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幕間 終焉のガーリー王国

  ガーリー王国 王都 謁見の間


「陛下!陛下!大変でございます陛下!」

「何事だ騒々しい!」


玉座にて謁見を行っていた王は、息を切らせて謁見の間に駆け込んできた大臣に何事か誰何した。

また大臣の様子を見た他の面々。王と謁見していた勇者と神殿長。王の護衛をしていた近衛騎士や兵達も何事かと思った。


「スタンピードでございます!」

「何だと!種別は!何処で発生したのだ!?」


そんな面々に、大臣はスタンピード。魔物の氾濫が行ったことを告げた。

それを聞いた王は慌ててその子細を確認した。スタンピードと言っても氾濫した魔物の種類や場所によって対応が変わってくる。それらの情報は最低でも必要だった。


「魔物の種類はスライム!発生場所は我が国全域でございます!」

「スライムなのはともかく、我が国全域とはどういうことだ!バラバラの場所でスタンピードが同時に発生しておるのか?」

「違います!我が国全域にて一つのスタンピードが発生しております!少なくとも魔の森を含めた国境巡視中の部隊及び遠近の領地から伝書鳩にてスタンピードの発生が報告されております。また、王都の外縁部にて現在王都守備隊とスライムが交戦状態に突入しております!」

「そんなまさか!?誰か外の様子を確認せよ!」

「はっ!」


王の命を聞いた近衛兵の一人が謁見の間に隣接しているバルコニーに向かった。


「陛下!大臣の言われていることは真です!外壁の外がスライムで青く染まっております!」

「馬鹿な!なぜそのようなことになるまで物見は気づかなったのだ!?」


王は外壁の外が青く染まる程のスライムが王都付近にいることに頭痛がした。


「おそれながら、地面から湧いて来た為にございます」

「何?それはどういう意味か?」

「言葉どおりでございます。スライムどもは地面より突如湧いて来たのでございます。いえ、今も染まる範囲が広がっている点からすると、現在進行形で湧き出し続けているのだと思われます」

「くっ!被害状況と避難状況はどうなっておる?」

「ここに来る前の最新情報ですと、すでに辺境の村々は更地にされ、都市も半壊しております。その他被害大多数ではありますが、先に人的被害の方を報告申し上げます。ゼロにございます」

「なに?もう一度申してみよ」

「はい。スタンピードによる人的被害はゼロにございます。どうやらあのスライム達は人を喰わぬようでございます」

「そうか、それは不幸中の幸いだな」


王は人的被害がゼロとの報告にひとまず胸を撫で下ろした。しかし…


「うん?だが村や都市に被害が出ていると報告しておらなんだか?」

「はい。ではこれより人的被害以外の被害報告をさせていただきます。・・・陛下、どうか気をしっかり持ってくださりますようお願いいたします」

「う、む」


すぐに大臣の報告の矛盾に気がついたが、大臣が顔を青くしながら新たな報告をしようとしているので耳を傾けることにした。

だが、大臣の報告からいろいろと察してしまったが…。


「まずは前提でございますが、此度のスライムは今のところ人を補食したという報告はありません。ですが、逆に人以外のものは全て補食していると報告されております」

「人以外の全て?その全てというのは何処から何処までを指しておる?」

「文字通りの全てにございます。報告されている実例を上げていきますと、家畜や魔物、動物は全て骨も残さず補食されております。植物は森や山単位で禿げ山を越えて更地にされました。これには鉱山の類いも含まれております。また川は干上がり、泉や湖、井戸の類いは水源から枯らされました。そして奴らは家や外壁。服や武器、防具、装飾品の類いに至るまで全て溶かして補食しております。その結果残されたのは、真っ裸の民達だけにございます」

「・・・」「「「「・・・」」」」


王は大臣のその報告に理解を拒否したくなった。

また、王と共にその報告を聞いていた勇者や神殿長。近衛騎士達もその被害の大きさ、酷さに現実逃避したくなった。


「・・・大臣。冗談であろう?山を更地。湖を枯らすなどスライムに出来るわけがない!きっとスライムなどに襲われたショックで妄想と現実を取り違えただけであろう!なぁ大臣、そうであろお!」

「・・・残念ながら陛下、証拠がそちらに…」


大臣は痛ましげに視線を王より反らし、バルコニーの方に向けた。

王は現実を認めたくないと思ったが、よろよろと玉座より立ち上がりバルコニーの方に向かった。

そんな王に続いて他の面々もそれぞれバルコニーに向かって歩きだした。


「「「「「「・・・」」」」」」


そして眼前に広がる光景を見て、現実を認めざるをえなくなった。

外壁の外を埋め尽くす青。その奥にそびえていた幾つもの山々が没し、その手前にあった緑の平原と森が瞬く間に茶色い荒れ地に成り果てた。

王都を囲んでいた外壁もだんだん低くなっていき、青が王都内を染め始めた。

すると眼下から無数の悲鳴が上がり、そちらを見ると外壁から離れようとしていた人々がスライムに次々と飲み込まれていった。だが直ぐに真っ裸でスライムから吐き出され、今度は別の意味での悲鳴が上がりだした。

スライム達は人だけではなく王都の建造物にも食指を伸ばしていき、そちらは完全に消化されて消滅していった。


「なんと、なんということだ。儂の都が、民が、スライムごときに」


その光景に王達が呆然としている間もスライム達は王都を這い食らい、やがて王城に隣接している神殿付近に到達した。


「むっ!もう神殿にまで来おった。神殿長!どうにかならんのか!?」


スライムの進行速度が出鱈目で、今から対応しても間に合わない為王は神頼みを選択した。


「あちらでスタンピードを認識しているのなら王都防衛用の結界が発動されるはずですが…」


神殿長も神頼みで神殿に残っている部下達が結界の用意をしてくれていることを祈った。


「むっ!」


そしてその祈りは天だか部下に通じたらしく、神殿から光の柱が立ち上がり神殿を中心に光の壁を形成していった。そしてそれは完成すると現在神殿と王城を囲むように存在しているスライム達を退けることに成功した。


「「「「おおっ!!」」」」


それに謁見の間にいた全員が歓声を上げた。


「これでなんとか時間が稼げるはず。今のうちに対策を…うん?」


そして神殿長が王に対応案を練ることを勧めようとした直前、神殿長達の視界にありえない光景が展開された。


スライム達は結界が邪魔でそれ以上侵攻出来なくなると、まず最初に結界の外側にある全てを食らい尽くして荒れ地に変えた。

今では外壁も、家も、施設も、王都じゅうに張り巡らされていた街道の石畳さえも無くなり地面が露出している。

そして王都を荒れ地に変えたスライム達は、今度は一ヶ所に集まりだした。王都の中外に関係なくスライムが集合し、どんどん嵩を増して上へ上へと大きくなっていった。

その高さはあっという間に神殿。そして王城の高さを越え、今では城の目の前に巨大な塔が聳えたような様相にまでなった。


「馬鹿な…。まさかあの大規模質量で攻城攻撃を行うつもりか!?神殿長!結界はそれに耐えられるか!?」

「・・・いえ、さすがにそれに耐えきるのは無理にございます」


それを見た王は嫌な未来を想像し神殿長に確認するが、神殿長は少し考えて無理だと返答した。

結界だけなら大規模質量にも天災扱いで耐えられるかもしれないが、結界とスライムとの衝突で発生するだろう衝撃波までは結界で防げるか怪しいと神殿長は判断していた。


「勇者よ!お主の攻撃であのスライムどもを消滅させられぬのか!?」

「・・・いえ、削ることは出来ましょうが、さすがにあれだけの質量を消滅させるのは無理です。というか、スライム達を消滅させようとすると地上にいる人々が巻き添えになります。そのようなことは勇者として実行出来ません」

「くっ!」


次に王が可否を確認した勇者の方も否を告げた。

これにより謁見の間に居てスライムをなんとか出来そうな可能性の全てが潰えた。


「ならばあのスライムどもが結界を砕く様を見ているしかないのか!」

「残念ながら」


王が諦め切れずに喚くが、大臣の方は完全に諦め切っていた。

さもありなん。神殿長や勇者にどうにも出来ないのにただ人がどうにか出来るわけがなかった。


パァーー!!

「「「「「!?」」」」」

「なんだこの輝きは!?スライムどもはなにをしようとしておるのだ!?」


そんな諦めムードの中、青い輝きが謁見の間に飛び込んできた。

全員がその光の発生源を確認すると、聳えるスライムが清浄な青い輝きを放っていた。


「馬鹿な!なぜモンスターであるスライムが浄化の光を!?」


それを見た神殿長はありえない現象に目を見開いた。

浄化とは一般的に神に属する力。神官などの神職が扱うものであり、モンスターのスライムが浄化の光を放つなど前代未聞。あるはずのない出来事であった。


サァァァァー

「「「「「なっ!?」」」」」


そして神殿長が困惑している中、さらなるありえない事態が発生した。なんとスライムから放たれる青い光を浴びた光の壁。神殿と王城を守っていた結界がまるで朝日に照らされた朝露のように消えだしたのだ。


「馬鹿な!?神の御力で展開している結界が消えるなど!いや、そもそも何故浄化の光で結界が消える!?これではまるで結界が、我らが神の御力が不浄だと言わんばかりではないか!?」


そのありえない。ありえてはならない内容に、神殿長は発狂しそうになった。

さもありなん。自分が浄化の力と判断した力が自分の信仰する神の力を打ち消す。それはつまり、自分の神の御力が不浄なのだと()()が証明しているのにほかならない。

神に仕える神職としてとうてい受け入れるわけにはいかない現実であった。


だが現実は変わらない。神殿長が現実を受け入れられないでいる間にも結界は消失していき、やがて光の壁は完全に消え失せた。そして結界が無くなればもはやスライム達を遮るものは何も無い。

スライム達は一気に神殿を含めた王城の周りの建物を飲み込み、その魔の手を王城に伸ばした。


ぐらりっ

「「「「「うおっ!?」」」」」


王城が大きく揺れ、バルコニーから見える景色がどんどん下がっていく。

王達はなんとか逃げようとしたが、城の揺れが酷く満足に立ち上がることも出来ず、ただただ城の揺れに振り回された。

やがてバルコニーからの景色がだいぶ下がってくると、とうとうバルコニーの先や謁見の間の扉。採光用の窓などからスライム達が謁見の間内に雪崩れ込んできた。

その段になると全てが手遅れ。王も勇者も神殿長もまとめてスライムに呑まれ、王都の人々同様真っ裸で王城跡地に吐き出された。

スライム達は王都の。ガーリー王国の人以外の全てを食い尽くすと、現れた時と同様に唐突に地面の中に染み込むように消えていった。

あとには真っ裸で途方に暮れるしかないガーリー王国の人間だけがなにもかもなくなった荒野に取り残された。


こうしてガーリー王国は半日も経たずに滅亡した。

後にこの日はガーリー王国の落日。

スライムの恐怖を語る歴史の一幕として他国の歴史書に刻まれた。

だがまだガーリー王国の人々はそんなことは知らない。これから自分達に訪れる未来など…。



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