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悪役その1の登場 そして即死亡

 辺境の街【フルッフグランツランド】へと入る門とは真逆の場所に領主の邸宅が、街を見下ろすように鎮座していた。


 洗練されたというよりは、ただ華美なだけの家具が並べられている邸宅の一室で、2人の人物が密談をしていた。


「糞が!あの野郎がしゃしゃり出てきやがって。同腹の妹はあの野郎にいかれてるアバズレだし。どれだけ俺の邪魔ばかりすれば気が済むんだ」


 ガタイのいい男が、乱暴に自分の体重を椅子に預けた。


 椅子は、その男の体重を支えるのが困難なのか、かなりの悲鳴をあげていた。


「ドミティア殿下!そう荒ぶらずに。第一王子派が出てこられるのは分かっていた事ではありませんか」


 小太りの卑屈な顔をした男が、ドミティアを宥めながら、彼が座っている椅子が壊れていないか視線をチラリと向けた。


「スティリコ!それだけじゃない。あの野郎、教会に働きかけて勇者まで担ぎ出してきやがった」


 イライラしながらドミティアは葉巻の先を食い破って、傍にあった灰皿に吐き捨てた。


「勇者ですか?それだと殿下の計画も難しくなりますね」


 スティリコは、ドミティアの葉巻に火を付けながら渋面を作って勇者の事を考えた。


 勇者とは、清浄教会が認定した、人類最強と呼ばれる人物である。


 勇者は3人の仲間達と魔王が住む大陸に挑み、そこを根城にしている天災級の魔物を狩ってくるのだ。


 魔王軍の幹部級の首も何度となく狩っている。


 勇者パティ―は軍隊1個師団に匹敵し、人類にとっては救世主的存在になっていた。


 普段は人外の戦闘力であるために、このような軍事行動に出てくる事はあまりない。


 それが今回は何らかの力が働いたのか、教会上層部が動き、勇者が担ぎだされたのだ。


「そうだ。あの化物達が出てきたら、俺の計画が狂ってくる」


 ドミティアは少しイライラを抑えるため、葉巻の煙をゆっくりと吸い、その香を楽しんだ。


 全体重を椅子にかけると、椅子が再び悲鳴を上げた。


「勇者が出てくると不味いですね。そもそも、どの様な意図で今回の戦いに参戦したのか分かりませんし。下手すると殿下の考える帝国への侵攻を邪魔される恐れもありますし」


 スティリコはドミティアの言葉の補完を行いながらも、彼の意識は椅子の方に傾いていた。


「ああ。だからどうしたものかとお前に相談に来たんだ」


 イラついた表情を隠す事もなく、吸っていた葉巻の火を消すため、灰皿に強く押し付けてた。


 乱暴に扱われた灰皿は悲鳴を上げて、壊れそうになっていた。


「申し訳ございません、殿下。もう少し丁寧に扱っては頂けないでしょうか?」


 家具を乱暴に扱うドミティアに対し、スティリコは思わず注意してしまった。


「ああん?こんな家具に対して、なぜ俺が気を遣わなければならないんだ」


 ドミティアは怒り狂うと、自分の座っていた椅子を蹴り倒した。


「きゃあああああ」


 丸太のように太い足で思いっきり蹴られた椅子……女性エルフは血を吐き壁に激突し絶命した。


 まだ怒りが納まらないのか、灰皿として舌に大火傷を負った女性エルフの顔面も殴り倒し絶命させた。


「これでもう、この家具のメンテナンスに気を遣う事はないだろ」


 少し怒りが収まったのか、ドミティアは手についた血を舐めとってニタリと笑った。


「殿下。家具と言っても無料ではないのですよ。エルフの女となるとかなり貴重でして、それなりの値段になるんです。もう少し丁寧に……」



「お前は俺に対して意見出来る立場なのか?」


 ドミティアは威圧するように、自身の太い腕でスティリコの首を羽交い締めにする。


「い、いぇ、滅相ぼ、ございまぜん」


「そうだろう。そうだろう。分かればいいんだよ。俺とお前の仲だ。今回の無礼は許してやろう」


「ありがとうございます。この御恩は忘れません」


 スティリコは高額で購入したエルフ奴隷を台無しにされたが、ドミティアには逆らう事は出来ずに感謝の言葉を吐くしかなかった。


「奴隷なんぞ金さえあれば、いくらでも買えるだろ。そして金も領民から絞り取ればいいんだ。奴らは俺のために存在するんだからな」


 スティリコはドミティアの言葉に表情が引きつりそうになったが、何とか表に出す事に耐えた。


 ドミティアはフィンワーズ王国の第二王子である。


 国王の長男はであったが、血筋が劣るために弟に第一王子の地位を奪われ、第二王子に甘んじていた。


 そのためか選民意識に拘り、地位の低いものはゴミ屑のように扱っていた。


 また思考が短絡的で直情的なために、その場の気分で物事を決める傾向があった。


 そのため下の者達には、かなり嫌われている。


 しかし第一王子の母親は太陽の国と呼ばれる大国からの降嫁であり、外国からの干渉を嫌ったかなりの数の貴族達が第二王子派に群がっていた。


 それに気を良くしたドミティアは自身の王位継承の基盤を盤石なものにするため、金を集め、軍隊を増強してきた。


 今回、魔王軍の侵攻のドサクサに紛れて、弱兵と言われている帝国の領土を奪おうと考えていたのだ。


 そのカークバリー帝国は、10年前に建国された国である。


 それ以前は弱小領主や弱小国家が所狭しと存在していたが、王国が侵攻し肥沃な辺境の街【フルッフグランツランド】を奪い取った事から危機感を募らせた。


 その危機感が、1人の英雄ヒレス=ザクセンを誕生させ、意見の異なる者達を纏め上げたのだ。


「スティリコ。それで戦費の徴収の方はどの程度進んでいるんだ?」


「はい。徴収の方は徴税請負人に任せております。戦費として通常の税金の3年分を請負人に納めさせています」


 徴税請負人とは、事前に一定金額を領主に納める事により、領主に代行して領民から税金を集める者達である。


 徴税請負人も商売であるため、事前に納めた金額よりも多くのお金と集めないと損することになる。


 そのため徴税される税金は跳ね上がるのである。


 一般的な請負人は商人間の金銭の利息30%、徴収費用、これに請負人の利益を上乗せした金額を税金として領民から徴収するのである。


「そうか。戦後は収入がなくなるが、帝国の領土を奪えるから問題もないだろう」


 ドミティアは自身の予定通りに税が納められている事に満足していたが、スティリコは本当に帝国の領土を奪うことができるのか不安があった。


 万が一、帝国領土を奪うことができなければ、スティリコは3年間税収なく領地経営をしていかなければならなかったからだ。


 もっとも、スティリコは先ほどの事もあり、その不安をドミティアに直接口にすることは出来ない。


 ドミティアは気分がよくなったのか、未来の自分の領土を眺めるために、窓際に近づいて行く。


 と同時に爆音が響き、屋敷の壁が木っ端微塵に砕け散った。


 スティリコは爆音と共にぶっ飛び、屋敷の床をゴロゴロと転がる。


 一瞬意識が飛んでいたが意識が明瞭になるに連れて スティリコはハッとしてドミティアがどうなったか確認するため部屋を見渡す。


 スティリコは首を回していくと、壁の一点でその動きが止まる。


 スティリコの視線の先には、漆黒のバスタードソードが壁にめり込むように刺さっていた。


 そしてその先には胸を貫かれるように、ドミティアが壁に縫い付けられていたのだ。


「で、で、で、殿下!ご無事ですか?」


 明らかに死んでいるのだが、あまりの光景にスティリコは常識的な判断が出来なくなっていた。


「で、殿下。い、今、治療師を呼んでまいります」


 ドミティアが殺されたのだから、暗殺者から自分を守るべきなのだが、基本的に善良な人間なのだろう、スティリコは急いで治療師を探しに部屋を出て行ってしまった。


 部屋の中には、動かない死体が3体残されているだけだった。


 暫くすると、その一体がピクリと指を動かした。


 間違いなく生命の炎は尽きていたが、世の理に逆らうかのように今度は力強く拳を握った。


「ガハハハハハハハハ。主よ!我輩はこの体を使って使命を全うすればよろしいのですね。しかと受け賜わりました」


 己の胸に食い込んだバスタードソードの柄に自身の手を添えると、ドミティアは軽いモノで出来てるように簡単に引き抜く。


 バスタードソードが引き抜かれたハズの胸には、貫通したはずの穴は無く、盛り上がった筋肉がその存在を主張していた。


 「ふむ。この体は……かなり貧弱だがまあ仕方あるまい。我輩が活動するにも憑代は必要であるし、贅沢は言っておれん。それに、ここに導いたのは我輩の主であるからな」


 ドミティアの体に乗り移った何かは、その体の具合を確かめるべく、全身を動かしてみた。


「ん?」


 ドミティアが憑代の確認作業を行っている最中に、その足元に引っかかるモノがあった。


 疑問に思ったドミティアは、その障害物に目線を合わせるように、しゃがみ込んだ。


「ほう?こ奴らも我輩の贄となりし者達か。ならばこのままにするのは我輩の主への冒涜になるな。【生と死の暗転】【贄となりし者への下賜】」


 第9階梯闇魔法の【生と死の暗転】が発動すると、撲殺さてたはずの2人のエルフは殴られた傷が逆再生するように無くなり、再び命の火を取り戻した。


 さらに第6階梯闇魔法【贄となりし者への下賜】により、悪魔の供物となった者の身体に悪魔の契約印が現れ、悪魔の力の一部が与えられた。


「ううう……」


「…………」


 気を失った二人のエルフが意識を戻すと、目の前に自分を殴り殺した男が立っている事に気付き、その恐怖からガタガタと身体を震えさせた。


 「どうした?この体に怯えているのか?」


 何を言っているのか理解できないエルフ達は、その震えを意志の力で止める事は出来なかった。


 「ふむ。どうしたものか?我輩の本当の姿を見せる事にするか」


 ドミティアの発言と共にバスタードソードから黒い霧が吹き出ると、部屋中が光を通さない暗い闇の空間になった。


 その中心に霧が集まると、そこに恐ろしい影が現れる。


 その巨大な赤い目に見つめられた2人のエルフは、ドミティアへの恐怖による震えは止まっていた。


 それよりも根源的な畏敬の感情が2人の心を支配し、彼女達の瞳からは止めどとなく涙が流れていた。


 「ふむ。本体を維持する事は10秒も出来ないか。しかも目だけか……やはりこの体は貧弱だな」


 漆黒の何かは自身の状態に納得したのか、黒い霧をバスタードソードに戻すと、そのまま剣を背中に背負った。


 ドミティアの行動が終わると同時だろうか、スティリコは教会の治療師を連れて部屋に入って来た。


「殿下!治療師を連れてまいりました。今すぐ……え?」


 壁に突き刺さって死んでいたはずのドミティアを見て、スティリコは固まってしまった。


 この世界……人間社会では死者蘇生の魔法は存在しない。


 死者に関する魔法はあるが、それは死者そのものを扱うような、教会により禁忌とされている魔法のみだ。


 非現実的な出来事に、スティリコはそれを受け入れる事が出来ずにいた。


「怪我人はどこですか?」


 固まってしまったスティリコは、教会の治療師に声を掛けられるまで、再起動することが出来なかった。


「え?あ、怪我人ですね」


 スティリコは混乱しているためか、生きていたドミティアを視界から外して、怪我をしているドミティアを探そうとする。


 そこで更に死んだはずの2人のエルフの女が、スティリコの視界に入ってきて再度固まってしまった。


「う、う~ん?」


 混乱してしまったスティリコは自分の目を懸命に擦って、己の目を覚まそうとした。


「スティリコ様、怪我人はいないのですか?」


「はあ、そのようですね。私の勘違いのようです」


「殿下が大変だと伺い急いで来たんですよ。スティリコ様、これからは魔王軍が侵攻してきますので、今後はこのような事がない様にお願いしますね」


「申し訳ありません。寄付の方は規定額に多少上乗せさせて頂きますので」


 不満そうにしていた治療師は、スティリコの言を聞くと一転機嫌を治して帰っていった。


「暗殺だ。暗殺があったぞ。犯人を捕えよ。襲撃は冒険者ギルドの方だ」


 スティリコも現実が受け止められずにいたが、返って頭脳は明瞭となり、直面していた問題に遅ればせながら対応した。

【次回予告 主がヒロインがいない間にイカガワシイ事をっス……不潔っス】


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