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進化 向かい来る者

それじゃあ早速進化してみるか!

【そうですね。現在進行形で交戦している敵。交戦する予定のある敵がいない今の時期がチャンスです】

そうだな。それで、どうやれば進化出来るんだ?

【普通は経験値が貯まったタイミングで勝手に進化が始まります。ですがあなたの場合は戦闘中などに起こって隙を作らない為に任意発動にしてあります。なのであなたがやろうと思えば自然と進化が始まります】

そうか。


やろうと思えば勝手に始まるのか。こうかな?


【ダンジョンスネークの進化を開始します】

【繭の形成を開始します】


俺が進化を始めたいと思うと、早速ゲーム的なメッセージが視界に出始めた。

そして繭の形成がどうのと出た直後、俺の周囲を幾つもの光の糸が取り巻き出した。それは少しずつ数を増やしていき、あっという間に俺の視界を遮った。


???・なん・だ・Zzz


これからどうなるのだろうと思っていると、強烈な眠気が襲いかかってきた。

俺はそれに抵抗出来ず、即座に眠りに落ちた。Zzz。




【ダンジョンスネークの魂と肉体の分離を確認】

【肉体の分解及び再構築を開始】 

【再構築完了までおよそ七十二時間を予定】


【無事に進化が始まりましたね】

「そのようですキャメ。母上。我輩達はいかがいたしますキャメ?」

【そうですね。・・・大気を抱える泡亀(バルストラ)、あなたは繭を持って泉のダンジョンに移動しなさい。そして戻った後は、彼の護衛に勤めなさい】

「わかりましたキャメ」


亀型モンストゥル。バルストラは空に向かって頷くと、ダンジョンスネークの入った光の繭を抱き上げた。そして泉のダンジョン目指して歩き出した。


蔓延する茸菌(インファス)。あなたはここと反対側。魔の森の制圧にかかりなさい。彼が起きるまで敵の接近を許してはなりません】

「・・・」こくり。


キノコ菌型モンストゥル。インファスも空に向かって頷き、魔の森に向かって歩き出した。 


偏在する端枝(スェイルム)。あなたにはこの村のダンジョンを拠点にしてガーリー王国への浸透を命じます。同胞を量産しつつ、彼が目覚めるまでこの村の異変をガーリー王国の人間達に悟らせてはなりません】

「・・・」プルン。


スライム集積型モンストゥル。スェイルムも空に向かって頷き、ダンジョンコアを落とした穴のそばに陣取った。そして穴のそばに出来ていた土山を掴むと、それを吸収してスライム達を身体の中から吐き出しだした。

スェイルムの身体から分裂したスライム達は、順次魔の森とは反対側に進んでそのまま村から離れていった。


【モンストゥル達への指示はこんなものでしょうか?私の方もダンジョン周囲の監視を行わなくては。それとあの方の支援も…。モンストゥル作成の為のエネルギーも遣り繰りせねばなりませんね】


スェイルムが最後にそう聞いた後メッセージは途切れた。




    魔の森北西部 ストーリア聖国 大神殿


コツコツ


静謐な空気が流れる石造りの神殿の中、一つの足音が響く。

その足音の主は金髪碧眼の、年の頃二十代前半の鎧姿の青年であった。


「巫女様、勇者ライハルトお呼びにより参上しました」


その青年。勇者ライハルトは神殿の奥にたどり着くと、そこにある大きな扉の前で声をあげた。


「どうぞお入りください」


すると扉の向こう側から落ち着いた女性の声が返ってきた。


「失礼いたします」

「よく来てくれました、勇者よ」


勇者ライハルトが扉をくぐった先には、祭壇のある高い天井の部屋が広がっていた。

そしてその祭壇の前には一人の女性。初老に差し掛かるくらいの落ち着いた印象の老女。この神殿の巫女の姿があった。


「至急とのことでしたが、いかがなさったのですか巫女様?」

「勇者である貴方を呼んだのはほかでもありません。貴方に魔の森の調査をしてもらいたいのです」

「魔の森ですか?巫女様の千里眼に何か引っ掛かったのですか?」

「・・・いいえ」


勇者ライハルトからの問いに、巫女は難しい顔をしながらそれを否定した。


「それではなぜ?」

「何も引っ掛からないのが問題なのです」

「何も引っ掛からない?」

「そうです。貴方も知るとおり私は日夜千里眼にて国内や国周辺の異変を警戒しています」

「存じ上げています。そのおかげで私達の聖国は犯罪も少なく平和なのですから」

「ですがそれに翳りが見えたのです」

「翳り?ですか?」

「ええ。いつものように千里眼を使用していたのですが、魔の森南東部の一部の景色が千里眼に写らなくなってしまったのです」

「・・魔の森南東部というと、ガーリー王国の方面ですね。そちらで何かあったのでしょうか?」


勇者ライハルトは少し考えてそう口にした。


「それはわかりません。ですが我らが神の御力の一端である千里眼で見えないものがあるのは異常です」

「我らが神の御力を受け付けないもの…。それは確かに由々しき事態ですね」

「我らが神の方にお伺いをしてもみましたが、我らの神でも南東部の様子は知れないそうです」

「なんと!?神ご自身でも知れぬなど!」


勇者ライハルトは巫女の言葉であるが到底信じられず声をあげた。


「可能性としては他国の神。人による何かしらの禁術。異世界から来た何者かの未知の力。後は…」

「後は?」

「いえ、これはまだ我らが神も確証が持てないようなので今はいいでしょう。ともかく魔の森で起きている異変の原因を知る必要があります。勇者ライハルト、ゆえに貴方に魔の森南東部の調査を命じます。なんとしても異変の原因を突き止め、可能であればそれを排除してください」

「受け賜りました巫女様」


勇者ライハルトは巫女に礼をすると、早速魔の森に向かおうと踵を返した。


「お待ちなさい勇者ライハルト」


だがそんな勇者を巫女が呼び止めた。


「どうなされました?」

「こちらを持ってお行きなさい」


巫女は勇者に歩み寄ると、二つの拳大の玉を勇者に差し出した。


「これは?」

「一つは我らが神の神力を宿した《転移の神玉》。もう一つは魔法使いの皆さんに力を籠めていただいた《転送の魔法玉》です。今の魔の森ではどちらか使えない可能性がある為二つ用意しました。もしもの時は迷わず使用しなさい」

「ありがとうございます」

「ですがそれでも駄目そうなら早めにお逃げなさい。聖国としては異変の情報が僅かでも手に入れば良いのです。命をかける必要まではありません」

「わかりました。必ず情報を得て帰って参ります」


勇者ライハルトは再び巫女に礼をすると、今度こそ神殿を後にした。


「我らが神よ。どうか勇者ライハルトに御加護を」


それを見送った後、巫女は神に祈りを捧げながら千里眼による警戒に戻った。





          神の介入を確認

     干渉を決定       我らが友の為に


そんな勇者と巫女のやり取りを視ていたものの存在に終ぞ二人は気がつかなかった。



 


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