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※備えと泊まる為に

「あのー、ローザさん?」

「・何かしら、ラビットくん?」


アストが話しは終わったとばかりの態度をとっていると、テーブルに乗せられていた兎ラビットがその短い前足を上げてローザに声をかけた。


「予言とか災厄とか規模の大きな話しの後に聞くのもあれなんですが、街の方で何かあったんですか?こっちに来る前に門の方に兵士の人達が集まってたみたいだったんですけど…」

「兵士?・ああ、それはこれから魔の森の監視任務にあたる兵達よ」

「魔の森の監視任務ですか?」

「ええ。さっき話したでしょ、私達がキノコの化け物と死闘を演じたってこと」

「はい!それでパーティーメンバーの人やお隣の国の勇者様が重傷を負われたんですよね?」

「ええ。その報告をライハルトが巫女様にして、その報告が巫女様から神様の方にいって、神様から陛下の方に命令が行ったの。魔の森から来る相手に備えよ。そして出来れば接触し、交渉の場を用意せよってね」

「交渉の場ですか?ローザさんが戦った相手ってキノコの魔物なんですよね?どうやって交渉なんてするんですか?」


最初にローザから聞いた話しとの齟齬に、ラビットはどういうことだろうと思った。

普通、魔物は喋らないし、知能も元になった動物よりも多少上な程度。なので交渉なんて言葉を魔物相手に使うことは一般常識的にありえなかった。


「ああ、違う違う。交渉相手はキノコの魔物じゃなくて蛇のモンスターの方なの」

「蛇のモンスター、ですか?」

「ええ。件のキノコの魔物との戦いの途中に割り込んで来た双頭のモンスターでね。その蛇が割り込んでこなかったら今頃ソアラもエミリアもあのキノコの化け物に爆殺されているところだったわ」

「本当にそうだったよな」


ローザとアインは少し前のことを思い返し、キノコの化け物の殺意と容赦の無さ。そして倒れ伏した二人の前にいつの間にかいた双頭の蛇の姿にいろいろと思うことがあった。


「爆殺!?戦ったのってキノコの魔物なんですよね!?」

「そうよ」「そうだ」

「あの化け物、いろんなキノコを生やせる能力があってね。なかでも爆裂ダケを多用していたわ」

「おかげで俺達の方も何度となく爆破されたよな」

「ええ。下手をしたら私達もいつ一緒に爆殺されてもおかしくなかったわね」

「ええっ、やっぱり勇者様達が戦う相手って、キノコの魔物でも普通と違って凄いんですね」


そんな化け物キノコを相手に生き残った二人にラビットは尊敬の眼差しを向けた。


「そうなのかしらね?相手がイレギュラー過ぎてあまりそうとは思えないけど…。まぁ、それはともかくとして、そんなわけで兵達が魔の森に展開するの。ラビットくんは新米冒険者って言ってたわよね?」

「はい!今日登録してきました!」

「ならしばらくは危ないから魔の森には入らない方が良いわ。キノコの化け物の影響で魔の森の魔物の生息分布に変化が起きるだろうから。その辺の調査もあってしばらく魔の森は慌ただしくなるわね」

「・そう、ですか…」


ローザにそう言われたラビットは、見るからに落ち込んだ様子を見せた。


「どうかしたの?」

「僕、今日こっちに出てきたばかりなんです。宿もまだとってないんですけど、魔の森に入れないとなるとこれからの滞在費なんかが…」

「ああ、ここは物価が高いものね。それに新米冒険者の場合は毎日稼がないと生活出来ないわよね」


ラビットの話しを聞いたローザは、すぐにラビットが生活に困ることが理解出来た。


「なぁ婆ちゃん!」

「なんだい、フレイク?」

「ラビを家に置いてやってくれないか?」

「「!?」」


ローザがどうしたものかと思っていると、フレイクが老婆にラビットを居候させてやれないかと尋ねた。


「家にかい?泊めること自体はあたしはかまわないけど、泊める部屋は増築でもしないかぎりないよ」

「ならこの姿のままでも駄目か?」

「「「えっ!?」」」

「この姿って、その兎の姿でってことかい?」

「おう!」

「それならまぁ、スペースの問題はクリア出来るだろうけど…。」

「・・・」


そんな兎の姿にしてまで泊まらせる必要があるのかと老婆は思った。

またラビットの方も泊まらせようとしてくれているのはありがたかったが、それが兎の姿限定ということでなんとも言えない気持ちになった。


「それか俺がこの姿でアストの部屋に転がり込むから、俺の部屋をラビに使わせてやれないか?」

「えっ!?それはさすがに悪いですよ!泊めてもらったあげくにそんなご迷惑をかけるわけには…」


そんな微妙なラビットの表情を見たフレイクは、今度は自分の方が動物でいる提案をした。しかしそれを聞いたラビットは慌ててフレイクを止めた。


「別に気にしなくて良いぜ。朝昼は外に出てるし、帰ってもだいたいアストの部屋に入り浸ってるしな。それに寝る時もアストに抱き枕にされてるらしいからどっちかのベッドは空いてるだろうし」

「あー」


確かにアストがフレイクを抱き枕にしていると言っていたので、どちらかのベッドは空いてるんだろうなとラビットも思った。


「フレイク」

「なんだ?」

「僕が空間を増設しようか?」

「「「「空間を増設?」」」」

「空間を増設って、具体的には何をするんだ?」

「うーん、実際に見せた方が早いかな?[星盤選択(ボードセレクト)]展開せよ、〈キノコの里〉」

「「うおっ!?」」「「ええっ!?」」


アストは一度虚空を見上げた後、人差し指をくるくる回して何かを操作するような動きを見せた。やがて回していた指先を止め、何かを押すような動作をアストが見せると室内にある変化が起きた。

なんと室内に突然()()()()()()()()


「えっ!えっ?ええっ!?なんですかこれ!?」

「どうなってるの!?」

「・なんだ、これ…」

「アスト!何をしたんだよ!?」

「何って、空間を増設しただけだよ」


アストはこうなる前に言っていたことを繰り返したが、フレイク達は何が起きているのかさっぱりわかっていなかった。


先程までは建材がお菓子なことを覗けばごくごく普通の室内だった。それが今では室内の広さから天井の高さ。いや、有り方までさっきとはまるっきり別物になっていた。

というか、自分達の立ち位置等は変わっていないが内装がすごいことになっている。

テーブルの周囲には外に生えているのと遜色ない樹齢の木がまばらに並び、それらの頭上の天井は無くなり青空が見えている。

下に目を向けると木の根本には無数のキノコ。そしてクッキーの床は草の生えた大地に変貌していた。

視線を横にずらすと室内は森の開けた場所を内包したようになっており、明らかに空間が広がっているはずなのに木が生えている場所より外側は普通に元の天井や壁が存在していた。


「とまあ、こんな感じで空間を増設することは可能だよ」

「「「「・・・」」」」


アストはやはりただ証明して見せただけのようだが、フレイク達は現実の変化についていけていなかった。



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