家族会議
結論から言おう。
リオンは無事に逮捕された。
無事というには語弊があるかもしれないが、命は無事だと言うことだ。
無意味な無駄な抵抗をしてしまったため、リオンは憲兵の暴行を若干受けてしまったが。
そうそう忘れる所だったので伝えるが、リオンに語りかけた謎の声は、ヤキトリが声色を変えてリオンに念話を送っただけである。
もちろん、ただの悪戯だったのでリオンには何の力も宿らなかった。
その際にリオンは俺に眠っている力をよこせと訳の分からない中二病発言をしたため、リオンは憲兵に1発小突かれてしまった。
その一撃で精神は砕かれ、リオンは完全な無抵抗主義者になっていた。
「俺はやっていない。俺は無実だ」
リオンは憲兵に呟いたが、犯人は皆そう言うと憲兵に諭されて、領主の館の牢屋へと放り込まれたのだった。
◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇
「主は酷いっス。ぷりちーな俺っちのアソコに竹串を10本も突っ込むなんて、危うく天国に行きかけたっス」
ヤキトリは主に悪態をつきながら、リオン達が泊まっている宿屋に戻ってきていた。
もちろんヤキトリの頭はリオンの事をすっかり忘れ去っていた。
ヤキトリがリオン達が借りている部屋のドアを開けると、突然小さな影が飛び出してきた。
「リオン、やったの な!伝説の秘宝を手に入れたの な」
すぴーと鼻息の荒いネルの顔が迫ったが、ヤキトリに気付いたネルは半眼をさらに細めて、抱き着こうとしていた体制を空中で立て直す。
その勢いを生かしてヤキトリの顔面に、ネルはドロップキックをめり込ませる。
「ぐえ!」
ヤキトリは不意の攻撃になす術もなく、床に撃沈した。
動物虐待で訴えらえる位の酷い扱いであった。
「間違えたの な。ねぇねとしてのあるまじき失態なの な。のぉぉぉぉぉぉぉなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ネルはヤキトリと同じように床に倒れると、コテリと気絶した。
「ネルちゃん、いきなり何するっスか!酷いっス。コケコケ!」
不意打ちから回復したヤキトリは、ネルに抗議しつつ、立ち上がりネルの方を見た。
「コケ?ネルちゃん、どうしたっスか?」
ヤキトリは恐る恐るネルに近づき、木の枝でツンツンとしてみた。
「の~なぁ~。ねぇねの不覚なの な。許してなの な」
枝の刺激に反応し、ネルはうなされるように懺悔を口にしている。
ヤキトリはこれは面白いと思い邪悪な笑みを、そのクチバシに貼り付けた。
普段なら絶対できない仕返しが、今ならできるとの誘惑にヤキトリは負けたのだ。
木の枝を2本にし、二刀流でネルに高速ツンツン攻撃を仕掛けた。
「のぉぉぉぉぉぉぉなぁぁぁぁぁぁぁぁ。許してほしいの な。あんな脂身がリオンだなんて思ってないの な。ねぇねの目が腐ってたの な」
ヤキトリはさらにツンツンの速度を上げていった。
「の~な~。リオンは脱糞なんてしないの な」
ネルを虐めているはずのヤキトリは、なぜか自分がダメージを負っている事に気が付いた。
このままでは立ち直る事の出来ない精神攻撃を受けそうだったので、ネルへのツンツン攻撃は戦略的撤退として諦めた。
鳥頭は他に2人の人物が、この宿屋にいる事を思い出し、その影を探した。
すると冷たい視線を送るシューリンとスイが、ヤキトリの視界に入った。
シューリンはいつもの破廉恥聖女の恰好だったが、スイはなぜか格闘家の姿になっていた。
「違うっス。これにはお母さんの愛より深い訳があるっス。闇黒闘気が関連してるっス」
スイの行動を考えるだけ無駄だと思ったヤキトリは、畳みかけるように各々の弱点部分を刺激した。
全く意味不明な事を叫ぶヤキトリだったが、シューリンはお母さんの愛にスイは闇黒闘気に反応した。
シューリンは見た目こそ変わっていなかったが、お母さんの愛への自信を深めたのか、キリリとした顔をしていた。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ!聞いてよ、ヤキトリちゃん!私はとうとう真実のお母さんの愛を見つけてたのよ」
「コケ?真実のお母さんの愛って何っスか?」
「それはね、ママからお母さんへジョブチェンジしたのよ」
「コケ?」
ヤキトリは能天気な鳥頭である事を差し引いても、シューリンの言っていることが全く理解できなかった。
語感の違いはあれ同じ事ではと思ったが、正拳突きが飛んでくると思い、ヤキトリはツッコミを躊躇してしまう。
相手を恐れてツッコミを入れないなんて、芸人にはあるまじき失態であった。
「お母さんの愛は偉大なのよ。天魔帝国の図書館で、司書の人にリオンちゃんのお気に入りの本を教えてもらったの。残念だけど複写本がずっと貸し出し中で、原本の閲覧しかできなかったんだけどね」
「それって、もしかしてコレの事っスか?」
ヤキトリはインベントリから表紙が龍皮紙でできた黒い本を取り出した。
「そうよ!これよ、これ。あれ?でも司書の人がリオンちゃんがずっと借りたままだと言ってたはずなんだけど……」
シューリンは人差し指を可愛らしい唇に当てて、考える仕草をする。
この部分だけを切り取れば、100人いれば全ての人が聖女様だと言っていたに違いない。
「そうっス。主が借りパクしてるっス。俺っちはコレを預かってるだけっス。シューリンちゃんが、この本を参考にするのも分かるっス。主は昔からこの本に執着してるっスからね。好き過ぎて他の従者が、この本を見ようとすると慌てて邪魔してくるっスよ。コケコケ」
リオンはこの本の事を禁書と呼んでいた。
禁書には従者の秘密が事細かに描かれており、他の人間に見せる事を危険視していた。
「そうなの?司書の人の話以上なのね」
「そうっスよ。主も困った奴っス。シューリンちゃん、コッソリこの本貸してあげるっス」
ヤキトリはいい事を思いついたと悪い笑いをしながら、シューリンへ貸し出しの提案をした。
「え?でも、リオンちゃんは従者にも見せないのよね。それなのに私が借りていいのかな?」
「大丈夫っス。俺っちの持ってるのは複写本っスよ。司書のスピリトで生み出された本っスよ。スピリト解除したら消える物っス。原本は図書館にあるっス。それにシューリンちゃんには、これをしっかり熟読してお母さんの愛のレベルを上げるっス。ジョブチェンジで安心してる場合じゃないっス。研究するっス」
「そ、そうよね。母親にジョブチェンジしただけじゃ駄目よね。レベルの高い母親職業にならないとね。分かったわ、ヤキトリちゃん。私、お母さんのレベルを上げてみせるわ!」
ヤキトリは重厚な本をシューリンに手渡した。
「これでシューリンちゃんも主の弱点を付けるっス」
「ヤキトリちゃん、ありがとう。お母さんはリオンちゃんのためにりっぱなお母さんになります」
シューリンは輝くような笑顔を見せたが、なぜ普段リオンがいる時にこの笑顔をせず、鼻水を垂らした酷い顔ばかりを見せるのだろうと疑問に思うヤキトリだった。
「ところでスイちゃん、何でそんな恰好してるっスか?」
「シューリンちゃんと同じなのだ。僕もジョブチェンジしたのだ」
スイはいつもの黒のスポーツブラとスパッツの上から、裾の少し長い胴着の上着を羽織っていた。
大事な所は隠せているのだが、上着しか着ていないのとピッタリと体に密着する胴着を着ているので、若干いやらしく感じてしまう。
この恰好のまま、街中を歩くとかなり多くの男性の視線を集めてしまいそうだった。
「もしかして武闘家っスか?」
「どうしてわかったのだ?ヤキトリ君は心が読めるのだ?」
そんな恰好見たら誰でも分かるわと思ったが、主なら特殊なお仕事を想像したかもしれないと思うヤキトリであった。
「スイちゃんの体から武闘家の闘気があふれ出てたっス」
正直に話す事も出来ず、ヤキトリは適当な答えをスイに返していく。
「やっぱり分かる人には分かるのだ。2000年続いた暗殺拳をマスターしたのだ」
少し危ない発言があったが、それを止めるリオンがおらず、スイはガンガン危険領域へ突入していく。
「もしかして、あれっスか?あれっスか?」
「そうなのだ!相手を突くと爆発するのだ。あちょ~う~」
スイは両足を広げて重心を落とし、両腕を交差させて指先で変なポーズを取っていた。
スイの指先に極小の魔法陣が浮き上がっているのに気付いたヤキトリは焦った。
「スイちゃん!その指先の魔法陣は?」
「魔法陣なんてないのだ。一子相伝の暗殺拳なのだ。証明するのだ」
「証明はいいっス。俺っちはネルちゃんを信じてるっスよ。だらか指を近づけないで欲しいっス」
指先がヤキトリの肌に触れるか触れないかの距離で止まった。
「残念なのだ。第一号はヤキトリ君にしたかったのだ」
スイは残念そうにしながら、指の爆裂魔法の魔法陣を消した。
「コケ~!危なかったっス。危うく鶏肉ミンチになるとこだったっス」
スイは魔法陣を消したが、変なポーズを色々変えてドヤ顔をさらしていた。
「ところでヤキトリちゃん。リオンちゃんはどうしたの?」
禁書を少し膨らんだ胸に抱きしめて、妄想にふけっていたシューリンは、突然正気を取り戻したようにヤキトリに迫った。
ギクリとしたヤキトリだったが、深呼吸して慌てたような態度をとった。
「大変っス。主が、主が捕縛されたっス。今、牢屋に入れられているっス」
「そう。では今から、創造主を拘束している者達を皆殺しにし、己の浅はかさの代償とし、この街を業火に沈めましょう」
「それよりもお前は、今ここで何をしているのだ?なぜ創造主の傍を離れたのだ?」
普段では考えられない程の冷たい声色で、2人はヤキトリに語りかける。
あまりの恐怖にヤキトリは脱糞しそうになったが、ここが生死の分かれ目だと感じ、お尻の筋肉を最大限まで引き締めた。
『だっふんだ』と言ってみたいとの芸人魂が騒いだが、2人に確実に惨殺される未来しか見えなかったので、何とか踏み止まった。
その影響か若干お尻の筋肉が緩んで、ほんの少しだけ身が出てしまったようだ。
余計な事を考えては駄目だとヤキトリは無い首を振り、鳥頭を高速回転させる。
ヤキトリの背後には、いつの間にかネルが四死刀を抜き、ヤキトリの喉元……はないので、そのあたりに刃を突き付けていた。
「早く答えるの な。時間は3秒。3、2」
「主は、幼い子に悪戯して捕まったっス。しかも幼女だけでなく、男の子にも悪戯しちゃったっス。本当っス。信じるっス」
ヤキトリの言葉と同時に、床に四死刀が落ちる音が部屋に響いた。
さらに背後でドサリと音がし、そちらにヤキトリが首……はないので頭を向けて見ると、ネルが泡を吹いて気絶していた。
「の な。リオンが幼い子に……。ねぇね……じゃなく妹が……弟が……。ねぇねは……必要な……い。のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
先ほどの気絶とは違い、ネルは全身を痙攣させて、小さい口から泡が垂れ落ちていた。
「コケ?俺っちは何もてないっスよ」
言い訳しようと恐る恐るシューリンとスイの方を見ると、こちらも相当酷い事になっていた。
既に涙と鼻水とヨダレが一緒くたにシューリンの顔から流れ出しており、彼女の回転と相まってその恵の水達は周囲へ勢いよく飛び散っていた。
「リオンちゃんが、リオンちゃんが、びえ~ん、びえ~ん。グレちゃった。ふ、不良ちゃんに……」
シューリンのローリング鼻水に恐怖を覚えたヤキトリは、床からベットへと緊急避難を敢行したが、根本的な問題は解決していなかった。
ただシューリンの回転速度は、主の回転土下座を超えたのではとヤキトリは確信した。
「リオンちゃんがグレグレしましたああ……。私の育て方がいけなかったの?リオンちゃんが、リオンちゃんが、が、ががが、びえ~ん、びえ~ん。ぐぼぼぼぼぼぼぼぼ」
大地ではない宿屋の床は、無尽蔵に湧き出る恵の水を全て吸収することが出来ず、限界を超えた恵の水は徐々に床を水溜りに変えていった。
「あのシューリンちゃん?もしかして溺れてるっスか?大丈夫っス。主を信じるっス」
「リオンちゃんの育て方を間違ったのよ。私の事を『お母さん』って呼んでくれないのよ。ママともよんでくれない。……ボガガガガガッ、ゲホゲホ」
ヤキトリの言葉はシューリンの心には響かず、水しぶきを上げながら回転速度をあげた。
「の な。ねぇねな ボゴゴゴゴゴ、ゲホゲホ」
全身を痙攣させていたネルも、何の反応も示ささず溺れかけていた。
「駄目っス。このままだとネルちゃんもシューリンちゃんも鼻水涎洪水で溺れ死ぬっス。もう手段はこれしかないっスね」
ヤキトリはクチバシを大きく開け、ありったけの空気を吸い込んだ。
「主に本当のお母さんとお姉ちゃんの愛を教えてあげるっス。そして間違った道から、主を助け出すっス。それが真実の愛って奴っス」
ヤキトリの言葉にシューリンとネルの耳がピクッと反応した。
「そうよね。お母さんがリオンちゃんを信じてあげなきゃ駄目よね。駄目なお母さんを許してね、リオンちゃん」
「ねぇねは弟の失敗を許してあげるものなの な。それがねぇねの嗜みなの な」
涙と鼻水とヨダレで汚れていたにも関わらず、シューリンは満面の笑みを浮かべていた。
シューリンが笑っていたからだろうか、それとも恵の水のせいだろうか、彼女の顔は光輝いており女神のようであった。
ネルも同じようにずぶ濡れになり、寝巻のパジャマが小さい肌にペッタリと張り付いていた。
こちらも美しく輝いていたが、幼女のため若干犯罪臭が漂う感じだった。
シューリンの転がった床は彼女の吐き出した恵の水で水溜りが出来ていたが、スイは特殊な呼吸を行いながら、水面に波紋を作っていく。
もう関わらない方がいいと本能が悟ったヤキトリは、見ないふりをしてベットにもぐりこむのであった。
【次回予告 中間管理職の無常って奴っス。俺っちも主と3人娘に挟まれて大変っスよ】
もし続きが読みたいと思われた方、広告の下にある星をポッチッとお願いします。
なろうで星の評価される方は全読者様の20%だそうです。
投票を頂くのは厳しいものだとは重々承知しています。
ですが同時に読者様の評価は本当に描き続けるためのエネルギーとなります。
星1つでも構いませんので、どうぞよろしくお願い致します。




