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※星樹は告げる ある方の影

「御母様…」

【ああ、愛しい私の娘。無事に復活出来て良かった】

「・・・ごめんなさい、御母様」


星樹はアリアンロッドの復活をことの他喜んでいるようで、デュスリュティム達が感じている言葉はとても暖かな雰囲気がした。

だがアリアンロッドはそのことに喜びながらも、とても申し訳なさそうな表情をして謝った。


【何を謝るのです?謝らなければならないのは私達の方です。私達が呆けていたせいで、貴女を千年もの間孤独にしてしまった】

「いいえ、そもそも私が御母様達に相談しておけば良かったのです。そうすれば彼を護れたのに。御母様達が呆けていたのなら、彼はみんなに殺されてしまったのでしょう?」


そういうアリアンロッドの目から涙が一滴零れ落ちた。


【泣かないで愛しい子。確かにあの方の地上代行者。私達の勇者はあの子達に殺されてしまったわ】

「やっぱり」

【だけどその魂は幾つかに分かれてしまったけどまだこの世界に存在しているの】

「それは本当ですか、御母様!?」


アリアンロッドは星樹からの予想外の言葉に涙を引っ込めて空を仰ぎ見た。その眼差しには強い期待。あるいは希望が宿っていた。


【ええ、本当です。ある方が私達の代わりに手を打ってくれておりました】

「『『ある方?』』」


アリアンロッドとデュスリュティムは星樹の言葉に首を傾げた。

アリアンロッドは単純に母がいうある方に心当たりがなかった。母はこの世界のあまねく種族を生み出した存在。その母より上は父である御父様しかいない。しかし母は御父様のことをあの方と呼ぶ。ある方とは呼ばない。その為そのある方が誰なのか不思議に思った。

デュスリュティムの方は第三者。あるいは第四者以上の存在が誰なのかと思った。

当事者が第一なら星樹とあの方は第一者だ。その敵。アリアンロッドを封じ勇者を殺した相手。これが第二者。そして第三勢力か枠外の個人。これが普通なら第三者。この世界なら召喚された連中か迷い込んで来てしまった連中が第三者だろう。

自分の立ち位置は今のところ第一者側の第三者。そのはずだが、あの方や星樹を正気に戻したり今回の件を提案したりもしているらしい。

記憶がないせいでいまひとつ自分の立ち位置がわからない。

これはまあ、あの方とやらからの記憶復旧を待つとして、ここにきてさらに誰かの介入がある。あった事実が出てきた。それとも記憶が無くなる前の俺がやったというオチか?

だけどその時点で勇者に介入しているのならなんで第一者の二人を千年も放置していた?そうなるとやっぱりある方は俺じゃない?


『そのある方っていうのは誰なんだ?』

【ある方はある方です。ある方については私達もその全容を把握していません】

『『「把握していない?」』』

【虫に人が理解出来ないように、異世界のものが他の異世界のものを理解出来ないように、私達もある方のことは理解出来ないのです】

『それはつまり、そのある方はお前達よりもはるかに格上?ということなのか?』

【いえ、格上なんて言葉では比べられません。文字通り次元が違います。ある方のことを多少でも理解している存在がいるとすれば、それはあなたか勇者だけですね】

()か』「彼が、ですか?」

【ええ。そもそも勇者の魂を私達に紹介してくださったのがそのある方だったのです】

『『「魂を紹介?」』』

【はい。この世界の勇者とはあの方の地上代行者。あの方の加護を受けて世界を護る者。ですがあの方の御力を生半可な者では受け止め切れません。私達ではそれをなしえる存在を産み出せず、困っていた時に話しを持ちかけられたのです。彼を勇者として使わないか?、っと】

『なんでまたそんな話を?』

持ちかけたんだとデュスリュティムは思った。


【なんでも勇者が冒険が好きらしく、ある方はいろんな冒険の舞台を用意してまわっているとのことでした。実際、勇者はあちこち冒険してまわるのをたいそう楽しんでいましたし】

「確かに彼、いろんなことにチャレンジしたり、いろいろと見てまわるのが好きでしたね」


アリアンロッドは当時のことを思い出しながら、懐かしそうに目を細めた。


『勇者とある方とやらの事情はわかった』

『では我が知っているというのは?』

【それはあなたがある方の側だからです。別の世界では賢者などの立場で勇者と冒険をしていたそうですよ】

『ああ、そういうことか』


なるほど。それであの言葉の羅列の意味が繋がった。

あいつイコール勇者。多少は記憶が戻っていたがこれで事実として確定したわけだ。

デュスリュティムはそう思った。


『ちなみにそれならなんで今まである方は勇者やお前達のことを放置してたんだ?お前達とは次元の違う力を持っているのなら、いくらでもどうにか出来たんじゃないのか?』

【それはまあ、出来たでしょうね。ある方にしてもすぐに報復したかったはずです。なにせせっかく派遣した勇者があんなことになってしまったんですから】

『じゃあ、なぜ?』

【勇者があの子達のやり直しの機会を望んだからです。ある方にとってはそれ以上でもそれ以外でもありません。ある方にとって、勇者以外のこの世界のものは全て無価値ですから】

『やり直し?』

【はい。勇者はあの子達と私達の和解を望んだそうです。両者の不和の原因が自分なのだから、どうかチャンスを与えて欲しいと】

『勇者が不和の原因?』

「・・・」


デュスリュティムは星樹の言葉を見た後アリアンロッドに視線を向けたが、アリアンロッドは目を伏せ黙して語らなかった。

どうやら肯定も否定も出来ない微妙なラインの話しらしい。


【ですがある方にとってそんなことは勇者の願いとしての価値しかありませんでした。だからある方は期限を設けました。それが千年です】

『あー、だから今頃動き出したと?』

【そうです。私達を叩き起こし、あなたを派遣されました】

『それで?』

【それでとは?】

『いや、ある方は千年も待ってたんだろう?なのに俺を派遣しただけで終わりなのか?』

『もっといろいろとやりたいことがあるのが普通じゃないのか?』

【そうですね。そうですよね。そうでしょうね。だからこそ恐ろしい】

『『恐ろしい?』』「御母様?」


星樹の言葉からありありとした恐怖の感情がデュスリュティム達に伝わってきた。


【あなたから学んだ知識にこうありました。普段怒らない者が怒ると何をされるかわからず恐いと】

『ああ、まあ、後半はともかく前半は確かにそう言われるな』

【私達が知っているのは先程言った分だけです。ですが、あなたの言うとおりある方がそれ以外の何かをしていなんて保証はありません。むしろ、私達に気付かれずに何かするなんて朝飯前です】

『まあ、格上どころか次元が違うらしいからな。三次元から二次元の本の中身を書き換えるようなことも出来そうだよな』

【そのとおりです。さらに悪いことに、ある方にとってはその程度の手間暇で、その程度の意味合いで出来てしまいます】

『『「???」』』


その程度の手間暇で?その程度の意味合い?


『どういう意味だ?』

【そのままの意味です。普通、人が怒っても理性や倫理観。他の人や法がある程度はその行動を抑制してくれます。ですがそれが自分の持っている本の内容を書き換える行為だったら?ちょっとページを曲げたり、破ったりする程度の意味しかなかったら?あなたはそれを咎めますか?】

『・・・咎めない。自分のものならいざ知らず、他人の本をどうしようが持ち主の勝手だ』

【ええ、そうです。それは持ち主の勝手です。ですがそれがある方にとっての私達なのです】

『『うっわー…』』


デュスリュティムは星樹達の現在の立場を思い、そんなことしか

言えなかった。


【唯一ある方を諌めてくれそうな勇者はご存知のとおりです。私達としてはなんとしても勇者を復活させねばなりません。それが私達の贖罪でもありますが、勇者が護ってくれていたこの世界を唯一存続させられる方法なのです】


星樹の言葉は重く周囲にのし掛かった。



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