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妹から変態認定されました

 名無しのゴブリンは森の中を彷徨っていた。


 森には白い霧が立ち込め、行き先を迷わすようにゴブリンに纏わりつく。


 ゴブリンの目には生気がなく、霧に誘われる様に森の奥へと足取りも覚束ないまま進んでいく。


「オラは……オラは……妹のお前を」


 ゴブリンから漏れる声には哀愁が漂っており、体の中にあった涙が枯れてしまったのか、見つめる事すら辛くなる表情をしてくる。


「どこで間違ったギャ。オラの大切な……」


 筋肉が削げ落ち太腿に引っ掛かっていた赤と黄色のブーメランパンツが、霧に揺られて足元までずり落ちてきた。


 ブーメランパンツはゴブリンの足首に絡みつき、彼を大地へと引きずり倒した。


「アギャ!オラの家族が……」


 大地に頭を打ち付けたゴブリンは、そのまま意識を手放した。


 倒れたゴブリンの周りには白い霧がうごめき、その身体を視認する事が出来なくなる程に、濃くなっていった。



◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇コケ◇◆コケ◇◆コケ◆


 魔の森のとある場所に、ゴブリンの住み家があった。


 1匹のゴブリンが、その住み家にゆっくりと近づいていく。


 ゴブリンは全身の筋肉が盛り上がっており、並みの魔物でない事が窺える。


 ゴブリンが放つ威圧を恐れてか、低級の魔物達はゴブリンを塔から遠巻きに眺めていた。


「アギャ!かわいい妹よ、今帰ったギャ」


「私にはお兄ちゃんはいないのです。変態さんは家から出て行ってもらったのです」


 洞窟の奥から、顔は見せずに可愛らしい声だけが響いく。


「すまなかったギャ。オラは近所の評判なんて何も考えてなかったギャ。でも安心するギャ。今はちゃんと腰巻を穿いているギャ」


「お兄ちゃん、本当なのです?やっと私の言っている事を理解してくれたです?」


「そうだギャ。本当にすまなかったギャ。もう大事な妹に恥をかかせないギャ」


「よかったのです。さっきは私も言い過ぎたのです。ごめんなさいなのです。仲直りにご飯の準備するです。少し待っているのです」


 妹はいつものように表には出てこず、そのまま洞窟の奥でゴブリンの食事の準備をしだす。


「ありがとうギャ。お前は本当にかわいい妹ギャ」


 ゴブリンは妹の可愛さに凶悪に変化した顔を、さらに邪悪に歪めた。


 本人は愛情の籠った笑顔をしているつもりであったが、その外見だけを見たら全ての人が恐怖に駆られていただろう。


 ただ名無しゴブリン自身は、その変化には全く気付いていなかった。


「今日はお兄ちゃんの好物のウサギの生肉が無いのです。今日は野菜の盛り合わせなのです」


 妹は洞窟の奥から、申し訳なさげな声で兄に食事の内容を告げた。


「大丈夫だギャ。オラは妹の作る料理だったら、何でも美味しく感じるギャ」


「もうお兄ちゃんは、お世辞ばっかりなのです。ところでお兄ちゃん、なんか声がいつもより野太くなってる様なのです。何かあったのです?」


「特に何もなかったギャ。ちょっとカッコイイ腰巻を手に入れただけギャ 」


「そうなのです?」


「そうだギャ。後でお前にも見せてあげるギャ」


 大きくなった犬歯を覗かせて妹が料理を運んでくるのを、ゴブリンは今か今かと待ちわびていた。


 食事の準備ができたのか、洞窟の奥から妹の近づく気配がする。


「いつもすまないギャ。お前は世界一の妹だギャ」


「お兄ちゃん、そんなにオダテテモ……きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 妹の悲鳴と共に料理を載せていた葉っぱの落ちる音が洞窟内に響く。


「どうしたギャ。何があったギャ?ま、まさか、またストーカー野郎だギャ?オラを馬鹿にするだけでは飽きたらず、オラの妹にも……。許さないギャ」



 ゴブリンは傍においていた【ゴブリンスレイヤー】を、ブーメランパンツに差し込むと妹に駆けつけた。


「きゃああああああああああ。助けてなのです!私は子供のゴブリンなのです」


 妹はガタガタと震えて、頭を抱えるように蹲っている。


「待ってるギャ。今直ぐ行くギャ」


「まだ子供を産める程に体は成長してないのです!見逃して欲しいのです」


 妹は名無しのゴブリンの声が聞こえていないのか、体を震わせるばかりだった。


「何を言っているギャ?何を怖がっているギャ?」


「お願いなのです。お願いなのです」


 名無しのゴブリンが近づこうとすると、妹は涙を流しながら震えを大きくする。


「分かってるギャ。お兄ちゃんは、すぐにお前の傍に行くギャ」


「近づかないでなのです。助けてお兄ちゃん!助けてなのです!私、凶悪なゴブリンに子供を産まされるのです」


 名無しのゴブリンが近づくと、妹は大好きな兄に助けを求めるように叫んだ。


「お兄ちゃんは傍に……」


「嫌なのです!傍に来ないで欲しいのです」


「落ち着くだギャ。とにかく落ち着くだギャ」


 名無しのゴブリンは妹に近づく事を止めて、妹を落ち着かせる事に専念した。


「うっぐ……ううう。お兄ちゃん……」


 妹は凶悪なゴブリンが自分に襲いかかって来ない事に疑問を抱き、頭を上げる。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!お兄ちゃん!助けてなのです」


「アギャ?オラが……どうしたギャ?」


 妹の目の前には凶悪なゴブリンの顔が迫っており、大きく開いた口からは巨大な犬歯が覗いていた。


「私のお兄ちゃんは凄く強いのです。たまに頼りない所もあるですが、とっても優しいのです。あなたが私に変な事をしても、必ずお兄ちゃんが助けてくれるのです」


「オラが、そのお兄ちゃんだギャ」


 名無しのゴブリンは優しく笑ったつもりだったのだろうが、妹には自分を騙す凶悪な笑みにしか見えなかった。


「そんな変態のお兄ちゃん何て知らないです。変態は悪なのです」


「オラは変態じゃないギャ。オラは……」


「確かに私のお兄ちゃんは全裸の変態さんなのです。それでも、そんな卑猥な腰巻を付けたゴブリンさんはもっと変態なのです。そんなにモッ、モッコ、コホン、とにかくそんな変態さんは、お兄ちゃんじゃないのです。近づかないので欲しいのです」


 妹が名無しのゴブリンに必死に言い募る。


 自分の身がどうなるかの瀬戸際だったので、相手を変態扱いして怒りを注いでいる事に気付いていないようだ。


 もっともお兄ちゃんは妹の言葉の一撃で、かなりのダメージを負っていたのだが。


 現状のお兄ちゃんはブーメランパンツを華麗に身に付け、アノ部分をテントのごとくピンと張ってる。


 勿論テントは軍手により強力な補強がされており、その張り具合はちょっとした暴風では折れないような凛々しさと男らしさを演出していた。


 簡単に言うとパンツ一枚の変態という奴だ……しかも特定の部分が発情しているような。


 ノーパンツキングから、さらなる変態的進化を遂げたゴブリンは、素晴らしい身体を手に入れたが、赤の他人から見たら凶悪な変態にしか見えなかったのだ。


 考えてみて欲しい。


 例え実の兄だとして事前連絡もなく、凶悪な見た目の変態が自分の家に突然現れたらどう思うか?


 それは絶叫モノであろう、その者を変質者扱いするくらいには。


 ゴブリンの妹も、今は同じ気持ちであった。


 妹は目の前の凶悪変態ゴブリンが、自分の兄だとは微塵も考えていなかった。


「お願いなのです。私を犯さないで欲しいのです。赤ちゃんの種を植え付けられたら、近所を歩けないのです。お兄ちゃんにも合わせる顔が無いのです」


 妹は大粒の涙を流しながら、頭を床に擦り付けるように慈悲を乞うた。


「何を言ってるギャ。どんな姿でもオラはお前の妹だギャ。顔を上げるギャ」


 凶悪変態ゴブリンが目線を合わせるために、妹の側で膝を付いた。


 しかし妹との体格差は大きく、妹が顔を上げた目の前にちょうど荒々しいテントが迫っていた。


「きゃああああああああああ。助けてなのです!私は子供のゴブリンなのです」


「オラはお前の兄だギャ。信じるギャ」


「そんなお兄ちゃんは知らないのです。早くこの家から出行くのです。お兄ちゃんのはそんな凶悪なテントなんかしてないのです。もっと……かわいいの……です。コホン」


 妹は凶悪変態ゴブリンに襲われないように、必死で彼を住み家から追い出そうと目を瞑りながらも抵抗する意思を示す。


 妹は、しばらく全身を固くしていたが、その緊張も長くは続かなかった。


 彼女の緊張が途切れた時、願いが通じたのか、凶悪変態ゴブリンの声が聞こえなくなっていた。


「あれ?なのです。私は襲われてないのです?」


 妹は恐る恐る目を開けると、目の前には凶悪変態ゴブリンの姿は消えていた。


 代わりに筋力の削げ落ちたゴブリンが、床の倒れていた。


 ブーメランパンツと2枚の軍手が、彼の小さな局部を()()()()と隠すように落ちていた。


「あの凶悪なゴブリンは?きゃああああああああああ。助けてなのです!他にも変態さんがいるのです。今の内に逃げるのです。このままじゃ誰か分からないゴブリンの赤ちゃんを産まされるのです」


 妹は洞窟の奥にある荷物も持たず、着の身着のまま洞窟を急いで出て行った。


 その足取りは震えており、とてもスピードがあるものではない。


 もっとも変態ゴブリンは、それどころではなく精神的ダメージと身体弱体化で身動きが出来なかった。 


「オラは……お兄……ちゃんだ……ギャ」


 ゴブリンは大粒の涙を零しながら意識を失った。



◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇コケ◇◆コケ◇◆コケ◆ 


 白い霧が濃くなっていた渦の中心に、意識を失ったゴブリンが倒れていた。


 普段から光を遮るように魔の森は木々が鬱蒼としていたが、白い霧のせいで視覚は全く役に立っていなかった。


 そんな視覚が塞がれた場所で、巨大な赤い光が白い霧の向こうでチラチラと光っていた。


 その光はゆらゆらと意識のないゴブリンに向かってくる。 


 うっすらと意識を取り戻したゴブリンは、自身の置かれている状況を思い出そうと、周囲を確認するために首を左右に振った。


 意識が徐々に回復していくとゴブリンは、森の奥に敵意の視線を感じ、そちらに視線を送った。


 赤い輝きは動物の瞳であり、ゆっくりとゴブリンに近づいて来ていた。


 赤い光はゴブリンのかなり前方で止まったが、ゴブリンはその光の正体に気付いてしまった。


 ゴブリンの本能はその姿に恐怖を覚え、体が勝手に震えだしていた。

【次回予告 最弱のゴブリンが最強へと這い上がる逆転ストーリーっス。嘘っス】

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