勇者を求めて 亀の冒険
それで、まずは何処を攻めるんだ?
【この泉から人の大人の足で西に三時間程歩いた場所にある開拓村。そこを最初の標的にしようと考えています】
大人の足で三時間。それは直線距離でか?
【はい。なので森を蛇行することや魔物との戦闘を加味すると、人がここに来るとしたらそれよりも時間がかかることでしょう】
そうか。なら仮にモンストゥルが敗れても、すぐに開拓村からの報復は来ないということだな。
【そうなります。もっとも、開拓村なんて人の側からしても高確率で潰れるものです。報復なんて考えずにすぐに放棄すると思います。というか、そもそもこのダンジョンが見つかるようなヘマはしませんし、モンストゥルが開拓村に在住している戦力程度に敗北するなんてことはありえません】
まあ、特撮の怪人はヒーローを目立たせて倒されるのが役目だからな。どうしてもやられ役っていうイメージがあるんだよなぁ。
【ああ、まあ、確かにあなたの記憶にある怪人達はほとんど倒されてますしね。ですがそれはそちらの話し。こちらの怪人は私のモンストゥルがイメージを作っていくのです!私達に勝利を捧げるモンストゥルの勇姿を必ずお見せしましょう!】
まあ、俺としても勝ってくれることにこしたことはないな。
それに負けてもモンストゥルの問題点の洗い出しには使えるはず。特撮のような活躍するのが一回ぽっきりなやつならともかく、こっちのモンストゥル達はいくらでも修正して生み出せるんだ。
なら成功例も失敗例もいくらあってもかまわない。
俺達さえ無事ならモンストゥル達に真の敗北はないのだから。
そういえば開拓村が高確率で潰れる理由はなんなんだ?
【開拓村が潰れる理由ですか?理由は何種類かありますが、水源を確保出来ない。食料が自給出来ない。魔物の対処が出来ない。人員が集まらない。資金が続かない。開墾先の病気や気候に順応出来ない。敵国の工作等々が一般的ですね。珍しいものだと呪いやら魔法災害なんてのもありますね】
魔法災害?
【はい。大昔に使った魔法の影響や代償でどれだけリソースをつぎ込んでも荒れ地のままなんて土地もこの世界にはちらほらあります。まあ、私達には関係ないですね。ダンジョンの空間に上書きしてしまえば影響も代償もこちらでいくらでも干渉出来ますから】
そうか。
モンストゥルは単独で向かわせるのか?
【はい。今のこの子なら移動速度はバブルタートルをはるかに凌ぎますから、単独で突撃させるつもりです】
そうか。ならミニチュアバブルタートルを一体カメラ代わりに連れていってもらえるか。
【ああ、開拓村はダンジョンの範囲外ですから映像を見れないのですね。わかりました】
俺の頼みにメッセージが了承すると、モンストゥルは泉から飛び出して外に送り出していたミニチュアバブルタートルの一体を掴み上げて自分の肩に乗せた。
【それでは初陣です。行きなさいモンストゥル!】
そしてメッセージが命令を下すと、モンストゥルはダッシュで森の中へと消えていった。
【あとは開拓村に到着するのを待つばかりです】
直線なら大人の足で三時間だったよな?モンストゥルの足ならどれくらいで着きそうだ?
【モンストゥルの足ですか?そうですねぇ?・・・三十分もいらないと思います】
大人の足のざっと六倍か。亀なのに随分と足が早くなったものだ。なら時間がくるまで俺の方も計画を進めておこうか。
俺は外にいるミニチュアバブルタートルに意識を戻し、人海戦術ならぬ亀海戦術を開始した。
無数のミニチュアバブルタートル達が森の中を歩むと、いろんな動植物が目についた。
異世界らしいプヨプヨとしたスライムっぽい何か。角の生えたウサギに、歩くキノコ。紫色の風に揺れて鈴の音を響かせる鈴蘭のような花。他にも向こうのリアルではお目にかかれないようなものがいろいろといたしあった。
俺はまずは動かない植物の類いをミニチュアバブルタートル達に泉へと運ばせることにした。
俺がダンジョンコアを操作すると、一部のミニチュアバブルタートル達が植物に近づいてその植物の根元を噛んで一生懸命引っ張り始めた。
うんしょっ、うんしょっ。
ミニチュアバブルタートル達は一匹、二匹と数をだんだん増やしながらそれぞれが植物を引っ張る。
そして引っ張った植物が地面から抜けると、ミニチュアバブルタートル達はそれを甲羅に載せて泉の方へ移動を開始した。
だが、さすがは異世界。食虫植物ならぬ食獣植物なんてものもいるらしく、自身の根元に近づいたミニチュアバブルタートルに噛みつき捕食しようとするものもちらほらいた。
そんな植物は泡吐きで拘束を仕掛けながら数で押し潰す戦法を採用し、犠牲を出しながら採取していった。
植物が亀を食べる。さすがは異世界というか、どんな食物連鎖を形成しているのだろうか。
自分が外に出ても植物も警戒しておこう。
植物はそんな感じとして、次は虫の類い。異世界でも魔物ではない蟻や蜘蛛、蝶の類いは普通にいたのでこちらは泡で拘束してお持ち帰りしてもらった。
今のところ虫型の魔物は見つかっていないので、こちらはミニチュアバブルタートル達を犠牲にすることなく推移した。
続いて獣といきたかったが、基本的に相手の獣の方が素早かった為こちらは断念することにした。
さすがに真面目な兎と亀だと亀に勝ち目がなかった。
残るはゲームっぽいスライム的何かと歩くキノコ。たぶんマタンゴとかみたいな菌糸系の魔物かモンスターだと思うが、その二種の捕獲なのだが、なぜかスライムの方はミニチュアバブルタートルになつき、ミニチュアバブルタートルを上に乗せて泉目指して移動を開始しだした。
逆にマタンゴの方は胞子をばら蒔かれた結果、キノコ取りに行ったミニチュアバブルタートル達は全滅。そのまま菌糸に苗床にされて身体のあちこちからキノコを生やすこととなった。
一応苗床亀を一体だけ回収するよう指示を出したが、被害は甚大である。
また余談ではあるが、カラスやトンビっぽい鳥に拐われていった亀もそこそこいたりする。
亀はそれなりの重量があるはずなのに、よく咥えて飛べるものだと思った。そして、拐われた先ではやはり雛の餌にされるのだろうか?正式名称は疑似餌だが、亀はダンジョンのモンスター枠のはず。食べられるのだろうか?
そんなことを疑問に思いつつ、とりあえず送り出した分が帰るかいなくなるかするまで俺は見守った。