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帝国での密談

 シューリンが変態へジョブチェンジするかどうかの大事件があった時と同じ頃。

 

 カークバリー帝国、皇帝執務室にて


「マルク、魔獣平原での動向はどうなっている?」


 執務室の主、皇帝カル=ヒレス=ザクセンが宰相のマルクに問いかけた。


「カル、近頃は魔獣平原には魔王軍の偵察部隊がチラホラと目撃されています」


 マルクは執務室で二人という事もあり、皇帝の名前を呼び捨てていた。


 カルはすぐには答えず、大きな体をゆっくりと椅子の背にもたれさせている。


 その体躯は2メートルに迫り、額から頬に駆けて十字の傷があり、顔は山賊か海賊の頭目のように厳つかった。


「予想道理という事か。我が軍で対応する事は可能か?」


「魔獣平原に出て来るであろう魔王軍の戦力だけであれば、我が帝国軍で十分かと」


 人の良さそうなというよりは気弱そうな感じのマルクが答える。


 この男、見た目は気弱そうに見えるが帝国で皇帝の次に武力を誇る剛の者であった。


 だがこの男の怖い所はその武力ではなく、えげつない考えで人を嵌める頭脳にある。


 これは若かりし頃、カルと冒険者をしていた時に世話になった師匠の影響が大きいのだろう。


 逆にカルは馬鹿ではないのだが、どちらかと言うと脳筋に傾いていた。


 そんな2人に影響を与えた師匠を一言でいえば、悪魔である。


 師匠本人は絶対に否定するだろうが……。


 師匠を例えるならば、死にかけている2人を喜んで崖から突き落とすような非道な人間なのである。


 さらに悪い事に師匠の力は人知を超えており、2人で協力しようとも逆らうことは叶わなかった。


 師匠の気配を感じると、今でも条件反射で土下座しそうになるくらいに、2人は心に深い傷を負っていた。


 もっともそれと引き換えに、帝国でも最高峰の武力と知力を手に入れたので結果オーライと言ったところかもしれないが。


「そうか。今以上に魔王軍が増える可能性はあるか?」


「現状では、はっきりとは断言できませんね。ただ、天魔帝国内でも色々とバタついているように感じます。何かが起こるのかもしれません」


「であれば、この件はこれ以上の議論はできんな。様子を見るしかないか。それで糞共は何と言ってきている」


「カル、腐っても皇帝ですよ。他国の貴族や聖浄教会の人間を糞呼ばわりするのはどうかと思いますよ」


「お前こそ糞だけであいつ等の事だと分かるんだから、日頃からそう思ってるって事だろ。それに俺は腐ってねえよ」


 リオンが見たら確実に失禁ものであろう凶悪な顔のカルが、ニヤリと笑顔を作り、殺人者の顔になっていた。


「おっと、それは失礼しました。私とした事が。日頃の不満の声が漏れたのかもしれませんね」


 マルクも特に悪いと思っていないのか、言葉だけの謝罪をしていた。


 カルはマルクの答えを聞いても特に怒ることはなく余裕の笑みを見せていた。


「ああ、王国と教会の話でしたね。魔王軍へ対抗するための資金が必要なため、辺境の街【フルッフグランツランド】の返還と鉱山税の撤廃を提案した親書を王国に送りましたが難しいでしょう。王国も教会も金の亡者ですし」


 辺境の街【フルッフグランツランド】は50年前、王国との戦争での賠償として割譲を迫られた土地である。


 その頃は未だ帝国は存在せず、小領主がそれぞれの地域を好き勝手に治めていた。


 そこにフィンワーズ王国が領土的野心を持って東に侵攻してきたのだ。


 もちろんフィンワーズ王国は教会に多額の寄進を行い、魔王軍から小領主を保護するための必要な措置というお墨付きを与えらえていた。


 強国である王国に対抗すべく小領主は連合を組んだが、所詮は我の強い領主の集まりである。


 王国の前にあっけなく敗北をきした。


 その際に賠償として全領主にそれぞれ領地予算の10年分のに相当する金銭、鉱山から算出する鉄や銅に3割の鉱山税、毎年1,000頭の馬の献上、肥沃な土地であった辺境の街【フルッフグランツランド】の割譲が求められた。


 もちろん反発は強かったが既に戦争で負けており、金の亡者たる聖浄教会の介入もあり抵抗する事はできなかった。


 年を追うごとに借金が膨れ上がっていき、小領主達は王国の支配地のような存在にまで落ちぶれていた。


 そんな彼らをまとめ上げて、10年ほど前にカルがマルクと共にカールバリー帝国を建国したのだ。


 もっとも帝国と名乗っているが現状、帝国は教会に国として認められていない。


 ではなぜ滅ぼされずに存続できているかというと、多額の賠償金を帝国が引き継ぎ王国に払い続けているからである。


 そしてその内の何割かが教会にも流れているので、取り合えず見て見ぬふりをされているだけである。


「まあ、そうだろうな。それで何か仕掛けてくるか?」


「王国はこの機にさらなる帝国領土の割譲を求めてくるでしょう。魔王軍程度を抑えられない者に、その土地は任せられないとの錦の御旗を掲げてね」


「ふん。守銭奴が!まあいい。好きにさせてやれ。魔王軍を舐めて死ぬのはあいつ等だからな」


「そうします。既に王国では魔獣平原方面と【フルッフグランツランド】方面に物資などが集まっているようです」


「早くも戦争の準備をしているってことか?」


「そうですね。臨時の税の徴収も行っているようです。情報によると徴税請負人に3年分を納めさせたようです」


「税は冨の再分配システムであって、貴族が贅を貪るための財布じゃないんだぞ」


 カルは怒りの形相で大きな拳を執務室の机にガツンと叩きつけたが、机は頑丈に作られているのか少し震える程度でびくともしなかった。


「カル、その机を壊したら貴方のお小遣いから引いておきますね」


「駄目だ、マルク。悲しいかな、俺の小遣いじゃこの机は買えねえ。この机は意外と高級品だからな」


 煌びやかではないがしっかりと作り込んである机だったので、カルが思いっきり殴っても壊れない頑丈な作りになっていた。


 もっとも王国貴族達がこの机を見たら、派手ではないために、みすぼらしいと言うかもしれないが。


「おっと、そうでしたね。それに王国貴族の税金の認識について怒っても無駄ですよ。集めた財は自分達が贅沢するため、自分達がふんぞり返るためのみに使うのが当たり前だと思い込んでいるみたいですから」


「やっぱりあいつ等は糞共だな。俺達からむしり取っている金も、そんな事に使われていると思うと虫唾が走るな」


「それも今回迄ですよ」


「そうだな。今回までだと思えば我慢できなくもないな。立ち直れないくらいに王国を破壊してやる。欲深い奴らにもうこれ以上、帝国民の努力を貪らせはせん。それに王国が混乱すれば、教会が帝国に締め付けを行ってくるまで少しは時間が稼げるしな」


「いよいよですね。この問題さえ片付けてしまえば帝国の国力は一気にフィンワーズ王国を抜き去りますね」


「富の適正な再分配を行わず、富を貪り食ってる連中の財政なんか俺達が何もしなくても、そのうちに破綻しているだろうがな」


「カル、間違ってますよ。その内ではなく既に破綻していますよ。フィンワーズ王国の財政は国家予算の8年分の借金をこさえて、利息だけで既にどうにもならない状況ですね。もっとも王国貴族達は借金など強権を発動して、徳政令などで棒引きにすればいいぐらいに考えているのでしょうが」


 この時代の借金の利息は中央銀行制度がなく、商人や国家は安く資金を集める事が出来なかった。


 しかも貴族によっては頻繁に借金棒引きの徳政令を出してた。


 貴族達は商人達を金銭に囚われた下賤な輩と見下しており、権力を笠に着て商人に無理を押し通させている。


 したがって商人達は自分達の利益を守るために年率3割以上の利息が当たり前であり、度々デフォルトを起こしている国や領主の場合などは年5割以上の利息を取っていた。


 デフォルトを起こす国や領主であっても、その支配地で商人は商売しており、借金を完全に断る事はこの時代難しかったのだ。


「はん。じゃあ俺達で安楽死させてやるか」


「貴族共は安楽には死ねないと思いますよ。怨嗟と憎悪を帝国に向けて死んでいくと思いますよ」


「俺にとっては何より嬉しい事だがな。ガハハハ。ところで王国の物価は上がっているのか?」


「そうですね。現在食料品などが軍事遠征のために買い占められています。王国は傭兵団を大規模に雇っているようですし。そちらのほうでも食糧や鉄の価格が跳ね上がっていますね」


「そうか。この機に王国の金貨をかき集めるぞ。マルク、余裕はあるか?」


「今年は豊作の予定ですし、王城の備蓄もかなり貯まってきております。王国で放出しても特に問題はないですね。例え来年不作になったとしても影響は軽微です。食料は【五人の息子達】に流すようにいたします」


「【五人の息子たち】か。彼等はずば抜けて優秀だが、今回は俺達の意図道理に動いてくれるのか?」


「大丈夫だと思いますよ。彼等の目的は金ではありませんし」


「まあ、そうだな。俺達がアイツ等の目的に敵対する事は絶対ないしな。食料に関しては頼んだぞ、マルク。話を戻すが【フルッフグランツランド】側の準備は俺の領土へ侵攻するためだろ?」


「そうですね。そちらに魔王軍は現れませんし、欲深な王国の中央貴族がこの機に【フルッフグランツランド】のさらに奥に手を伸ばそうとしているみたいですね」


「そいつらは皆殺しにするぞ。魔王軍に手を出すのは自由だが、俺の民に手を出すのは許さねえ」


 怒気を含んだカルの顔は鬼の形相になっており、リオンなら確実にチビっていただろう、間違いない。


「分かってますよ、カル。もっとも悲惨な死に方をプレゼントして差し上げます。その際に【フルッフグランツランド】はお礼として貰い受けましょう」


「お前もたいがい悪辣だな」


「師匠が師匠ですからね。仕方ないですよ。ハハハ」


「そうだな。ハハハ」


 マルクとカルは若かりし頃の地獄を思い出したのか乾いた笑いしか漏れてこなかった。


【次回予告 俺っちは帝国の闇を覗いてしまったっス。】

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