人類、スライムに気をつけろ
俺は誰だ?
プニプニ
俺は何だ?
グニクニ
俺はいったい何者何だ?
ツンツン
「シャー!!シャシャー!?シャ?」
煩わしい!人が考えごとをしている時につつくな!?うん?
俺が自分は何なのか考え込んでいると、左右から何か弾力がある物に触られている感覚がした。最初は気のせいだろうと無視していたが、途中で指で頭をつつかれる感触がしたのでさすがに煩わしくなって俺は声を上げた。
しかし俺はすぐに違和感を覚えた。
何故なら、そこは今までいた水の中ではなかったからだ。
青い空に白い雲。鬱蒼と茂る木々に草花。そしてその合間に見える魔物達の姿。
俺が今いる場所。肉眼で見ている光景は、先程ダンジョンでミニチュアバブルタートル達の目を通して見ていた外の。ダンジョンの外の景色そのままだった。
うおっ!?
そのことに気づいた俺は慌てて周囲に頭を巡らせた。
そしてすぐに自分の状況。自分が誰かに抱えられながら移動していることを理解した。
問題は、その自分を抱えている相手。それが異形の化け物だったことだ。
その異形は一言で言うならキノコの化け物。森で見かけたようなしいたけが巨大化したような歩くキノコではなく、無数のキノコが絡み合って人型をしている感じの奴がいた。知っている向こうのモンスターだと、マタンゴではなくファンガースというキノコの化け物に酷似している気がした。
プニプニ
うん?うおっ!?こっちにもいた!!
俺がファンガース?を見ていると、後ろから弾力のある何かに触られた。なので振り向いて見ると、そこにはファンガース?とはまた違った異形の化け物。青いプルプルとした身体をしたのっぺりな頭とバランスボールみたいな丸い下半身をしたたぶんスライムの親戚みたいな奴がいた。
【ああ、気づかれましたか?】
ああ。
俺が異形に挟まれて驚いていると、普通にメッセージがきた。
メッセージの内容からして少なくともメッセージの主にとっては今は焦るような事態ではないらしい。
今ってどんな状況だ?
【あなたが途中でフリーズしてしまったので、とりあえずあなたの希望に沿ったモンストゥルを二体製造。そのままその二体を護衛にして現在村へ向かって移動中です】
そうか。
どうやら俺が自問自答している間に現実は進んでいたらしい。
一応確認しておくが、この二体はキノコとスライムのモンストゥルなのか?
【はい。ミニチュアバブルタートルを苗床にしていた菌から生み出したキノコ菌型モンストゥルと限界突破スライムを素材にしたスライム集積型モンストゥルです】
キノコ菌型とスライム集積型?
単純にキノコ型とスライム型のモンストゥルだと思っていたが、実際のところは少し違うらしい。
【はい。歩くキノコそのものは捕獲出来ていませんので、ミニチュアバブルタートルから採取したキノコ菌そのものをモンストゥルにしました。スライムの方は単一のスライムではなく、複数の個体を一体のモンストゥルにしています】
キノコ菌型の方はわかったが、スライム集積型の方はなんでそんな風にしたんだ?
【こちらも実験です。複数の素材からどういったモンストゥルになるのかという。性能については道すがらお見せしましょう】
そうか。
とりあえず新たなモンストゥルの性能については実際に見てから判断することにした。
それからモンストゥル達の行動を抱えられながら見ていたわけだが、なんというか亀の奴よりも怪人らしい怪人達だった。
基本的に森にいる魔物達は俺達に襲いかかってくることはなかった。どうやら魔物達にもモンストゥル達のヤバ気な雰囲気は理解出来るらしい。
そんな野生の勘が働く魔物達の中にも当然鈍い。あるいは無謀な奴らは存在する。
それが今回は赤黒いイノシシであり、普通よりも二倍くらい大きな鷹の魔物達であった。
イノシシの方は単純な猪突猛進。いろいろなものに突進をしかけるアクティブタイプ。あるいは森の暴れものといった感じの奴らだった。
イノシシ達の相手はスライム型の奴が担当したが、はっきり言ってまったく相手になっていなかった。
スライム型はスライムらしく軟体で、突進して来るイノシシを簡単に避けていった。避け方は地面を滑るように移動したり、跳ねて飛び越えたり、下半身を蜘蛛のような多節脚にして足元を潜らせたりしていた。
そして避けた後は当然反撃することになるわけだが、イノシシ達はハンマー状にした腕に吹き飛ばされたり、上から強襲されてぺちゃんこにされたり、頭上から杭やハサミの形に変化させた下半身によって始末されていった。
そして倒された後は喰われてスライムにされてしまった。
自分でも最初は理解出来なかったが、スライム型がイノシシを倒す。倒したイノシシの身体を取り込む。するとスライム型の身体から取り込んだイノシシと同じ体積くらいのスライム達がポロポロ出てくる。
最初はどういう仕組みなのかわからなかったが、メッセージで説明されて理由は理解した。
この世界のスライムは何処にでもいるモンスターであり、食物連鎖の最下層を支える存在らしい。水や土、光や大気。自然のエネルギーや物質を吸収し分裂。その身を使って植物やそれに近い。生物が生存する為に必要なものの糧になることで生物を存在させる縁の下の力持ち。スライム無くしてこの世界に生物は存在出来ない程の重要な存在らしい。また、死骸の類いを処理して病の発生を抑制しつつ増殖もするそうだ。
今回はこの特性がモンストゥルになったことで大幅に強化されたそうだ。つまり、取り込んだ死骸をそのままエネルギーに変換して増殖する。その結果がポロポロ出てきたスライム達だ。ちなみに増殖せずに密度の向上や質量を増加させることも出来るらしいが、今は戦力の増加を優先しているそうだ。
だが結果的にあらえるものをスライムに出来る能力。敵に回すと物量的、継戦的に恐ろしい。倒しても倒しても無限に涌いて出てくるスライムの相手なんて俺だったら絶対にしたくない。体力的にも精神的にも途中で折れる。そして折れたらスライム達の仲間入り。そんな最期は絶対に嫌だ。
なんと言うか、これからスライムにされるだろう人間達にわりとガチで同情したくなった。




