俺は、何だ?
善は急げと言うが、また駒のダンジョンスネークにダンジョンコアを生成させれば良いのか?
【いえ、それは無理です】
無理?何でだ?
【村はダンジョンの範囲外ですので、駒のダンジョンスネークを維持するエーテリアルはあなた持ちです。あなたが転生する時に持ち込んだエーテリアルはこのダンジョン作成時に全て使い切ってしまっていますので、とてもではありませんがあの村まで駒を維持出来ません】
じゃあ、どうするんだ?
【本当は避けたいですが、お手数ですがあなたに直接行ってもらえませんか?】
うん?持ち込んだエーテリアルはこのダンジョン作成時に全て使い切ったんだよな?俺が村に行ってもダンジョンは作れないんじゃないのか?
【いえ、ダンジョンコアさえ生成してもらえればあとは時間をかければダンジョンは出来ます。モンストゥルにお守りをさせればダンジョンに成長する為の時間は十分稼げます】
そうか。わかった。それなら行ってみよう。
【ありがとうございます】
やっぱりダンジョンに籠りきりは窮屈な感じがするからな。出かけられる機会は大事にしておかないと。
俺はそう思った後、水面に向かおうと身体をくねらせた。
【あっ、ちょっと待ってください】
うん?どうした?
【あなたを単身で行かせたりはしません。モンストゥルの実験は成功しましたし、亀以外の素材もあなたが集めてくれました。あなたの護衛用の新たなモンストゥルをこれから作成します。それを一緒に連れて行ってください】
わかった。
まあ、俺もあんないろいろと魔物がいる中を一人で移動するのは怖いからな。
俺はバブルタートルから見た光景を思い返し、新たなモンストゥルを待つことにした。
それで、どんなモンストゥルを生み出すんだ?
【候補としては蜘蛛型か蝶型。蟻型を考えています】
それはやめろ!!
メッセージからモンストゥルの候補を聞いた俺は、慌ててそれを止めた。
【?何故止めるのです。この三種はあなたの知識からすると怪人の定番でしょう?何か問題があるのですか?】
問題は大有りだ!
【?隠密に長けるだろう蜘蛛型に、空を飛べる蝶型。群れで戦う蟻型。どれもタイプが違いますが、何故三種とも駄目なのです?】
どれも虫だからだ!
【虫?あなたは虫が駄目なのですか?】
いや、普通サイズのは良いんだ。普通サイズなら。足元とかぴょんぴょんしてても大丈夫だ。だけど人間サイズの虫人間は無理だ!爬虫類とか哺乳類は問題なくてもその大きさの虫は生理的に無理!画面越しなら許容は出来るが、護衛なんて肉眼で見える位置に置くのは絶対に嫌だ!作るのだとしてもここじゃない他所の拠点で製造・運用してくれ!!それか昭和風のリアル路線じゃなくて、平成風のモチーフがわかるかな?ぐらいの見た目の怪人にしてくれ!!
【ううん、ずいぶんな嫌いようですね。ですがまあ、わかりました。この三種は向こうの村で運用することにします】
・・・そうか。
良かった!グロテスクなのを見る危険は回避出来た!
【ですが虫の類いを除外すると、あとはあの方の僕であるスライムや私の断片である植物や菌型のモンストゥルになりますね。今回は二体ぐらいにしておきましょうか】
?スライムはあの方とやらのしもべで、植物系はお前の断片なのか?
メッセージの言うあの方とやらは神みたいな素性なのかと思っていたが、スライムの主となると違うのか?
というか、メッセージの主の方も植物や菌の本体?
この二者って、この世界ではどんな立ち位置何だ?
【そうです。まあ、もう少し正確に言うと違うのですが、だいたいのニュアンス的なものは同じなので気にしないでください】
ああ。・・・あー、お前達の立ち位置について聞いてもかまわないか?
【私達の立ち位置ですか?別にかまいませんが、あなたはもう知っているので記憶が繋がるのを待てば良いと思いますよ】
俺ってそのこともちゃんと聞いているのか?
【ええ。私達が協力してもらっている側なのです。説明の義務は果たします。というよりも、あの方も私もあなたの提案で今回のことを始めましたから】
うん?もともとあった計画に俺が乗ったんじゃないのか?
文庫本なんかのパターンだと、転生って基本的に巻き込まれ型しかなかったはずだが…?
【違いますよ。お恥ずかしい話、私もあの方もかつてこの世界で勇者に起きたことが原因でずっと塞ぎ込んでいたんです。復讐も報復もリカバーも何もせず、ただただぼうっとしていました】
どれくらいぼうっとしてたんだ?
【私達の時間感覚ですとつかの間ですが、この世界だと千年程時間が経過しています】
千年!?
千年もぼうっとしていてつかの間って、どんな時間感覚だ?
【あなたと出会わなければ億年くらいはぼうっとしていたでしょう。その意味でもあなたには感謝しています。おかげさまでまだリカバーが。勇者を助けられるラインであの方も私も正気に戻れましたから】
・・・そう、か。
億年って…。千年がつかの間だとすると、億年は三十分だか一時間くらいぼうっとしていたくらいの感覚なのか?
【かつてのあの方も私も創造し、見守り、与えるばかりでした。だからどうしようもなく感情というものに疎く、そのせいでもっとも愛した勇者を失ってしまった。そして殺された勇者の為に何を出来るのか思いつきもしなかった。何故なら私達は奪うことも、考えることも、取り繕うこともしたことがなかったからです。ですがそんな私達にあなたは道を示してくれた。感情を教えてくれた。歴史を教えてくれた。想像することを教えてくれた。考えることを教えてくれました。だから私達は今の私達に成れた。あなたには恩がある。例えあなたが私達を利用しているだけなのだとしても、私達はあなたから受けた恩に報います。どうかあなたはあなたの望みを叶えてください。それが私達に出来る恩返しなのですから】
俺の望み…。
俺って何だ?神様っぽい奴らにこんな風に言われる俺は…?
俺は誰だ?自分の名前も過去も思い出せない。
覚えているのは一般的な知識や文庫本やアニメ、特撮なんかの物語のこと。
転生する前の出来事で記憶が連続していないと聞いた。
記憶と知識は別なのか?
ぼうっとしていたあの方とメッセージの主に俺は会った。
どうやって会った?
俺はこの世界の住人?いいや、魔物やモンスターがいることを俺は非日常だと感じているから違うはず。
ならどうやって異なる世界の二人と俺は会った?
今の状況。記憶のことは省くとして、このダンジョンなどは俺が提案した?
何故俺はそんなことを提案した?
俺がいたのとは違う世界のことなのに?
俺があの方達を利用している?
何のために?
俺の望み?
俺は異世界で何を叶えようとしたんだ?
わからない。わからない。繋がりが見出だせない。
メッセージが嘘を言っていないと感じるだけによけいに俺のことがわからない。
・・・俺は、いったい何者何だ?