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家族会議IN取調室

「お前が昨日捕縛されて来た奴か。突っ立てないで、さっさと椅子に座れ」


 影はリオンを椅子に座るように促す。


 リオンは影に進められるままに、空いていた椅子に座った。


「何て事をやったんだ。故郷の母さんが泣いているぞ」


「申し訳ありません。え、あの、反省してます」


 状況がよく分からなかったが、リオンは強い者には巻かれろとばかりに、とりあえず謝る事にする。


「お前が幼い子に悪戯した奴っスね。最低っスね。もうコケコケっス」


 光が眩しくて姿がはっきりしなかった影から、何か聞き覚えのある口調が飛び出してきた。


 リオンは冷静になり、影を正面から見ずに、少し身体の位置をズラしてみた。


 すると逆光でぼやけていた姿は、黒い張りぼてだった。


 その手前にちょこんとピンクの脂身が、偉そうにふんぞり返って椅子に座っていた。


「おい!お前、こんな所で何してる?」


「コケ?捜査官の俺っちに対して失礼な言葉遣いっスね」


 ヤキトリはヨレヨレのネクタイを何処にあるのか分からない首に締め、不肖羽根?が生えたクチバシにシケモクをくわえていた。


 そんな姿を見て、お前は刑事のイメージ間違えてないかと思うリオンだった。


 ヤキトリは黙って机に置いてあった書類の束を掴む。


 その勢いのまま書類を机に強く叩きつけて、さらに短い羽で机を叩いて被疑者を威嚇しようとする。


 しかし足の短いヤキトリは十分な角度が得られずに机の端で防がれてしまい椅子から豪快に転げ落ちた。


 少し恥ずかしかったのか、顔面を真っ赤にしたヤキトリは、何事もなかったように窓の方へと椅子を抱えていった。


 さすがに哀れ過ぎてツッコミを入れることができなかったリオンは、ただその行動を見守ってあげた。


 ヤキトリはむしろツッコんで、その場の空気を変えて欲しそうにしていたが……。


 窓際に到着すると今度は失敗せずにヤキトリは椅子に飛び乗り、何処から取り出したのか分からないブラインドの隙間から外の景色をキリリとした顔で覗くのであった。


 しかし刑事のようにカッコを付けているが、窓はヤキトリにとっては少し高い位置にあり、ヤキトリは短い脚をプルプルとさせて何とか届いている状態であった。


 そんな様子を見たリオンは白鳥が水面では優雅にしているが、水面下では脚を高速でバタつかせていることを思い出していた。


 もっとも水面に出ている部分もピンクの脂身なので優雅からは、ほど遠いのだが……。


 リオンの冷たい視線に耐え抜いてブラインドを覗き続けていたヤキトリだったが、朝日を見つめるとプルプル脚とは別に体を震えさせ始める。


「コケコッコー! コケコッコー!コケコッコー!フ~ッ! すっきりしたっス」


 ヤキトリは朝一番の誘惑にあがらえなかったのか、気付くと本能の赴くままに鳴いた。


「お前は一体何がしたいんだ? ツッコミを入れてもいいのか?」


「何っスか? 俺っちを馬鹿にしてるっスか? 鶏が鳴くのは序列順っスよ。今は俺っちが一番なんで順番は譲らないっスよ」


「いやいや! お前は鶏じゃないだろ。それに順番って、何か関係あるのか?」


「ヤレヤレっスよ。これだからぬるま湯で育ったゆとり世代って奴はっス。鶏の鳴く順番は序列によって決まるっスよ。競争社会っス」


「そうなの?でもさぁ、今はどちらかというと言うと夕方だろう??」


「コケ!!主、騙したっスね。酷いっス。野生動物の保護はどうなったっス?俺っちの序列が……」


「まあ鳴く順番を間違えても序列自体は変わらないだろ?多分……」


「そうっス。序列はクチバシでのツツキ合いで決まるっス。俺っちのクチバシが輝く時っス。今は俺っちが一番っス。強いクチバシこそが男のロマンっス。鬼の居ぬ間のコケコケっス。今がチャンスの時っス」


「序列にはあんまり興味はないが、今の発言をネル達にチクっていい?」


 その発言を聞いたヤキトリはクチバシをアングリと開けたかと思うと、ガタガタと震えだした。


「ひ、ひ、ひ、酷いっス。ゆ、ゆ、誘導、じ、尋問、っス。弁護士を呼ぶっスよ。国家権力の横暴っス」


 揺れは椅子まで伝達し、ヤキトリはまたしても無様に床に転げ落ちたが、震えは止まらずピンクの身体を青くし脱糞しはじめていた。


「ひ、卑怯っス。こ、これは大帝国の、い、陰謀っス。俺っちは、は、は、嵌められたっス」


「まあチクるのは止めておいてやるよ」


 大帝国ってどこだよと思ったが、無様をさらし過ぎのヤキトリを見て可哀そうに思って、少し優しさを見せたリオンであった。


 それを聞いたヤキトリは途端に震えを止めて、キリリとした眉毛でリオンに向かって自信ありげな顔をする。


 強気になったヤキトリは、お尻をプリンプリンさせながら椅子を机まで移動させ、その椅子の上に前回のような失敗せずにドスンと大きなお尻を沈めた。


「俺っちは、お前の取り調べをする東天紅脂身太郎っス。よろしくっス」


「いやいや、東天紅って鶏の事だろ。お前、不死鳥の誇りはないのか?チキンなのか?まあヘタレだからチキンか?」


「コケコケ!チキンの埃?埃被ったらチキンカツレツーも味が落ちるっスよ。全く分かってないっス。コケコケ」


 チキンがチキンにチキンという醜い争いが、ここで繰り広げられていた。


「話が全然進まないぞ。はあ~。俺は無実だ。真犯人は全てヤキトリというピンクのデブ鳥がやったんだ。俺は嵌められたんだ」


「主とあろうものが眷属を売る気っスか。そこは許されないっスよ。眷属は大事にっス。ブラック企業反対!」


「まあまま。犯人は皆そう言うんだよ。まあ、時間はたっぷりあるんだ。ゆっくりいこう」


 いつの間にか、取り調べが逆になっているリオンとヤキトリであった。


「コケ?違うっス。取り調べは俺っちがするっス。邪魔するのは止めて欲しいっス。事実確認からいくっスよ。幼い男の子や女の子に悪戯したっスか?」


「俺はやっていない。俺は嵌められたんだ」


「仕方ないっスね。故郷のお母さんを呼ぶっスよ」


 リオンが自白しない事に業を煮やした取締官は、リオンに肉親を呼ぶという切札を切った。


「え?ここにシューリンがいるの?」


 絶対ヤバいことになると思ったリオンは、急いで部屋から逃げようとして入り口に向かったが、そこには笑顔のシューリンが道を塞いでいた。


「リオンちゃん!お母さんはリオンちゃんを信じているわ。お母さんはリオンちゃんのためにママからお母さんにジョブチェンジしたのよ。だから正直に話してね」


 何を言っているのか全く分からなかったリオンだったが、シューリンが自分の味方ではない事は分かった。


「何で悪戯したんっスか?女の子だったからっスか?男の子だったからっスか?幼い子だったからっスか?もしかして全部っスか?」


 クチバシにくわえていたシケモクを灰皿に押し付けたヤキトリは、リオンを睨むように瞳の奥を覗き込んだ。


「女の子?男の子?幼い子?単語だけ取り出すと俺はとんでもない性犯罪者じゃないか!」


「その通りっス。酷い性犯罪者っス。だからこうやって捕まってるっス」


「違う。俺はやってない。性犯罪者じゃない!」


「お母さんはリオンちゃんが、小さい頃お母さんをお嫁さんにするんだって言葉を信じてるわ。だから本当の事を話してね」


 シューリンは綺麗だった碧眼を暗い灰色の瞳にしながら、昔の思い出に生きる少女のように呟いていた。


 幼い頃の可愛い思い出を掘り起こされ、リオンは多大な精神的ダメージを負ってしまったう。


「今の内に事実を認めた方がいいっスよ。次は故郷のお姉ちゃんを呼ぶっス。お姉ちゃんにもオシメを替えてもらってたんっスよね?」


「いやいや。やめてくれ。記憶はないが、俺の幼い頃の話は精神的なモノが酷すぎるぞ」


 リオンはもう死んだ目をしていたが、ピンクの刑事はニカッとクチバシの端を吊り上げながら取調室のドアを開けた。


 取調室のドアを開けた瞬間、小さな影が勢いよくリオンに向かって飛び出していく。


「リオンはねぇねがいいの な。妹よりもねぇねなの な。リオンのオシメを替えたのはねぇねなの な!ののののののののななななななななななななななななな」


 ネルはワンピースをはためかせながらリオンの背中飛びつき、姉の価値をこれでもかと精一杯主張していく。


 興奮しているのか普段は眠たそうな銀の瞳が、極限まで見開かれていた。


「いや、あの、ねぇね。俺に妹趣味は……ない事はないが……多分ない」


 妹趣味を明確に否定する事の出来ないリオンであった。


 ネルがどのように言おうと、第三者から見ればリオンとネルは兄妹にしか見えないのだが、姉である事に誇りを持つネルには一切通用しない見解であった。


「ねぇねはリオンのねぇねなの な。リオンは小さい頃、ねぇねをお嫁さんにすると言っていたの な。の な」


 ネルは鼻息を荒くしてリオンの首の巻きつき、リオンの恥ずかしい過去を暴露しだした。


「リオンちゃんはお母さんをお嫁さんにするのよね?誕生日に肩叩き券をプレゼントしてくれたものね」


「リオンはねぇねをお嫁さんにするの な。の な!の な!の な!の な!の な!ねぇねの身体は9歳ぐらいなの な。リオンの妹趣味も叶えてあげれるの な。さすがねぇねなの な」


「ええ!そんな!私はど……私の身体は今14歳ぐらいなのよ。どうしたらいいの?うっぐ。うえうえ」


 シューリンとネルはリオンは挟み込むように、ギャアギャア騒ぎだす。


 間に挟まれてたリオンは万力で締められるように圧迫されていき、その生涯を今閉じようとしていた。


「うぐ。ぐぎゃ。う………死……ぬ」


 リオンはもう少しで天に召される所だったが、天の助けか最後の問題児が2人をリオンから力ずくで引き剥してくれた。


「リオン君は僕をおいて、一人で深淵を覗こうとしているのだ。ずるいのだ。酷いのだ」


 スイはよく分からない発言をしていたが、リオンを救ってくれた事は事実だった。


 確かにリオンは、もう少しで深淵を覗いていたのかもしれないのだ。


「ごめんね。ごめんね。リオンちゃん。お母さんはママからお母さんにジョブチェンジしたばかりで情緒不安定なの。でもお母さんはリオンちゃんのこと信じてるから。リオンちゃんが幼い子に欲情するなんて……」


 少し冷静になったシューリンだったが、悲痛そうな声でリオンに訴えてくる。


「の な。ゴメンなの な。ねぇねもリオンは信じてるの な」


 ネルもぷんすーしていた鼻息を抑え、リオンに力説した。


「そうなのだ。リオン君を信じるのだ。この闇の魔道具を使えば一発なのだ」


 スイはどこから出したのか、禍々しいオーラを放つ物体を取り出した。


 それは素材はアダマンタイトで作成されており、一度穿くと肉親の許可が無ければ脱ぐことの出来ないパンツであった。 


「これはアレっスか?ふしだらな欲情をしたら局部がアダマンタイトに当たって抑制させる凶悪な魔道具っスか。怖いっス」


 一番穏便そうなスイだったが、取り出した魔道具は最も凶悪なモノだった。


 リオンはヤキトリの発言を聞いて、恐怖で特定の部位が人生で最も小さい大きさにまで抑制されてしまう。


「刑事さん! リオンちゃんは無罪なの。信じてください。お願いします。お願いします。リオンちゃんがそんな事は……あわあわあわ」


「そう言ってもっスよ~。こればっかりはっスね。お母さんの悲しい気持ちは分かるんスけどね」


「リオンは無罪なの な」


ネルとシューリンがヤキトリ刑事に無罪を主張していたが、何の三文芝居だとリオンは冷めた目で見ていた。


 ただ、どうにかして極悪パンツを回避しなければ今後の人生が終わると思い、リオンは今まで使った事ないぐらいに頭を回転させていた。


 リオンは真剣な眼差しで考えていたが、視線の先にはヤキトリのプリプリのお尻が揺れていた。


 その視線に気付いたヤキトリは、疑わし気な視線をリオンに向けながら、短い羽で彼の大事なお尻を隠した。


「ま、ま、まさかと思っていたっスが……やっぱり俺っちのお尻っスか。それが狙いだったんっスね」


「そんな汚いケツに興味はない。断言する」


 ヤキトリは舐めるようにリオンの瞳の奥を覗き込み、彼の発言の真偽を判断しようとする。


 眉毛をキリリとしてヤキトリは、リオンの瞳を無言で見つめるのであった。


 黙って向かい合う二人の視線は空中で絡みつき、駆け引きを行っているようだった。


 駆け引きに負けたのかヤキトリは頬とお尻をポッと赤く染め、もじもじと視線をリオンから逸らした。


「お前、何照れてんだよ!」


「コ、コ、コ、そんな事はないっスよ!そんな事で俺っちが照れる訳がないっス」


「ヤキトリちゃんのお尻に欲情してしまって……お母さんは……リオンちゃん……ことを……信じ……」


 シューリンの声は感極まって、最後まで伝える事が出来なくなっていた。


「の な!の な!の な!の な!の な!」


 ネルの姿は見えなかったが、声から察するに目をパッチリと開き切っているであろう事は予想が着いた。


 混沌に嵌まり込んでいくリオンだったが、彼を助ける一筋の幸運が取調室の向こうから近づいてきた。


 取調室の扉の前で歩みが止まると、間を置かずにノックの音が取調室に響いた。


「あのすいません。スティリコです。国家転覆罪と不敬罪の方はどうなったでしょうか?」


 恐る恐るスティリコは確認を取るように、取調室に向かって叫んだ。


「え?幼い子に悪戯したから捕まったんじゃないんですか?」


「何ですか?それは。そんな罪状はありませんよ」


 シューリンはリオンの罪を問い質すと、スティリコはあっさりと否定した。


「……………………………………」


「……………………………………」


「……………………………………」


「……………………………………」


「……………………………………」


 5人が一斉に無言になり、取調室に静寂が訪れていた。


「お母さんは、最初からリオンちゃんを信じていたわ」


「ねぇねは最初からリオンを信じていたの な」


「リオン君は一人で深淵を覗いていなかったのだ」


「俺っちは最初から主を信じてたっス」


 各々が最初からリオンを信じていたと主張していたが、一人だけ良く分からない主張をする者がいた。


 リオンは自分の身は自分で守らなければ、いつか必ず取り返しのつかない事になると固く決心する。


 そして冷たい視線で3人と1匹を見つめるのであった。

【次回予告 強敵が仲間になるっス。少年漫画の王道っス】

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