと本能が訴えてるギャ」
視界に入った人物に本能的恐怖を覚え、ゴブリンは体を震えさせていた。
しかし【ゴブリンスレイヤー】と妹によって極限までライフを削られたゴブリンは、大地に倒れて動けなくなっていた。
「動け、動いてくれ。こんな時にオラの体は……」
側に落ちていた【ゴブリンスレイヤー】を手に取ろうと思たが、己の意志に反し指一本動かす事ができない。
もたもたしていたゴブリンに、時間は無常に過ぎていった。
赤い瞳の人物は、右手に持った杖をゴブリンに向けて叫んだ。
「わはははは!ついに見つけたわよ、シャックス!貴方がどこへ逃げようとも私は追いかけて見せるわ!」
変な魔法使いの衣装を着た女の子が、ビシッとキメポーズでゴブリンに言い放った。
「ダメだったギャ。間に合わなかったギャ」
会話する以前にゴブリンは見るからに頭のおかしそうな魔法使いに関わってしまった事を早くも後悔していた。
「貴方は誰?」
魔女っ娘は自分から派手に登場してきたにも関わらず、ゴブリンが誰なのかを尋ねてくる。
首をコテッとする魔女っ子だったが、ゴブリンに人間のアザトサは通じない。
「無視したいのに体が動かないギャ。こっちを見てるギャ」
麻痺毒でやられたように体の動かないゴブリンは、不審人物から逃げる事が出来なかった。
もっともブーメランパンツを脚に絡ませて全裸になっているゴブリンも十分に不審者であったが。
「あなた!シャックスを何処に隠したの?可愛い私が聞いているんだから答えなさい」
魔女っ娘は相手の事情は一切考慮せず、ゴブリンを捲し立てる。
「やっぱり何か訳の分からない事を言っているギャ。アレは多分、新手の詐欺だギャ。何とかやり過ごさないと……」
「ちょっと、待ってなさいよ。今そっちに行くから!」
魔女っ娘は上っていた木の枝から降りるのが怖いのか、モタモタしながら降りようとしない。
「こっちに来ようとしてるギャ。死んだ振りは通用するギャ?」
ゴブリンが思考を巡らせていると、魔女っ娘の姿の向こうに巨大な赤い光が急速に近づいてくる。
視界がその輝く光を捉えた時、魔物の本能が生命を諦めろとゴブリンに訴えているようだった。
赤い輝きは魔物の巨大な瞳に陽光が反射したものだったが、近づくにつれ、その巨大さがハッキリと分かった。
赤い輝きの瞳はゴブリンよりも遥かに大きく、その透き通るような水晶体にはゴブリンの全身が映っている。
魔女っ娘に感じた恐怖とは別物の絶対的支配者が持つオーラに畏怖を覚え、ゴブリンは体を震わせていた。
「汝からニオイがするな。我の求めている者のニオイがな」
低く落ち着いた声が森に響いたが、ゴブリンはどうする事も出来なかった。
疲労とは関係なく、本能が体を動かすのを拒否しているようだ。
「ごめんだギャ。オラは妹のお前を最後まで守る事が出来なかったギャ」
ゴブリンは涙を流しながら、自分の運命の最後の瞬間を待つ事にする。
周囲の大木を小枝のようになぎ倒し、その頭部がゴブリンに迫ってくる。
大きく開く口には鋭い歯が見えたが、小さい一本の歯でさえゴブリンよりも遥かに大きい。
「アギャ?」
未だ自分が無事な事に疑問に思ったゴブリンは、恐る恐る周囲を確認する。
大きな顎はゴブリンを飲み込む事はせずに、ニオイを確認するようにゴブリンに鼻先を近づけているところだった。
頭には光り輝くような白い鱗が生えており、その1枚1枚が宝石のような美しさをしている。
巨大な頭の向こう側には太く長い首が伸びており、大人が10人で輪になっても囲む事のできない太さであった。
首の付け根にはちょっとした山のような胴体に繋がっており、全長は尻尾までいれると1キロはありそうだった。
「汝はこのニオイを何処で付けた?」
巨大な魔物……この世界の最強種でたるドラゴンがゴブリンに問い質して来た。
「ニオイだギャ?オラは妹のために、いつも清潔をもっとうにしてるギャ。臭くないはずだギャ」
ゴブリンは震えていたが、妹のために身だしなみには気を遣っていたので、自分の誇りを守るために何とか答えた。
「違う。汝のニオイではない。その布切れから我が探す者のニオイがする。汝はその者を知っているのか?」
「布切れギャ?もしかして腰巻の事だギャ?それはアイツから貰ったギャ」
「何と!その布を下賜されたと言うか?」
ドラゴンは驚きに目を見開いたが、その瞳孔はトカゲの様に細長くなっていた。
「貸し?違うギャ。オラの大切な腰巻を奪った詫びの品だギャ。借りたんじゃないギャ」
ゴブリンは自分の大事にしていた腰巻を奪われた屈辱を思い出し、顔を歪めたが直ぐにドラゴンの事に集中した。
怒りに駆られてゴブリンは、ドラゴンの言葉を取り違えていく。
「そうか。汝は我が創造主の眷属となったのだな」
「騒々種?確かに煩いヤツ等だったギャ」
「グウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」
ドラゴンは突然、天に向かって咆哮を上げた。
その声は森の木々を震わせ、周囲にいた生物を恐慌状態に陥れる。
「アギャアアアアア」
例にもれず……というかゴブリンは漏れずではなく、既に漏れていた。
幸いだったのは全裸だったので大切なブーメランパンツを汚す事は無かったことぐらいだ。
だた心は恐怖し、ゴブリンは意識を再び手放していた。
「おおう。我とした事が……。興奮の余り思わず大音量で咆哮をしてしまった。少ない手がかりを失う所だったわ。どれ」
ドラゴンは体から常に発している白い霧を、ゴブリンの周囲に集め始める。
白い霧がゴブリンに触れると、その霧は体内に吸収されていく。
白い霧を吸収すると共に、ゴブリンの体力が徐々に回復し状態異常もスッカリなくなっていき、同時に意識も取り戻した。
「アギャ?オラは一体……」
「汝に1つ質問だ。お前はその布を渡した者の居場所を知っているのか?」
「……知ってるギャ。お前はそれを知ってどうするつもりギャ?」
「我は創造主を何年も待ったのだ。しかしどうだ?未だ居場所も不明のままだ。だから我は自ら探し求めたのだ」
「オラはアイツを倒さないといけないギャ。オラの妹を守るためギャ。もしアイツの味方をするつもりなら、オラは殺されても居場所を教える訳にはいかないギャ」
ゴブリンは心の中にある恐怖心を、妹を思う強い気持ちで捻じ伏せた。
「グハハハハハ。汝が我に啖呵を切るか。その上マーキングで自分をここぞと主張してくるとは実に面白い」
ドラゴンはゴブリンの濡れた下半身を、その大きな鼻でスンスンとして情報を読み取ろうとしていた。
もっともゴブリンはマーキングのために排泄した訳ではないのだが。
只のお漏らしをマーキングだと勘違いしたドラゴンの目は、もしかしたら節穴かもしれない。
いや、この場合は鼻というのか。
「どうだギャ?オラの敵かギャ?」
そんな事にも気付かないゴブリンは、大きなドラゴンの瞳をさらに失禁しつつも睨み返して問い質した。
「安心しろ。我は汝の敵ではない」
「本当ギャ?後、アイツはオラの獲物だギャ。オラは妹を守るためにアイツを倒さないといけないギャ。いくらアナタでもそれだけは譲れないギャ」
ゴブリンは強い決意で拳を握り、それを胸に当てて心の中にある憎しみの炎を強く感じた。
「構わんぞ。我は創造主の居場所さえ分かればいいのでな。ククク」
「だったら教えるギャ。ただオラは今は妹を追いかけているギャ。そちらを優先して欲しいギャ」
「いいだろう。我は汝の妹を見つけるのに協力する。汝は我の探し人を見つけるのに協力する。これで契約は成立だ」
「良かったギャ。頼りになるドラゴンが仲間になってくれて嬉しいギャ」
ゴブリンは何とか失禁を止め……というかもう全て出し切っており、これ以上は出なかったのだが……ドラゴンの固い鱗に手を当てた。
『ぴろり~ん。名無しのゴブリンは斑龍ムジと契約することにより【ブーメランライダー】の職業を手に入れました。特殊スピリト【スプレーマーキング】を獲得しました。』
そしてゴブリンは空の支配者たるドラゴンに跨り、大空を駆け抜けるのであった。
ここに後世に語り継がれるであろう最強の龍騎士が誕生した瞬間であった。
実際はドラゴンの強烈な飛行能力のせいで離陸5秒で気絶したが、【スプレーマーキング】の影響で立ったまま失禁する事には成功していた。
ちなみに頭のおかしい魔女っ娘だが、ドラゴンが大木をなぎ倒しながら近づいてきた際に、悲鳴と共に大地へと投げ出されこちらも既に気絶していた。
【次回予告 王国も軍事行動をしてるっス。あっ!真面目に予告してしまったっス】




