モンストゥル そして目的
で、ゲームから着想を得た実験をすることがお前の言う遊ぶってことなのか?・・・いや、これだとごっこ遊びは当てはまらないか?
【当てはまりませんね。それにこれはまだ第一段階です】
第一段階?ならまだいくつかやることがあるのか?
【はい。このバブルタートルはこれからやることの素材です。早速次に行ってみましょう】
そんなメッセージがきた後、今度はバブルタートルが何故か周囲の水をがぶ飲みし始めた。
何をさせてるんだ?
【体積を確保するために水を取り込ませています】
体積?
【はい。取り込ませた水を細胞に変換し、バブルタートルの身体を変化させます】
そう説明されている間もバブルタートルは水を取り込み続け、やがて身体の輪郭が液状化して波打ち始めた。
【今ここに、新たな有り方をした存在が誕生します。胎生で繁殖する生物でもなく、種で殖える植物でもない。魔力により変質する魔物でもなく、マナより生まれるモンスターや精霊の類いでもない。そしてあの方が創造したものでもない】
最初に甲羅が一気に巨大化し、次いでそこから伸びている短かった四肢や尾が太さを増しながらどんどん長くなっていった。
また骨格?の方にも変化があったらしく、手足の形状が四足から二足歩行出来る風に変化した。やがて頭の方も肥大化を初め、最終的には人間大の大きさにまで膨れ上がった。
【ダンジョンが生成した疑似餌と世界が交わり生まれる存在。世界に祝福された怪しき人形。怪人の出現です!!】
そしてメッセージが高らかにそう宣言すると、俺の目の前には怪人。昭和臭のする古いタイプの亀人間の姿がそこにはあった。
・・・ええっと……。
さすがに何と言って良いのかわからず、俺は視線をさ迷わせた。
【どうです!あなたから得た特撮ものの知識から生み出したこのモンストゥルの勇姿は!】
メッセージの方はテンションが高いが、俺の方はどう反応したら良いのか困った。
なんというか、平成の生まれである自分にとって昭和風のライダー怪人は古いように感じてしまい、今一つカッコいいとは思えなかった。平成のライダー怪人がモチーフはわかるがそのまま人間にしましたって感じじゃないせいかもしれない。
えっと、だな…。
【どうです!どうです!!カッコいいでしょう!!亀の爬虫類感に、ゴツゴツとした重厚な身体つき!確かな知性を宿したその瞳!そしてそして、この圧倒的な存在感!!まさに人類を!神を!精霊を!あの方を裏切った全ての愚者を滅ぼすにたる存在です!!】
俺が何かを言う前に、肉声だったらマシンガントークばりのメッセージが出現した。
・・・それで、こいつを使ってどう遊ぶんだ?
【よくぞ聞いてくださいました!私はあなたから様々な知識を得ました。そしてその内の一つ、特撮に私は強い関心を持ちました】
それはまたどうしてだ?
【そこにいた怪人達。その人や世界への悪意に感動したからです!】
あー、感動?
特撮ものの怪人に感動する要素なんてあったか?しかも悪意で?
【はい!毎年何処にでも現れて様々な方法で人類を脅かし続けるその勇姿!倒されても倒されても何度でも蘇るその不屈の姿!人を、街を、国を、文明を破壊していくその威風堂々とした姿!私、とても感動しました!!】
そ、そうか。
このメッセージの主って、サイコパスの類いなのか?それともこの世界の人類とかって、こんな風に怪人を称賛する程に恨みを買ってるのか?
あー、賛辞はそれくらいにして、結局何をさせるつもり何だ?
【ああ、すみません。モンストゥルを使ってどう遊ぶかでしたね。手順としましては、まずモンストゥルを人里に送り込みます】
ふむふむ。
【そしてそこで適当に暴れさせ、選別と誘き寄せを行います】
選別と誘き寄せ?何を選別して、誰を誘き寄せるんだ?
【その答えはどちらも勇者です】
勇者?勇者を倒す為に誘き寄せるのか?・・・いや、それだと選別はする必要が無いよな。選別なんてしないでまとめて葬れば良いんだから。
【そのとおりです。私達の目的は勇者を倒すことではありません。奴らの手から勇者の身柄を奪還し、保護することです】
奪還し、保護する?誘き寄せて奪還するってことは、勇者は今は人類側についているのか?いや、選別するのならついているわけではない?
『友を救う』
うん?
メッセージからどういう意味か考えていると、一つの言葉が脳裏を掠めた。
『勇者を救う』『勇者を取り戻す』『世界を救う』『勇者の魂を集める』『友と再会する』『愛し子を今度こそ守る』『分かたれし魂を』『友の傍に』『愛し子に祝福を』『勇者の守護を』『勇者の報復を』『断たれし絆を』『友の報復を』『敵に報いを』『勇者に安寧を』『愛し子に平穏を』『もう一度』『友と冒険を』『今度こそは』『過ちは繰り返さない』『またあの笑顔を』『災いあれ』『偽りに溺れろ』『我らはきっと』『灰は灰に、土は土に、人は人に還れ』
『友よ『勇者よ『愛し子よ今度こそは共に』』』
そしてそれをきっかけにするように、俺の脳裏に無数の言葉が溢れだした。
それらは誰かに対する思い。誰かに向けた願い。誰かに向けた悪意。だがその大半は特定の個人へと向いた自分と誰かの誓い。
俺はその言葉達に共感を覚えた。
俺はその言葉達をかつて言った。そして言われた確信があった。
そしてそれらこそが自分達の目的であると理解した。
分かたれた勇者の魂を取り戻す。そして、勇者の敵に報いを…。
【そう!そう!そうですとも!!勇者の魂を見つけだしましょう!勇者を取り戻しましょう!そして勇者を、創造主を、あの方を、私を裏切り、あなたから大切な人を奪ったもの達全てに復讐しましょう!!】
ああ、ああ、そうしよう。誰に憚ることもない。俺達は大切な人を取り戻し、失った時間をやり直す!