帝国が恐怖するもの
カルとマルクは、極悪非道の師匠を思い出して別の世界に旅立っていた。
「ところでカル。話は変わるのですが【フルッフグランツランド】に漆黒の天使を信奉する盗賊団が出没しているそうです」
「漆黒の天使?う~ん。まさかなぁ~」
「まさかとは思いますが何か関わりがあるかもしれませんので、こちらから接触を持ってみようと思います」
「分かった。ただ帝国の者だとバレないように慎重にな」
「わかりました。私の直属の部下を使います」
「くれぐれも慎重に頼むぞ」
「私もカルと一連托生ですよ。そんなミスは犯しませんよ」
「それもそうか。ガハハハハ」
カルの地響きが起こりそうな笑いを聞きながら、マルクは懐の中をまさぐっていた。
「うん?マルク、何かあるのか?」
「もう一件ありまして……貴方の御子息に関してですが」
「何!アリエノールが戻ったのか?どこだ?今どこにいる?」
カルは厳つい顔には似合わない笑顔をし、アリエノールをキョロキョロと探しだした。
「あれ?私は御子息のルートゥ様の話をしたつもりなのですが」
「あんなシスコンの息子など知らん。俺はアリエノールちゃんさえいればいい。あんな奴はドラゴンの巣穴に落としておけばいいんだよ」
「中々に辛辣ですね、カル」
「まあいい。そのシスコンの息子がどうした?まだアイツは向こうにいるはずだろ?」
「それがですね。軍に入る前の勉強ということで、1年程こちら側を旅しているそうです」
「何だと!それなのに何でアリエノールちゃんは俺に会いに来ないんだ。ま、まさかシスコン野郎が俺への妨害工作をしているのか?許さん!許さんぞ!」
「カル、少し冷静になりましょう。話が進みません」
「これが冷静になれるか。あのシスコン野郎はアリエノールちゃんが幼いのを良いことに兄様、兄様と呼ばせて調子に乗っていたんだぞ。この俺を差し置いてだぞ。パパと呼ばれようと楽しみにしていた俺を蔑ろにしたんだ」
トゥルーはリオンの抹殺リストに載っていたりするのだが、父親にも命を狙われているようだった。
リオンによる罪状はイケメンのためだったが、父親からの罪状はシスコンだからである。
両罪共に冤罪であったが、問答無用で刑を言い渡されるトゥルーの前途は多難であった。
「話を聞かないのであれば、アリエノール様にカルの悪口を書いた手紙を送りつけますよ。アリエノール様がカルをお父様と二度と呼ばなくなるような手紙をね」
マルクは邪悪な笑みをしつつ、カルを脅す。
カルはシューリン程ではないが娘大好きの父親であった。
娘を人質に取られれば、無条件降伏しか方法がないカルであった。
「大変申し訳ございませんでした。くれぐれも、くれぐれも、アリエノールちゃんには手紙送らないでください。ちゃんと仕事します」
そこには皇帝の威厳など欠片もないカルが、土下座してマルクに許しを乞うていた。
「分かりました。今回は見逃しましょう」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
カルは涙を流しながら、マルクに感謝を述べていく。
大袈裟に思われるかもしれないが、マルクは本当に恐ろしい男である。
その昔マルクは仕事をしないカルに激怒し、その現状を手紙にしアリエノールに送ったのだ。
その手紙を読んだアリエノールは、カルに対して『仕事をしないお父様なんて嫌いです。仕事をしないなら、もうお父様とはお話いたしません』と言い放ってしまったのだ。
カルはショックの余り死にかけた程であった。
その後は貯め込んでいた仕事を1週間の徹夜で何とかこなし、マルクに許しを乞うた。
「それでは話を戻しますよ。トゥルー様ですが、今は孤高の賢者の元に向かわれています」
「アイツの所に向かってるのか。アイツが俺達に手を貸してくれるのか?」
「それはトゥルー様達次第ですね。あの方は、かなり気難しい方ですからね」
「まあな。昔からそうだ。アイツは己が決めた事はテコでも曲げないからな。頑固すぎて気付いたら周りの人間がいなくなって、孤高なんてよばれるようになったからな」
「それでも帝国だけでは防げない事が起こるかもしません。孤高の賢者がいてくれれば、かなりは助かりますからね」
「まあ期待せずにまっておくとするか。あいつ等が、どの程度強くなってるかの試験として見てやればいいさ。ガハハハハハハハハ」
「まあそうですね。暖かい目で見守ってあげますか」
「ただ……」
「ただ?」
「アリエノールちゃんに孤高の賢者の変な癖が移らないか心配だ」
「それは大丈夫だと思いますよ。アリエノール様には他に気になる方が……」
「何だと!殺してやる!今すぐ連れてこい!俺が直々に殺してやる。今すぐ手配書を配れ!罪状は国家転覆罪だ」
「何を言っているんですか。本当に。いずれアリエノール様も輿入れされるのですよ。今から慣れておかないと」
「俺は他国の糞貴族や糞王族なぞに大事な娘を嫁がせる気は無いぞ」
「分かっていますよ。アリエノール様は私にとっても大切な娘ですから、糞な人間なんかに嫁がせるつもりはありませんよ」
「ふん!いくらお前がアリエノールちゃんを娘のように思おうと、俺がお父様だ。皇帝の地位を譲ったとしても、お父様の地位は誰にも譲らんぞ」
カルは厳つい顔の頬を膨らませて、可愛くない表情をしていた。
そんな姿を見てマルクは乾いた笑いしか出てこなかった。
「それはそうとカル、トゥルー様から手紙が届いておりました。大事な内容とのことです」
「何だと!手紙?アリエノールちゃんからの手紙なら早くよこせ」
「残念ながらアリエノールからの手紙はありません。トゥルー様からのみです」
「そんな手紙はいらん。さっさと捨ててしまえ」
「はい、はい。それでは私が封を開けさせてもらいますよ」
マルクはへーパーナイフで手紙の封を開けると、中身の手紙に目を通した。
ゆっくりと読み進めていたマルクの目が、途中で驚愕に見開かれていく。
マルクは顔を真っ青にしながら黙って手紙を差し出し、カルに読むように促した。
尋常でないマルクの様子に、仕方なく手紙を受け取ったカルは手紙に目を通す。
手紙の最初には私はシスコンではありませんし、兄という事は事実です等々の他愛も事が書かれていた。
「ふん!ショウモナイ事を書きやがって。あんなナヨナヨした奴が俺の息子とはな」
カルはブツブツ言いながらも、手紙の先を読み進めた。
「カル、どう見てもルートゥは貴方の息子ですよ。若い頃の貴方にそっくりじゃないですか」
「ふん!」
不機嫌そうにしていたカルの表情が次第に驚愕に変化していく。
表情の変化を読み取ったマルクは、該当箇所まで読まれた事を悟った。
「カル、その案件はどうしますか?」
「え゛?」
悲鳴に近い驚きの声が聞こえたと思った後に、ガタガタと椅子が音を鳴らしており、その発生源を見るとカルが震えていた。
カルが持っていたコップは、水を中にとどめる事が出来ずに机の上に零れ落ちる。
マルクも冷静になろうとしていたが、その表情は真っ青であった。
普段の二人からは考えられない怯えように、もしルートゥがこれを目撃したら驚きの表情をしていただろう。
両者ともレベル20を超える猛者であり、英雄の領域に足を踏み入れている人間である。
それがこの怯えようである。
「俺、ちょっとお腹が痛くなってきた。ちょっと1ヶ月ほどトイレに籠ってくるわ」
「私も働き過ぎでしたので、少し有給休暇を取りますか。1年程溜まっていたと思いますので、この際に……」
「マルク、何ふざけた事言ってる。お前は残れ。俺はトイレに行く」
「カル!貴方こそ何言ってるんですか?トイレに1ヶ月籠れるわけないでしょ。私は休みます」
「ふざけるな!休暇よりトイレの方が緊急度は上だ。漏らしたらどうするんだ。俺が先に行くから、俺が戻ってから休みを取り」
「カルはそう言って戻って来ない気ですね?薄情な上司だ。ああ、なんてブラックな企業に就職してしまったんだか」
「生存競争に薄情も何もあるか!」
帝国のトップ達が子供のような言い合いに終始していた。
部下には見せられない醜態であった。
「ちきしょう!どうすればいいんだ?」
カルは絶叫しながら、悶絶していた。
「そうです。いいことを思いつきました。賢者をこの案件にぶつけましょう。彼なら喜んで行くかもしれませんよ」
「そうか。その手があったか。アイツの師匠は俺達の師匠とは違うからな。上手くあいつを騙して辺境に送り込むか」
「そうしましょう。そうしましょう」
二人の顔には悪魔のような歪んだ笑顔があった。
自分が助かるために平気で昔の仲間を売るような所は、師匠譲りかもしれなかった。
【次回予告 勇者の登場ッてテンプレじゃないっスか?大丈夫っスか?タイトル詐欺っスか?】




