幕間 波紋
魔の森 ダンジョン深層 中心部
【これは!境界が貫かれている!?】
『随分派手にやったみたいだな』
『本来は一つだけの接触だったのが、綻びを通して拡大されているな』
ストーリア聖国で起きた異変。それは世界を観測していた星樹にも大きな衝撃をもたらした。
【あれはいったい何者です!?どうやってこんな大規模なことを!?】
『目覚めの鐘を鳴らす者達』
『現実をさ迷う夢遊病の世界不適合者達』
『『アオフヴァッヘングロッケ』』
【アオフヴァッヘングロッケ…】
星樹の混乱したメッセージがダンジョン内を駆け巡る中、ストーリア聖国にいる蛇の目を通して現状を見ているデュスリュティムが双口で人影の正体を告げた。
『お前達の仇敵であり』
『この世界を』
『あまねく全ての世界を』
『『滅ぼさんとする者達』』
【仇敵?いえ、世界を滅ぼす?異世界も含めて?そのようなことが…?】
『出来る出来ないは問題じゃない』
『あいつらは出来ず、成せなくてもやる』
『故に備えろ。この世界の止まっていた時計の針はお前達の覚醒と共に動き出した。奴等はその動き出した針を加速させるぞ』
【・・・わかりました】
それを最後に星樹からのメッセージは虚空から消えた。
デュスリュティムも意識をストーリア聖国の方に向け直した。
ストーリア聖国 王城 謁見の間
「陛下!守備隊が押し寄せて来ている魔物や動物達と戦闘を開始しました」
「そうか。ならば兵達が時間を稼いでいる今の内に民の避難を済ませるのだ!」
「はっ!」
兵は王に敬礼すると、早足で謁見の間を後にした。
「大臣。此度の異変について何かわかったか?」
「情報が錯綜しておりますが、どうやら西の森の空に異変ありとのこと。また、先程の音は王都以外の場所にも響き渡ったていたようで、各地から伝書鳩がひっきりなしに飛んで来ております」
「むう。空の異変に国全体に響き渡った謎の異音。それと前後するように押し寄せて来た恐慌に陥った魔物や動物達。これらの異変は大神殿から報告のあった魔女の予言と関係があるのか?」
王は数日前に報告のあった内容と一致する部分が気になっていた。
「予言の出だしに空に亀裂が走る時とありました。此度の異変と無関係とは言い切れませんな」
「となると次は銀の災い、か」
「予言と関係あるのなら、ですな」
「大臣!民の避難誘導を急がせよ!何かが来る前に避難を終わらせこれ以降の事態に備えるのだ!」
「はっ!」
王の命を受けた大臣は一礼すると、近くに控えていた文官達にや次ぎはしに指示を飛ばした。
「陛下!陛下!大変にございます!」
「どうした魔術師長!」
文官達が慌ただしく動き出していると、立派なローブを着た老人が謁見の間に駆け込んできた。
「召喚陣が!召喚陣が!」
「落ち着け魔術師長!召喚陣がどうしたというのだ!?」
「はあっ、はあっ。・陛下、大変にございます!先程の異音と同時刻、点検を命ぜられていました召喚の間の召喚陣が勝手に起動致しました!」
「なんだと!?」
魔術師長がなんとか息を整えそう報告すると、王は驚きで玉座より立ち上がった。
「どういうことだ魔術師長!あれを使うには膨大な魔力と儀式が必要なはずだ!?」
「はい、そのはずなのです!なれど現在召喚陣は通常時とは異なる銀色の光を撒き散らしながら何かを召喚しようとしているのでございます!」
「銀色の光、だと!?」
王は魔術師長の言う銀色の光というワードに嫌な予感がした。
つい先程魔女の予言にある銀の災いというフレーズを気にしていただけにこの符合が意味するものがなんなのか考えずにはいられなかった。
「魔術師長!なんとか止められぬのか!?」
「現在進行形で部下達が対応してはいるのですが、本日は点検だけの予定でしたので召喚陣の専門家である空間魔術師達の多くが不在なのでございます」
「あー…」
王は現在外に出ている空間魔術師達の顔を思い浮かべた。
元々空間魔術師達は長距離移動が出来る為あちこちに派遣されている。そして城に残していた空間魔術師達もこの度の魔物騒ぎで城下や前線。件の森に勇者と共に派遣した後であった。
「・・なんとか召喚を止めることは出来ぬのか?」
「事後報告になりますが発動事態がイレギュラーでしたので破壊も視野に入れて対応しているのですが…」
「破壊!?・いや、今それはよい。それで止められそうなのか?」
「残念ながら無理そうにございます。ここに来る前に私めの攻撃魔法をぶちこんで来ましたが召喚陣から放たれる銀色の光に弾かれてしまいました」
「馬鹿な!魔術師長たるお主の攻撃魔法を弾いたじゃと!?召喚陣にそんな機能はあるまい!?」
「はい。そんな防御機能は私めも。部下達も存じ上げませぬ」
王の叫びに魔術師長はただただ頷いた。
「王よ、避難を。召喚陣を止められず、召喚陣から何が出てくるかも不明。下手をすれば召喚された瞬間に城を倒壊させるようなサイズのものが出てくる危険性もあります。それでなくともイレギュラーにイレギュラーが重なっている。外も騒がしいようですし、一時大神殿の方にお移りになった方がよろしいと存じます」
「・・・」
魔術師長からの提案を聞いた王は、どうするかわずかの時間考えた。しかし現状は異変に次ぐ異変の嵐。
ならば神のお膝元である大神殿の方で指揮をとるのは悪くないと判断した。
「・わかった。大臣!城の者達の避難を始めよ!城に避難して来た者達も連れて大神殿に向かうぞ!」
「はっ!」
「魔術師長!そなたは召喚の間を空間閉鎖してから大神殿へと合流せよ。召喚陣の問題をなんとか先送りにするのだ!」
「かしこまりました」
魔術師長は一礼すると、謁見の間より召喚の間へと向かった。
そして王達も魔術師長の後を追うように城から大神殿への移動を開始した。
■■■■■■■ 円卓の間
何処かの一室。そこには円卓と十二の席があり、そのいくつかを夜明け色の人影が埋めていた。
「どうやら無事に介入出来たようだな」
「当たり前だ。わざわざ番人が封じられているオーブを持たせているのに失敗するなど許されん」
「そうね。でもこれでこの牢獄はさらに脆くなるわね」
「ああ。千年もかかってしまったが後少しだろうな」
「まったく面倒だよな。この牢獄の核だろう勇者の奴を始末して終わりかと思ったら、番人の親玉達の領域は閉鎖されるは、番人でも管理者でもない奴らに襲われるは踏んだり蹴ったりだ!」
「確かにな。だがあの蛇はいったい何なんだろうな?いまひとつ目的が見えん」
「そうね。あの蛇って私達が忘れた頃にちょっかいをかけてくるけど、何処にでも現れて少し経つと霞のように消えちゃうのよね。いったい何がしたいのかしら?」
「うなもん、千年経ってもわからねぇんだ。考えるだけ無駄だ、無駄だ!」
「まぁ、そうかもね」
「ともかくあやつの成功を祝おうではないか」
「ああ」「ええ」「おう!」
「全ては我らがこの牢獄から解き放たれ、真の世界に帰るその日の為に!」
「「「「我等目覚めの鐘は打ち鳴らされる!」」」」
その掛け声の後、円卓にいた人影は一つ残らず消えていた。




