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最強のライバル登場

魔の森と言われる普通の人ならば立ち入らない場所がある。


そこは根源的に人が、恐怖する何かを内包しているようだった。


そんな恐怖の闇の中に2人の悪意ある影が、うごめいていた。


「よく見るっスよ。ターゲットはあいつっス」


「あの幼女にオブられている黒髪の男ギャ?」


「そうっス。あれが世界中の女性の敵っスよ。よく目に焼き付けるっス」


「でもギャ、本当にあんなへなちょこな奴がオラの可愛い妹に手を出してるギャ?オラの妹に限って、あんな女みたいなナヨナヨした奴に騙されないギャ」


「駄目っス!そこが犯人の狙いっス!そうやって油断させて置いて、いきなりズバッとやっちゃうっスよ。狡猾な奴っス」


「いまいちアンタの言葉が、オラの腹に落ちてこないギャ」


「そんな余裕こいていていいんスか?あの幼女なんて、あんなに小さいのに、あの男の欲望のために姉の役を無理やりやらさせているっスよ。次はお前っちの妹が、あの場所に行くことになるっスよ。そしてお前っちは、知らない間にお義兄さんって呼ばれる事になるっス。」


「グギャァァァァァァ!絶対に許さないギャ!オラの事をお義兄さんだなんて呼ばせないギャ」


 兄と呼ばれる事を想像してしまったのか、影の1つは普段は緑色をした皮膚を真っ赤に染めあげ、表情は般若の如くであった。


「そうっス。その意気っス!でも1つ注意するっス。ターゲット以外は絶対に攻撃したら駄目っスよ」


 もう1つの影、ピンク色の物体も自分の発言を脳内で想像してしまったが、緑の者とは逆にガタガタと震え出した。


「大丈夫だギャ。オラはジェントルマンだギャ。女子供には手出しはしないギャ。ところでお前は、何でそんなに震えてるギャ?」


「分かってるなら安心っス。この震えは正義を実行する時に起きる武者震いって奴っス」


「アギャ。オラもなんだか燃えてきたっス」


「そうっス。その意気っス。俺っちは妹を思う兄貴の心意気に感動したっス。この思いを形にするっスよ」


 ピンクの塊は何もない空間から一振りのロングソードを取り出し、緑の者……ゴブリンの眼の前に置いた。


「アギャ!一体どこから剣なんか出てきたグギャ?魔法グギャ?」


「細かい事は、いいスよ。この宝剣を受け取るっス。そして奴に天誅を喰らわせてやるっス」


「わかったギャ。オラの可愛い妹を悲しませた罰だギャ」


 差し出された剣は、鞘に収まっているにも関わらずゴブリンにはとてつもなく禍々しいオーラを漂わせいるように見えた。


 ゴブリンが柄に手を当てると彼の脳に直接、ビリビリとした軽い痛みが走った。


「グギャ?何だギャ?」


「その痛みは剣が持ち主に相応しいかどうかを試している試験っス。妹への愛でこの試練を乗り切るっスよ)


「分かったグギャ。オラの妹への思いはこんな痛み程度では壊せない偉大なモノだギャ。グギャアアアアアアア!」


 ゴブリンは剣の柄に手をやり力強く握り占めた。


 先ほどと同様にビリビリと痛みが走ったが、ゴブリンは妹への愛ゆえに、その痛みに耐え抜いた。


 しばらく経った頃、ゴブリンは痛みを克服したのか痛覚がマヒしたのか、何とかその剣を持ち上げることができていた。


 痛みによる刺激で別の趣味に目覚めていないことをピンクの塊は心の中で祈っていた。


「グギャ!やったギャ。何とか痛みに耐えれるギャ」


「油断したら駄目っスよ。その宝剣は強力っス。今のお前っちでは鞘から剣を抜くことは出来ないっス」


 この宝剣の銘は【ゴブリンスレイヤー】といい、ゴブリンを対象に攻撃るすとダメージを倍にする効果がある。


 もちろんゴブリンがこの剣を装備することも可能だが、装備した瞬間から剣より攻撃を受ける。


 先ほどのビリビリとした痛みも、剣がゴブリンを攻撃していたのであり、決して試練などではない。


 ゴブリンにとって救いだったのは、【ゴブリンスレイヤー】を装備していなかった、いや出来なかった事だろう。


 【ゴブリンスレイヤー】はレベルが15以上ないと装備できないという制限があった。


 この世界においてレベル1とは戦士で言えば達人に達する力量を持っている。


 一般の人間はレベルに目覚める事なく、一生を終えてしまう。


 その中で日頃から研鑽を続けてきたものが、己の限界を突破して初めてレベル1となるのである。


 そんな世界であるからレベル10以上があれば鍛冶であれ、魔法であれ英雄クラスの実力がある事になる。


 レベル15と言えば人外の領域であり、その者達は一定の発言力持つ地位についている事が多い。


 ちなみにリオンの部下である、スイやネルのレベルは化け物級のレベル100である。


 リオンが粗相をしてしまうのも仕方のない事なのである。


 大事なことなので、もう一度言うとしよう。


 リオンが粗相をしてしまうのも仕方のない事なのである。 


 話を戻すが、レベルゼロであるゴブリンは【ゴブリンスレイヤー】を持つ事は出来ても、装備することは出来なかった。


 ある意味ゴブリンは己の弱さに命を救われたのである。


 そしてピンクの塊は自分の欲望のためであれば、妹を大切に思う兄の気持ちすらも踏みにじる糞野郎であった。


「剣が鞘から抜けないなら、どうすればいいギャ?」


「鞘ごとで行くっス。ターゲットの脳天を直撃すれば、その武器なら鞘ごしでもイチコロっス」


「分かったギャ。突撃するギャ」


 ゴブリンは妹を守ると固く心に誓った男らしい顔をしていたが、ピンクの塊は悪巧みが上手くいったと邪悪な笑みをその顔に浮かばせていた。


◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇コケ◇◆コケ◇◆コケ◆


「の~な~♪の~な~♪弟をオンブするのは~♪ねぇねの嗜み♪のな♪のな♪な♪の な♪」


 ネルはリオンを背負いながら、相変わらず変な歌を、ご機嫌で歌っていた。


 スイもついて後ろから来ていたが、ゴソゴソと右手に何やら行っていたのでリオンはとりあえず放置した。


 少し深い茂みになっている場所を三人が通り過ぎた時、茂みが大きく揺れ2つの影が素早く飛び出して来た。


 ピンクの塊は飛び出して来ただけのようだが、ゴブリンは鞘に入れた状態の剣を持っていた。


「グギャ!覚悟するギャ!悪魔の手から俺の妹を守るギャ」


「そうっス!天誅っス!死あるのみっス」


 突然の襲撃者に対して、リオンは全く動くことが出来なかった。


 なぜならリオンはネルに、がっちりとオンブされており、リオンが動こうとしてもビクともしなかったのだ。


 リオンの眼には、ゴブリンが襲ってくる様子がスローの様に見えていた。


 事故の瞬間がスローモーションになるかの如く、ゴブリンの動きが全てコマ送りになっていた。


 リオンはとっさに、自分は死ぬんだと悟った。


 ゴブリンの動きはゆっくりと、しかし確実にリオンに迫っており、時折一時停止していた。


 「え?あれ?一時停止って何だ?」


 疑問に思ったリオンは冷静さを少し取り戻し、ゴブリンをよく観察してみた。


 そして分かった事があった。


 ゴブリンの動きはスローモーションの様に見えていたのは、本当にスローで動いていただけであり、一時停止だと思ったのは疲れてゼイゼイと荒く息を吐いていたためであった。


 当たり前である。


 鞘から抜いていなくても【ゴブリンスレイヤー】は確実にゴブリンの体力を奪っていたのである。

 リオンの前に辿り着いた時には地面に膝を着き、【ゴブリンスレイヤー】を大地に手放していた。


 弱り切ったゴブリンの姿を見たリオンは一転、ビビッていた気持ちが強気に変化した。


「わはははははは!我が前に屈したか。名もなきゴブリンよ。仕方がない。今回だけは命を助けてやる。感謝するがよい」


 弱った者にトコトン強いリオンは、ピンクの塊と同様に相当な下種の才能を持っていた。


 下種の眷属の主も下種であった。


「グギャギャ。オラはここで負ける訳にはいかないギャ。オラは妹を絶対守りきるギャ」


「ふっ!己の力の無さを呪うんだな」


 リオンは勝ち誇ったようにゴブリンを見下ろしていた。


「グギャグギャ。悔しいギャ。こんな奴にオラの妹が…」


「そうか。妹のためか…。仕方ない。お前に最後のチャンスをやろう。ねぇね、少し俺を下してくれないか?」


「む!嫌なの な!リオンをオンブするのはねぇねの嗜みなの な。これを譲る事は出来ないの な」


 ネルは、ちっちゃいホッペをぷくっと含まらせて嫌々をした。


「俺は男として、このゴブリンと最後の対決をしなければならない。ねぇねとして弟の門出を見守ってくれ」


「むむ!仕方ないの な。弟の門出を見守るのもねぇねの嗜みなの な」


 どこが門出なのか分からないが、ネルはリオンの適当な言葉にコロッと騙されるのであった。


 ネルはリオンを背中から降ろすと、ぷす~と鼻息を荒くして両手を万歳していた。


 第三者から見ると幼女が抱っこを強請っているように見えたが、ネルの顔は自信に溢れていた。


「ねぇねは、これから【ねぇねの嗜み】の第2形態に以降するの な」


「え?ねぇねの嗜み?第2形態?」


「そうなの な。第1形態は【リオンを(弟の愛を)オンブする】(体全体で受け止める)なの な」


「そ、そうか。それで第2形態とは……」


 大層な名前が付いているが只のオンブだろと思ったリオンだったが、ややこしくなると思ってネルに突っ込まず続きを促した。


 リオンの促しを聞いたネルは鼻息をフンフンとさらに強く鳴らし、常に眠たそうな銀の瞳がカパッと見開いた。


 ネルは興奮すると小っちゃな鼻からの鼻息が荒くなり、銀眼を一杯まで開いてしまう癖がある。


 ゆっくりと両足に溜めを作り一呼吸おくと、ネルは空中へと飛び上がった。


 白いワンピースをはためかせながら、空中を舞うネルは銀髪が太陽光を反射し妖精のように輝いていた。


 空中での羽ばたきを楽しんだ妖精は、半回転するとゆっくりとリオンの肩にドッギングした。


「これが第2形態【リオンの(耳元で)肩車】(弟への愛を囁く)】なの な」


 肩に合体されたリオンはネルの体重を特に感じなかったが、呆気には取られてしまった。


 しかしリオンは下手に突っ込んで不幸な事故死する恐怖に負けて、ネルの行動はスルーした。


「さあ、そこの剣を取れ!そして俺の脳天に一撃を入れてみろ!」


 今までほったらかしにしていたゴブリンに向かって、リオンは強気に叫ぶのであった。


【次回予告 友が大切な物を差し出すっス。タカりって奴っスか?】


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