※誰のお家 どのお家
「あれ?」「あら?」「うん?」
ラビットとローザ。そしてアインは急に意識がはっきりすると、周囲をキョロキョロと確認した。
「ああ、お目覚めですか?」
すると椅子に座って狼フレイクと戯れているアストの姿が目に入った。
「ええっと僕達どうしてたんでしょう?」
「空間の増設を見せたら固まってしばらく動かなくなってたね」
「空間の増設…」
「「「あっ!」」」
アストがラビットの疑問に答えると、三人は一斉に少し前の出来事を思い出した。
「「「えっ!?」」」
そして三人は改めて周囲の状況を確認した。
するとそこには、先程見たのとは別の光景が広がっていた。
「えっ!えっ?ええっ!?さっきは森でしたよね!?」
「そのはずよ!」
「ああ、確かに俺も突然広がった森を見たはずだ!」
三人の意識が曖昧になる前。その時はテーブルの周囲に木やキノコが大量に生えていた。・いたはずだった。
しかし今はテーブルの周囲に木の姿は無く、キノコの方もなんだかファンシーなことになっていた。
「なんですかこの巨大なキノコ!?」
今兎ラビット達の目の前にあるのは、兎のラビットがちょうど入れるくらいの扉や窓。煙突などが付いているキノコの家だった。
今いるお菓子の家も大概ではあるが、キノコの家も負けず劣らずファンシーと言うか、メルヘンと言うか、少なくとも現実味の薄いお伽噺話臭が漂っていた。
「君の家の候補」
「えっ?僕の家の候補?これがですか!?」
「そう。よくよく考えてみたら別にこの家の空間を増設しなくても良いと気がついたんだよね。間に合わせで良ければこういうのでも良いわけだし。ああ、安心して。その家の中の空間はちゃんと人間の居住空間を確保しているから。出入りだけ兎になってくれれば大丈夫だよ」
「出入りだけって…。それでも兎になること前提なんですか?」
「一応リアルサイズも出せるには出せるけど、維持コスト全部こっち持ちなんだよ。さすがにそこまでするのはちょっとねぇ」
「ああ、まあ、確かにそこまで負担していただくのは僕も申し訳ないですけど…」
元々フレイクを追いやる感じの提案を嫌がっていたので、アストの維持コストという部分でラビットは顔を曇らせた。
「ちなみにキノコの家以外の候補だとこんなのがあるね」
「うわっ!?」「きゃっ!?」「うおっ!?」
アストがパチンと指を鳴らすと、キノコの家の隣の空間が間延びすると同時に白い煙とともに何かの影が複数現れた。
やがて煙は突然晴れ、現れた影の正体がラビット達の目の前にその姿を見せた。
「「「「こ、これは!?」」」」
その正体はカボチャ、カブ、リンゴ、切り株で出来た家。そして雪を積み重ねて作られた半球状の物体だった。
「カボチャ、カブ、リンゴって、なんで半分近くが食べ物で出来た家なんですか!?」
「魔女の家っぽいから」
「正気ですか!?」
「もちろん冗談」
「っ」
アストが冗談というと、兎ラビットはズコッとなった。
ローザやアインは呆れた目を向けている。
「本当は一体成形が楽だから」
「一体成形?」
「そう。普通の家のように木を材木に加工して継ぎ手や釘で接続して建てる木造。レンガを焼いて粘土などで張り付けて建てるレンガ造り。どちらも建てる為の工程が多くて僕の天恵で出すには向かないんだよねぇ。だから僕は家なんかの複雑な工程が噛む物は時間をかけて製造するか、今見せているみたいに食べ物みたいな一つの物体を調整して形作るんだ」
「へぇー、そうなんですか」
「で、どれにする?」
「俺はこれなんか良いと思うぞ!」
アストがどれが良いかラビットに聞いていると、アストの腕から飛び出した狼フレイクが雪の物体に潜り込んで入り口らしき穴から頭だけ突き出してそう言った。
「かまくらか。狼というより犬の方が似合う家なんだけどなぁ」
「そうなのか?」
「地球系列の寒い地方だとそうらしいよ。僕としては兎ならキノコの家か切り株の家が似合うと思うんだけど、ローザ姉達はどう思う?」
「どう思うって…。確かに絵面は兎と合っていると思うけど、住むのは人間のラビット君なんでしょう?」
「そうだよ」
「それなら兎云々は結局のところ関係ないんじゃないの?」
「まぁ、そうだね。こだわりでもなければ家の形状とか気にする必要はないかな?」
アストとローザがそんなことを話してる間、狼フレイクに兎ラビット。そしてアインはそれぞれ入り口から頭を突っ込んでそれぞれの家の中を確認していった。
「なんというか本当に人が住めるような内装と広さを持ってやがるな。いったいどんな仕掛けだよ」
「本当ですね。入り口以外は普通の家と変わらない。というかむしろ故郷にあった家よりも豪華というか洗練されてますよ」
「確かにな。平民の家というよりはどこぞの高級宿屋みたいだぜ」
そして一通り覗き終わると、アインとラビットは意見交換を始めた。
「そうなのか?たまに遊びに行った他の魔女の婆ちゃん達の家の中もみんなこんな感じだったぞ」
「そうなのか?」
「おう!そうだったぞ!」
「魔女の技術が人の先を行っているのか…」
「それともそういうこだわりかお金があるんですかね?」
フレイクの証言を聞いた二人は魔女の家事情を少し羨ましく思った。
「それで、実際にどれにするか決まった。まぁ、一軒だけなら別に日替わりでもかまわないけど」
「アスト!アスト!俺はこれが良い!」
狼フレイクは最初のとおりかまくらを押した。
というか、この勢いだとフレイクの方がかまくらに住み着くように見えた。
「ふむ。お菓子の内装よりも雪仕立てのかまくらの中で狼フレイクを抱いて寝る、か。・悪くないな」
そしてアインの方もそんな未来予想をする程度には乗り気であった。
「というわけでフレイクの方の部屋移動が決定しました。君はどうする?もう譲るとか貸すの話しじゃなくなったけど」
「ええっと…、それなら部屋の方をお借りします」
「なら決まりだ」
アストはラビットの選択を聞き、パチンと指を鳴らした。
するとかまくらを残して他の家はその姿をまるで幻のように消失させた。ついでに家が現れた際に間延びしていた空間もそれぞれの家がなかった時の広さに戻った。
「フレイク、かまくらは何処に設置する?家の中でも良いし、外でも良いよ。もう何日かしたら彼女達も来るから準備する必要があるし」
「彼女達?誰か来るのか?」
「帰り道で話したフレイクのお父さんを知っている人。その人が従者を連れてこっちに来るんだよ」
「そうなのか!なら外に頼む!来たらすぐに会ってみたいからな!」
「わかった。それじゃあラビットは後で部屋に案内するから家に居て。ローザ姉達はまだいるの?」
「いえ、そろそろおいとまさせてもらうわ。お師匠様にお礼は言ったし、予言や対価についても聞けたから。というか、急いで帰って歴史を漁らないと。因縁もわからずにアビスと戦うのはさすがにモヤモヤするしね」
「たしかにな」
「そう。なら三百年前に召喚された医聖ナイチンゲール。彼女について調べると良いよ」
「そう。わかったわ」
ローザはそう言うとアインと連れだってお菓子の家を後にした。
二人を見送った後、アストは外にかまくらを設置した。
そしてその夜アストは言っていたとおり狼フレイクを抱き枕にして一夜を過ごした。




