眷属契約完了
結局リオンの無罪が証明された。
もっとも証明されなくても、牢屋を出る事は可能だったのだが、悲しい事にリオンの仲間達は彼の言葉を全く信用してくれなかった。
不貞腐れたリオンは自分の欲望を叶えるための行動を起こそうと心に決めた。
もちろん皆にバレないようにするのは、必須条件である。
しかし欲望を叶えるための最初の一歩は、誰にも疑われない自信がリオンにはあった。
それは、クエスト『薬草を採取せよ』だからだ。
クエストを達成した後のチョメチョメなど誰も想像すらしまい。
チョメチョメは条件を満たす事により解放される秘密のクエストなのだから。
とうとう、この物語に初クエストのフラグが立ってしまうのであった。
リオンは気合を入れて薬草採取の準備に取り掛かった。
もちろん従者達は絶対に連れて行くのに迷いはない。
自身の安全とクエストがバレないかを天秤にかけ、自分の安全を今回は優先したリオンだった。
まあ薬草採取だけでは、リオンの真の目的に気付くことはないと思っていたのだ。
リオンはバレる事も考慮して、割引券はしっかりと秘密の場所に隠蔽しているのだ。
下種な事だけには頭の回るリオンであった。
そんなこんなで、リオン達は薬草が生えていると情報を得た場所に辿り着いていた。
「門番さんの情報だと、この辺に薬草があるはずなんだが……」
「コケ?主、今フラグを立てたっスね。普段生息していない凶暴なモンスターが現れるっスよ」
ヤキトリはリオンの頭の上からコケコケ騒ぎ、リオンはネルの背中で通常運転だった。
「ふっ!甘いな。俺にはフラグは立たない。見てろよ」
「まあ主は、立てるってよりは建てるって感じっスかね。主のフラグは頑丈っスから。コケコケ」
「ネル、もう少し森の奥に移動しようか。薬草が生えている気がする」
「分かったの な。の~な~♪。の~な~♪。の~な~♪。弟の仕事を手伝うのは♪ねぇねの嗜み♪」
不思議な歌を歌いながら、ネルはリオンが示した方向にテクテクと移動する。
シューリンはネルを羨ましそうに見ていたが、何かを決心したように首を振り気合の籠った表情をリオンに向けた。
それは今までママであった者が、お母さんになったような勇ましさを漂わせていた。
リオン達が何事もなく森の奥に移動した時、前方でゴソゴソと草むらが揺れた。
リオンはネルの背中の上で警戒態勢を取ろうとしたが、例によってネルの怪力のため全く身動きが取れなかった。
まあリオン以外の者達は、全くと言っていいほどに警戒態勢を取っていなかったのだが。
「気を付けろ。何かが出てくるぞ!」
とりあえずリオンは、俺は仕事をしているという事をアピールするために皆に叫ぶ。
「アギャァァァァァァァァ!覚悟するギャ。家族を、オラの家族を壊した恨みだギャ」
リオンが叫ぶのに少し遅れれ、緑の影がリオンに襲いかかってきた。
事前に心の準備をしていたリオンだったが、いざ襲いかかられて何も出来ないのであった。
緑の影は、長い剣身を鞘から抜かずに頭上より振り降ろそうとしている。
リオンとの距離が後3歩となった所で、緑の影は身体を痺れさせて倒れる。
「グギャ。やられたギャ。辱めを受けるくらいなら……くっ、殺せだギャ」
リオンの前で倒れていた影は、いつかどこぞで見たゴブリンであった。
クッコロ発言をされても、少しも勇ましく感じる事は出来ない。
むしろ真っ裸のフルチン状態だったので、衛兵さんがいれば変態の容疑で詰所まで連れて行ってもらおうと思ったぐらいだった。
「ねぇね、背中から降ろししてほしい」
「いやなの な。これはねぇねの嗜みなの な」
リオンはゴブリンに近づくためにネルに降ろしてくれるように頼んだが、彼女はちっちゃいホッペをぷくうっと膨らませて不満を訴えた。
「聞いてくれ、ねぇね。弟は成長しなければならない時が来るんだ。それが今なんだ。ねぇねは弟を見守ってて欲しい」
「の な!分かったの な。ねぇねは弟の成長を見守るのも務めなの な。リオンが夜中に独りでトイレに行けなくて、おねしょしてしまったのも見守っていたの な。の な」
リオンはネルを言いくるめるのに成功したが、なぜか精神力をガリガリと削られていた。
ちなみに現在のリオンは夜の失禁は封印する事に成功していたが、昼の失禁は邪悪なる力の影響か、しばしば封印が解けて大変な事になっていた。
大ダメージを受けた体でふらつきながらも、リオンはゴブリンの傍に近づいて行く。
「どうした?お前の力は……」
大地に倒れているゴブリンに向かって強気になっていたリオンは、ゴブリンに偉そうな言葉を吐こうとしたが、冷たい視線を複数感じて行動を思いとどまった。
疑問に思ったリオンは普段全く使わない頭を高速回転させ、今後起こるであろう出来事をシュミレーションしていく。
そして確実に起こるであろう一つの結論に辿り着いた。
「ふははははは。読み切った。全てを読み切ったぞ、ヤキトリ。お前のチンケな企みは、俺のピンクの脳細胞によって阻止されるのだ」
リオンは後ろにいたヤキトリに向かって、ビシッと人差し指を向けた。
リオンの指摘に平静装っているヤキトリであったが、リオンには下手な誤魔化しをしているのように見えるのであった。
「ふっ、ヤキトリよ!俺に誤魔化しは効かないんだよ。このゴブリンに近づいた瞬間、俺を変態に仕立てようとしているのだろう」
リオンは両腕を広げ、自分は無実である事をアピールしつつ、ヤキトリの逃げ道を塞いでいく。
「だが残念だったな。この場所からゴブリンの粗末なモノを封印してしまえば、俺が変態認定される事はないのだよ、ヤキトリ君。ふはははは。どうだ?ピンクの脳細胞の計算能力は?」
「俺っちはそんな事は……」
「真犯人の言い訳にしてはチンケだったな、ヤキトリ。さあ、あの粗末なモノを封印するモノを渡すがよい」
「主がまた訳の分からない事言ってるっスね。仕方ないっスね。これをあげるっス」
ヤキトリはインベントリから布切れを取り出し、リオンに手渡した。
「ふっ!最初から素直にそうしていれば、傷つかずに済んだものを……」
ヤキトリから受け取った布切れをリオンは天に高らかに掲げると、そのままゴブリンへと投げつける。
布切れはゆっくりと空中を踊り、ゴブリンの粗末なモノの上に舞い降りる。
布がゴブリンに触れた瞬間、粗末なモノを中心に光が溢れ出していった。
『ぴろり~ん。【名無しの子ゴブリン】は【極レア 赤と黄色のブーメランパンツ】が下賜されたことにより、眷属契約が完了しました。【ノーパンツキング ゴブリン】は【ブーメランキング ゴブリン】へと種族進化しました。己の限界を突破した事によりレベルを手に入れました。スピリト【欺く者】を手に入れました』
リオンはゴブリンへの変化に驚愕し、脳内で響くアナウンスは全て聞き流してしまっていた。
光が収束した後には、貧相なゴブリンではなく、歴戦の戦士のようなゴブリンがいた。
「アギャ?何が起こったギャ?オラは一体……」
アスリートのような筋肉を身に付けたゴブリンは、頭を振りながら自分の今の状況を理解しようとしていた。
全身に力を入れながら、ゆっくりと立ち上がると身長がリオンの頭一つ追い越していた。
「な、な、な、何だ~それは!何でそんなに大きくなってるんだ!詐欺だ!卑怯だ」
リオンはギャアギャア騒ぎ立てていたが、その視線はゴブリンの頭ではなく、股間の方にロックオンされていた。
ゴブリンの股間は際どいブーメランパンツが装着されており、その姿は猛々しく他の者を寄せ付けない存在感をこれでもかと放っていた。
当社比で3倍増といった所だろうか……当社というかリオンが自身の宝剣と比べたのだが。
リオンは自分の宝剣と比べてしまった事を後悔し、圧倒的敗北感に打ちのめされていた。
自信の喪失と共に足元がふらつき、リオンは大地に激しく倒れてしまった。
地面に這いつくばり意識が遠のきかけていたリオンに、聖女のような優しい声が投げかけられた。
「リオンちゃん、どうしたの?リオンちゃんにはお母さんが付いているわ。勇気を持って立ち上がって」
リオンに励ましの言葉をかけるシューリンは、聖母のような慈愛に満ちた微笑みをしていた。
リオンは体の中に残った僅かな力を奮い立たせ、母親に応えるために立ち上がろうとした。
「うおおおおおおおおおおおおお!俺は負けない。そんな大きさだけの奴になんか負ける訳がない。宝剣は大きさよりも硬さなのだよ」
「そうよ、リオンちゃん。お母さんもリオンちゃんのオシメを替えてきたのよ。リオンちゃんが小さい頃から知っているわ。リオンちゃんは今大きく成長する前なのよ。まだ小さくてもお母さんは気にしないわ。成長前は柔軟性がある方がいいのよ」
「うぐ!」
リオンは立ち上がる事なく、再び大地を舐めていた。
シューリンはリオンの身長の事を言っていたのだろうが、リオンは別の事を言っている様にしか聞こえなかった。
そして……リオンは……思い……だした。
つい2年前までリオンは小学生みたいなものであり、シューリンに裸を見られていた事を。
まだ成長しきっていない……と本人は心の底から信じているが、粗末なモノもシューリンに見られていたはずだ。
そして……リオンは……ある結論に……辿り……ついた。
シューリン達が自分の宝剣を、他の者が持つヒノキの棒と比べているのではないかと。
大事なことなのでもう一度い言っておく。
そう他者の装備する『ヒノキの棒』だ。
そんな前提知識を元に全てを考えると、シューリンは可哀そうなリオンに、先ほどの様な憐れみの言葉を掛けたのではないかと。
リオンは被害妄想のため、母親の純粋な言葉を素直に受け止める事が出来なかった。
心が汚れていると、どんな言葉であっても悪く曲解される良い例である。
少し話は脱線するが、シューリンは処女である。
リオンを出産しているが、それはスピリト【処女懐胎】によりリオンの魂を取り込み受胎したからだ。
だからリオンとの間には18禁になるような事は起きておらず、リオンは大賢者への高みへと突き進んでいた。
そのため愛し合う2人が星に願うとお腹に子供が宿ると、シューリンは本当に信じている。
というか実際その様な経験をしているので、彼女の性教育の知識はそれ以上発展する事はなかった。
もっとも、ぐへへへへな妄想は、これでもかと脳内でされている事は乙女の秘密としておこう。
なので彼女の掛け声が下ネタをベースにしている事はないのだが、心の汚れたリオンには知る由もなかった。
【次回予告 人……ゴブリンは簡単に闇に落ちるっス。それをやった悪党はアイツっス】




