次に備えて
・・・何というか、あっさり終わったな、
【そうでしょう。こっちの世界の村なんて数世帯。多くても十数世帯しか人は住んでいません。一般的に村在住の戦力もそれに比例して数人程度。モンストゥルを送り込めばそうそうに片付きます。なにせ戦う相手も倒す相手もほとんどいませんから】
みたいだな。
向こうだと村と言えば過疎地を思い浮かべる。そう考えると件の開拓村の方が人はいたが、魔物のいる世界だとその程度の人数差は意味がないみたいだ。
まあ、人がいないだけの村と魔物がいる危険な世界の村とを比べる方が間違っているか。
それにしても、あの泡は何なんだ?モンストゥルになってまた能力が増えたのか?
あんな人を消滅させるようなスキル、バブルタートルの時には持っていなかったよな。
【能力ですか?いいえ、身体を人型にした以外のステータスは限界突破させたバブルタートルと同じですよ】
うん?だったら何で村人達はあんな消え方をしたんだ?
血の気が無くなって、白くなりながら赤い光になって消滅していったよな?
【ああ、あれですか。あれはバブルタートルの洗浄の効果です】
洗浄?あれって汚れを物理的に洗い浄めるって効果じゃなかったか?
【そうですよ】
ならどうしてそれがああなるんだ?
俺の知っている洗浄の内容は洗濯物などの汚れを落とすことなどだ。
この世界だと洗浄の意味自体が違うのか?
【いえ、本当に効果の説明通りですよ。泡が触れたものに付着している血を洗い浄めた結果、人間達は失血死しました。そして人間達はモンストゥルに倒された結果ダンジョンに吸収されて消滅。とくにおかしなことはないはずですが?】
・・・血って、この世界だと汚れ扱いなのか?
【それはあなたの世界でも同じはずでは?血が服に付けば洗いますし、血を不浄と扱う文化もあるでしょう?】
血を不浄と扱う文化?・・・ああ、神道とかか!いや、たしかにそういう文化はあるけどさ、人の体内の血液まで不浄扱いって…。
それってつまり洗浄イコール血液破壊ってことになる。しかも外に出血したものではなく生物の体内のものも含むとなると、生物にとっては防御不能の即死攻撃だ。戦闘能力がなかったバブルタートルが材料の怪人なのに、なんでこんな殺意が高いやつになってるんだ?
【人類とはこの世界に存在してはならない汚れです。あの方がお戻りになる前に少しでも削っておかなければ】
そ、そうか。
やっぱり人類に対する殺意が高いよな。この世界の人類、いったい何をやったんだ?
そう言えばあのモンストゥルって喋れるのか?
【ええ、喋れますよ。だって中級の怪人は喋るものでしょう?】
まあ、たしかにそうだけど。ちなみに中級ってことは、下級とか上級も作るのか?
【そのつもりです。中級怪人をサポートする下級戦闘員は欲しいですし、自分で考えて動ける上級幹部もいると便利ですから】
そうか。ちなみに下級戦闘員はどんなやつにするんだ?
やたら個性的な口調をする中級怪人やインパクトの強い準レギュラーの上級幹部はおいておくとして、下級戦闘員はどんなやつにするんだろうか?
やっぱりろくに話せなくて中級怪人にこき使われるタイプか?それとも人間に化けたりして潜入やらなんやらこなすわりと頭の良いタイプか?それとも何種類かいるゴブリンみたいなタイプだろうか?
【そうですねぇ?やっぱりサポートをさせるなら特殊技能とか持っていると安心ですよね。あとは、ダンジョンを拡げる為の支援も出来るとなお良しです】
ふむ。そうなるとゴブリンタイプということか。
【ゴブリンタイプですか?】
文庫本のゴブリンみたいなタイプなんじゃないのか?こう、ソルジャーやらアーチャーやら装備違いみたいな奴ら。
【ああ、そう意味ですか。そうですね、そんな感じです】
すぐに思い至らなかったってことは、この世界のゴブリンはそういう感じじゃないのか?
オリジナルのゴブリンは西洋のイタズラ妖精なんかの分類なのに、ゲームの魔物キャラやら文庫本の亜人枠。頭が良いのから悪いのまでやたらバリエーションが多いからな。
この世界では聞いたのとは違う生態なのかもしれない。
【違いますね。この世界のゴブリンは亜人枠です。人よりも多産で短命。地頭自体はは悪くないですが、それを活用出来る社会を形成出来ていません。あとはナチュラルに人を襲う種族皆盗賊みたいな感じの奴らです】
一応聞いておくが、ゴブリンが亜人枠ならお前はどう思っているんだ?
ゴブリンが亜人枠。人類扱いしているなら答えはわかりきっているが、ちゃんと確認はしておかないとな。
【もちろん根絶やしにしたいです。あの方を裏切り落ちぶれたとはいえ、もっと苦しめてやらないと気がすみませんから】
そう、か…。
亜人枠のゴブリンも憎んでいる、か。この分だとエルフやドワーフなんかがこの世界にいても憎んでそうだな。
・・・そろそろ憎んでいる理由を聞いてみるべきか?
【さて、では計画を次の段階に進めましょうか】
そういえばモンストゥルにさっき何か指示を出していたよな。何を指示したんだ?
モンストゥルの奴、今も無人にした村の中央に陣取ってるんだよな。何をさせるつもりなんだろうか?
【あの場所を占拠するように命じました。これからあの村をダンジョン化して拠点にし、他の村へ進行する為の中継地にします】
ダンジョンを拡げるのは初期目的ではあるが、いくらなんでもペースが早すぎないか?もうちょっとゆっくり地盤を固めないと危ないと思うぞ。
転生してまだ一日も経ってないのに、村一つ潰して他の村にも魔の手を伸ばそうとしている。明らかにペースが早い。こっちは多方面と戦える戦力なんて無いのに、なんでこんなに敵を増やすようなことを急いでいるんだ?
【たしかに慌ただしくはあると思いますが、これは急ぐ必要があるのです】
急ぐ必要?
【はい。城には城壁。街には防壁。村にだって防護柵くらいはあるものです。ならばこちらもそのような物を用意しておくのが定石。しかし泉にそんな物を作ったら怪しさ満点です。ならばあってもおかしくない場所に設置すれば良い。そしてそれはこの泉から一番近い場所になければ意味がない。ですので大急ぎであの場所をダンジョンとし、これから起きることの起点。騒動の中心を向こうに設定してしまいたいのです】
ああ、なるほど。時々文庫本とかである偽魔王城とかみたいなやつか。本物の魔王城の前に城と偽魔王を設置して、魔王が倒されたのを誤認させる時に使われたりする作戦だな。
【そうです。向こうのダンジョンが攻略されてもこちらは問題ありません。逆に攻略することで油断する相手の隙を突くことも出来ます】
ふむ。確かにそれなら設置は急いだ方が良いな。
メッセージの言うとおり、防壁の類いはこっちに攻撃が届かない位置にあるのが望ましい。そしてその防壁は早めに欲しい。いくらダンジョン影響下の環境を操れるとはいえ、どうしても操作する時間とかは必要だからな。その操作する為の時間を確保する為の手段確保は重要だ。確かに急ぐ必要があるわけだ。




