※砂礫と吹雪 止む
「ライハルト」
「・なんだ?」
「あいつは私が引き受けるわ。あんたは後ろの連中を守りながら支援をお願い」
「・・わかった」
エミリアの提案にライハルトが頷くと、二人の勇者はふらつきながらも戦闘体勢に移行した。
「いくわ!《時よ…》」「喰らえ!」
そして同時に動く。
エミリアは杖を構えながら何かを口ずさみ、ライハルトは雷をモンストゥルに向かって放った。
『無駄だ。むっ?』
モンストゥルは自分に向かって昇ってきた雷を片手で弾き、エミリアに攻撃しようとして停止した。
なぜなら攻撃しようとした目標であるエミリアの姿が穴の底。ライハルトの前から消えていたからだ。
『そこか!』
モンストゥルは少し上を向いた後で急に背後を振り向き、そこを見ながら自身のキノコの一つを握り潰した。
「くっ!?」
すると突然大地が隆起し、ちょうどその隆起した場所にエミリアの姿が現れて空中に吹き飛ばされた。
『死ね!』
「舐めるな!」
モンストゥルがさらにキノコを握り潰すと、地面から無数の石の杭が空中のエミリアに向かって放たれた。
エミリアは空中でぐるりと回転すると、自分に向かってくるその石の杭目掛けて氷の塊を生成して向かわせた。
ガリガリガリガリ
石の杭は氷塊に次々命中し、氷を削りながらエミリアに向かい続けた。
しかしエミリアは氷塊が石の杭を防いでいる間に氷塊を足場に跳躍。次々と新しい氷塊を生成して空中を踊るように移動した。
「喰らいなさい!!」
そして移動するごとにつらら状の氷をモンストゥル目掛けて落としていった。
『愚か』
モンストゥルがまた一つキノコを握り潰すと、今度は地面から巨大な石のキノコが出現し、傘の部分からエミリアの視界を埋め尽くす程の砂礫を大量に放出した。
それによりエミリアとライハルトの視界は潰されてしまった。
「くっ!?ならそれも凍らせてあげるわ!」
地面にいるはずのモンストゥルの姿を見失ったエミリアは、今度は氷ではなく白い冷気を生成。それを眼下の砂礫に向かって放射した。
その結果砂礫は凍りつき、自重でだんだん地面に落ちていった。
「いない!?」
それにより視界はクリアになったが、エミリアは下にいたモンストゥルを見つけることが出来なかった。
『落ちろ』「!? きゃあー!!」
エミリアがモンストゥルが何処に行ったのか捜していると、空中にいる自分の背後から無機質な声がした。
エミリアは咄嗟に杖を構えて振り返り、拳を構えていたモンストゥルに杖のガードごと地面に向かって叩き落とされた。
「くふっ!」
『潰れろ』
そして今度はモンストゥルの方が空中から無数の石柱をエミリア目掛けて落とした。
「させるか!」
地面に叩きつけられて避けられなかったエミリアを守る為に、ライハルトが穴から雷を放つ。
雷は石柱を瞬時に溶かし、そのまま蒸発させた。
「《時よ…》」
そしてその隙にまたエミリアは何かを口ずさみその姿を消した。
『そこか』
それを見たモンストゥルはまた上を少し見た後、あらぬ方向を見て石の杭を放った。
「きゃっ!何であんたさっきから私の移動先がわかるのよ!?」
その石の杭に出現したエミリアは自分に向かってくる石の杭を見て慌てて回避行動をとった。
しかし不意をつかれたせいでいくつかはエミリアの身体を掠めていった。
『答えず』
「エミリア!もう一度だ!今度は連続で跳べ!」
「ライハルト?・・わかったわ!《時よ…》」
モンストゥルはエミリアの疑問に答えようとしなかったが、別の方向。穴にいるライハルトからエミリアに指示がとんだ。
その指示を少しいぶかしんだが、エミリアはすぐにその指示に従って三度その姿を消した。
『無駄なことを…。そこ!』
モンストゥルはそれを呆れた様子で見送り、こちらも三度目の上を向いた後にある場所に狙いを定め石の杭を放った。
「くっ!?《時よ…》」
今度も狙われる可能性を考慮していたエミリアは、向かってくる石の杭を見てすぐにまたその姿を消した。
その結果石の杭はエミリアが出現した場所をただ通過するだけで終わった。
「・・・来ない?」
そしてエミリアはまた別の場所に現れた。
しかしエミリアは杖を構えていたのに攻撃がこなくて疑問に思った。
エミリアが上を向くと、自分がいる方向とはまったく違う方向を向いているモンストゥルの姿があった。
「チャンス!」
理由がわからないがモンストゥルが自分を見失っていると理解したエミリアはこれを好機と捉えた。
「神器よ!その力を私に!《凍てつく風よ 吹き抜けよ! 冷たき風よ 渦を巻け! あまねく全てを白く染め上げろ!〔ブリザード〕!》」
エミリアは一気に決める為に、今まで使っていなかった詠唱からの大規模魔法を発動させた。
エミリアの杖の宝玉を起点に、可視化出来そうな程強烈な冷気が渦を巻く。
そしてそれは凄まじい勢いでエミリアの頭上で拡大し、モンストゥルを有効範囲に捕らえて一気に魔の森上空に拡散した。
すると晴れ渡っていた青い空は白い吹雪によって真っ白に染め上げられた。
『!?』
またモンストゥルも空と共に白く塗り潰され、その姿をエミリア達の前から消した。
ゴンッ!
「やったわ…」
しばらくの間吹雪は止まず、吹雪が自然とおさまる頃に空から一つの氷塊がエミリアの目の前に落ちてきた。
その中は透明度の関係で見辛かったが、たしかにモンストゥルの姿があった。
エミリアはモンストゥルを凍らせられたことで気が弛み、その場で膝をついた。
「なんだったのよこの化け物。時の神術を使ってもギリギリなんて、普通はありえないわよ…」
「・・・ライハルト達と合流しないと」
エミリアはモンストゥルが完全に動けないことを確認し、ライハルト達と合流する為に穴の方に向かった。
「エミリア大丈夫か!?」
「なんとかね。それはそうとライハルト、あの連続で跳べって指示は何だったの?」
「ああ、あれかい?あれは連続ならモンストゥルの攻撃をかわせると思ったんだ」
「理由は?」
「跳んでいたエミリアにはわからなかっただろうけど、あのモンストゥルは君が消えた後に必ず上を向いていたんだ。それにどんな意味があるのかはわからなかったけど、その後すぐに君の出現地点に攻撃を仕掛けていた。つまりはモンストゥルには攻撃までのタイムラグが必ずあったんだ。だから連続で跳べば高確率で避けられると思ったんだよ」
「なるほど、ね。あいつ、巫女様みたいな未来視か下位の未来予知でも持ってたのかしら?」
「さぁ?それは何とも…」
「・・・そうね。あんたの仲間達は動けそう?」
「残念ながら…」
「そう。まあ、勇者である私達の耐性さえ貫いているんだものね。良いわ、私が戻してあげる」
「えっ!?良いのか!?」
エミリアの提案にライハルトはことさら驚いてみせた。
「仕方ないでしょ、シスターのソアラが動けないとあんた達に回復要員いないんだし。それに私の方も手伝ってもらわないと困るのよ。これからまだ奥に進まないといけないのに、私一人じゃあんなのが他にいたら詰んじゃうもの」
「・・・やっぱり君も進むつもりなんだな」
「ええ。それはあなたもでしょ?ここまで来たら本当の異変の切れ端ぐらい知っておかないと帰れないわよ。あらためて来ようなんて思っても、その時にはさらに悪化した状況の未来しか想像出来ないし」
「そうだな」
エミリアの言葉にライハルトは頷いた。
ライハルトも放置して良化する未来なんて想像出来なかったからだ。
これは声を出さなかった勇者パーティーの面々をしても同じ気持ちだった。
「じゃあ始めるわ」
エミリアは杖を掲げると、時間はないとばかりに自分やライハルトパーティーの回復を開始した。
排除失敗 増援配置
排除せよ 排除せよ
た す け て
どうか彼女を助けてやってくれ■■■■■
わかった 友よ




