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泡と消える

【どうやらそろそろ到着するようです】

そうか。


俺が亀達にいろいろと指示を出して行動を見守っていると、そんなメッセージが出てきた。

なので一旦泉周辺の亀達と共有している視界を切り、モンストゥルに同行せているミニチュアバブルタートルと視界を繋げた。

すると、高速で流れていく森の景色が視界に映った。

また、メッセージのとおりに進行方向の先に人工の建物。木材で作った掘っ立て小屋だかあばら家の姿が幾つか認められた。


あれか。それで、これからどうするんだ?

【もちろんすぐにでも襲撃させます。一切合切皆殺しです】

逃げられないように罠を張るとかしないのか?

【その必要はありません。このモンストゥルから逃れることは出来ませんから】

逃げることは出来ない?どういう意味だ?


ゲームのボス戦なんかじゃあるまいし、現実ならいくらでも逃げ道はあるだろうに。何で逃げられないんだ?


【このモンストゥルは広域制圧型です。そして、村人達は私の『目』から逃れることは出来ません】

目?お前の本体があの村を見ているのか?

【いえ。あなたと同じように他人の視界を借りています。ただし私の場合はゲーム盤を俯瞰的に見る視点です。ですので村から逃げ出そうとする者、村に来ようとする者。そのどちらをも私は把握出来ます】

ああ、なるほど。たしかにそれなら転移でもしないかぎり逃げられないな。足はモンストゥルの方が早いし、かくれんぼも出来ないってなると。

【そういうことです】

それならお手並み拝見といこうか。

【お任せください】



     開拓村

開拓村。そこはガーリー王国の端にある土地開発地の一つである。魔の森という複数の国の国境に隣接している広大な森林の近くに存在し、そこから日々の糧を得て日常を営んでいる。ただし糧だけではなく災禍ももちろん受けている。

魔の森は魔の名が付くように魔物が大量に生息しており、森から出てきて開拓村を襲う個体も当然いる。その為この開拓村は人の入れ替わりが激しい方であった。

魔物に殺されれば当然人は減る。そして人が経れば村を維持出来なくなる。しかしこの開拓村は自然消滅することが許されない村であった。

間に魔の森を挟んでいるとはいえ他国との国境地。また魔物が大量にいるのだから当然その監視も必要。

その為この村は国が鳴子がわりに維持を続けており、人が減る毎にスラムや他領の難民などから人の補充を行われている。

その為ガーリー王国の人々からは『生け贄の村』と呼称されることもしばしばある。

そんな村についに終わりの時が訪れた。

最初にそれを見つけたのは、材木を切り出しに魔の森に向かおうとした木こりであった。


「誰か帰って来たのか?」


それは魔の森から村へ駆け足で向かって来ていた。

木こりは最初それが人型だったので森の暗さも合わせて村の誰かだと思った。

魔の森の魔物は獣や虫。鳥や植物型の魔物ばかりの為、木こりでなくても森から来る人影を見たらそう思ったことだろう。


「いや、違う!何だありゃあ!?」


しかし木こりはすぐにそれが人ではないと気がついた。

なにせ遠目にならともかく、近づいて来ているその人影は人にないゴツゴツとしたシルエットをしていた。そしてそれが近づいて来るのにしたがってその体色が森の影のせいで黒くなっていたものから、元々の緑色に見え出したのだ。

さすがにこれで人間と見間違えるわけがなかった。


「化け物!?みんな!魔の森から化け物が出てきたぞ!!」


木こりは森からの人影を化け物だと判断すると、慌てて身体を反転させ、大きな声で化け物のことを知らせながら村の中に駆け戻った。


「化け物じゃと!?」「みんな!急いで隠れるのよ!」「誰か武器を持ってこい!!」


木こりの声を聞いた村の面々は、慌てて木こりの方を見たり家の外に飛び出してきた。そしてある者は木こりの言う化け物の姿を確認し、ある者は子供達を隠そうとし、またある者はその化け物を倒す為の武器を求めた。


木こりも化け物を倒そとする者達に合流しようとしたが、それは出来なかった。何故なら…。


「みん・ごふっ!?」「きゃあぁぁぁぁ!!」


何故なら木こりは合流する前に背後から胸を貫かれてしまったからだ。

木こりが見たのは、青い顔で自分のことを見ている村の仲間達の顔。そして、木こりが最期の力で背後を振り向いた先で見たのは、今まで木こりが見たこともなかった爬虫類の顔立ちをした化け物の姿だった。


「ば、け物、が・・・ごはっ!?」


木こりはその化け物に何かを言おうとしたが、それさえも木こりには叶わなかった。何故なら、貫かれた木こりの胸や口から大量の泡が溢れだし、木こりはあっという間に血の気を失って赤い光に変わり、そのまま消滅してしまったからだ。


「木こり!?」「いやー!!」「逃げろぉぉぉー!!」


そんな木こりの最期を見た村人達は、恐怖に泣き叫びながら逃走を開始し始めた。

誰も彼もがパニックに陥り、我先にと化け物から逃げようと駆ける。しかし、その逃走は一つとして成功はしなかった。


「きゃあー!」「いやぁぁぁぁー!?」


村人達が化け物から目を離して逃げ出した直後、村人達の背後から大量の泡が村人達の脇を通り過ぎて村人達の行く手を遮った。

そして次の瞬間、村人達は自分達が逃げようとした先に立つ化け物の姿を認めてまた悲鳴を上げた。


「人類。お前達は、逃げられないキャメ」

「「「「喋った!?」」」」


すると化け物は嘲りを含んだ声を発し、村人達は化け物が喋ったことに驚愕した。


「人類、この世界にお前達の居場所はないキャメ。はあぁっ」


化け物はそう言うと口から大量の泡を吐き出し、それを村人達に吹き掛けた。


「い・ごはっ!?」「き・・ごふっ!?」


村人達はその泡を受けると木こりのようになってしまうと思い、慌ててそれを避けようとした。しかし避けようとしたが足が動かず、次々に泡の餌食になっていった。


化け物は目の前にいた村人達の姿が消滅するのを確認すると、今度は村の家々に向かって泡を吐き出す。

その結果村のあちこちで泡と赤い光が舞い、村からは人の息づかいが一つ残らず絶えた。

後に残ったのはやたら真新しくなった家屋と、外で干されていた洗濯物であった。

怪物が開拓村に現れて僅か数分。たったそれだけの時間で、『生け贄の村』は本当に化け物の生け贄になってしまった。


「他愛もない。・・・仰せのままにキャメ。さて、次の準備をしなくてはキャメ」


化け物は村人達が一人残らず泡と散ったことを確認し、その後少し上を向いた後頷き踵を返して村の中心に陣取った。



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