沼男
いつものように仕事を終えて帰ろうとしたところで来客に気付いた。その客は折り畳んだ傘を立て掛ける場所がないか探して入口でまごついていた。私の視線に気づいたその人物は顔を上げて背筋を伸ばす。
「監査局職員のジン・イグニスです」
ジン・イグニスは女性と少女の中間くらいの年齢だった。身長は私より頭二つ分ほど低い。肩口で切り揃えられた茶色の髪は濡れて額に張り付いている。ローブの端に泥がついていた。揺れる電球と同じように小さな影が揺れていた。
「監査局?」
「はい。年に一度、公的機関がその機能を全うできているか抜き打ちで調査します」
「そんな話は聞いてないぞ」
「聞かせたら抜き打ちにならないでしょう――あなた以外の職員は帰ったのですか?」
イグニスは濁りのない碧眼で事務所を素早く見渡した。
「いや、不幸なことに先月起きた土砂崩れに巻き込まれて事故死してしまったんだ。悲しいことにね」
「そうですか。お悔やみ申し上げます。追加の職員は必要ですか?」
形だけの弔問を述べてイグニスは私に質問した。
「いや、私一人でも何とかなっているよ。元から私一人でやっていたようなものだからね」
「分かりました。追加の職員を要望ですね」
話を聞いていない。
「いや、本当に大丈夫だ。ここの仕事は人数のいるものじゃない。元から私一人でやっていたようなものだし――」
私が追加の職員が必要ないことを再三説明したが、イグニスは「追加の職員が必要なんですね。分かりました」としか答えない。どう説得したものか頭を抱えていると、入口が勢いよく開けられて雨と共に一人の男が入りこんできた。肩で息をしているところを見ると走ってきたようだ。
「どうかしたかね?」
「家内が、階段から転げ落ちて、手すりに、はあ、はぁ」
何か良くないことが起きたようだ。落ち着いてもらうために水を渡したところ、ひったくるようにして取って飲み干した。
「はぁ、ありがとうございます」
「そんなに走ってくるなんていったいどうされたのですか?」
私が男に質問するより先にイグニスが男に尋ねた。
「はい。聞いて下さい。家内が階段から転げ落ちて手すりに頭を打ってしまったのです。それからぴくりとも動かないのです」
男が泣き出しそうな表情で言葉を続ける。
「魔法使いさん、どうか助けて下さい!」
そう言って男は私とイグニスに頭を垂れた。
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一.原典の“ことば”を翻訳し、物質世界たるこの翻訳界に出力する。これを魔法と呼ぶ。そして、魔法を使える者を魔法使いと呼ぶ。
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「分かりました。それでは奥様のいる所に案内してください」
イグニスが落ち着いた声でそう言った。
「はい。私の家はこっちになります」
男がそう言って腰につけていた撥水障壁装置の螺子を巻いた。撥水障壁装置から音叉が共鳴するような高音が響く。それを不思議そうに見ていたイグニスが男に尋ねた。
「すいません、それは何ですか?」
「ああ、これは撥水障壁装置と言って雨を弾く障壁を作ってくれる装置なんです。魔法使いさんが作ってくれたんですよ?」
男は逆に不思議そうな顔をしていた。
「私が作った物だ。ついでに言うと、ここの住民はとてつもなく頭が悪い。だから魔法使いが全部同じ人間に見えている」
男が喋ってしまったので、私は仕方なくイグニスにそっと耳打ちをした。住民の頭が悪いのには理由があるが、今説明する必要はないだろう。イグニスは納得したように頷き、私の方へ振り返る。
「便利な物ですね。私にも一つくれませんか?」
「ああ。事故死した職員の物が余っているからそれをあげるよ」
やや図々しいイグニスの願いに応じて私は書類の山を掻き分けて撥水障壁装置を見つけ、調子を確認してからそれをイグニスに渡す。
「遺品とか呪われそうで嫌な感じです。ふうん、水を使って水を弾くわけですか――」
文句を言いながらも受け取ったイグニスは撥水障壁装置をしばらく手の中で転がした後、腰につけて螺子を回した。音叉が共鳴するような高音が再び響く。
「あのう、魔法使いさん?」
私とイグニスのやり取りを見ていた男が不安そうに尋ねる。
「すいません。お待たせしました。家に案内して下さい」
「はい、私の家はこっちになります」
私とイグニスは男に付いていって事務所を出た。
雷雨の中をしばらく歩いたところで現場に到着した。そこは三階建ての集合住宅だった。向かって左側に螺旋階段があり、そこに人が倒れていた。男の妻だ。調べてみると後頭部が深く陥没していた。顔は何度も殴られたかのように痣が浮いている。右手の肘が逆方向に曲がっていた。階段から落ちた衝撃で壊れたのだろう、腰にはひしゃげた撥水障壁装置がついていた。
「家内は三階のところから転げ落ちたんです。ど、どうですか? 家内は助かりそうですか?」
「螺旋階段の三階から?」
三階から一階まで転がり落ち続けたというのか。どんなこけかたをしたのだろう。
「残念ながら無理ですね」
私に続いて男の妻の体を調べていたイグニスが首を振る。
「そうですか……」
男は肩を落とす。
「パパ。ママは治るの?」
上からまだ大きな高い声がした。三階に男の子どもと思しきくせっ毛の少年がいた。泣いた跡がある。
「いや、魔法使いさんでも無理だそうだ」
男は苦い顔をして少年に答えた。
「そんな! 絶対治るって言ったじゃないか! パパの嘘つき!」
少年がそう言って階段に一歩踏み出した、と思ったら滑ってこけた。額が階段の角にぶつかって割れる。前転するように下の段へと転がり落ち、足を階段につけたが滑って再び転び落ちる。階段にぶつかるまいとして手を出すが、既に勢いの乗った少年の体重に耐えられず、変な方向に曲がる。顔から落ちていき、鼻が潰れた。やがて、前転して立ち上がるも滑る、という行為を繰り返した少年が私たちのいるところまで転げ落ちてきた。男の妻もこうして落ちたのか。
イグニスが少年の体に触る。すぐに苦い顔を浮かべた。
「ああ! 家内に続いて息子まで! 魔法使いさん、何とかなりませんか!」
「無理ですね」
男が涙ながらに訴えるもイグニスの答えは非情なものだった。
「そんな──うわああああああああああ」
「質問しても良いか?」
「あああ──ぐすっ、何ですか。魔法使いさん」
膝から崩れ落ちた泣き叫ぶ男に私は質問する。
「昨日あなたは外出しましたか?」
「えぇ、仕事のために出ましたが。それが何か?」
「ええ」
一日に二人も身内が事故で死ぬ。不運の一言で片づけるにはあまりにも不自然だ。私は拳銃を取り出して男に銃口を向ける。
「あなたはスワンプマンだ」
そして銃声が響いた。
──────────
二.翻訳界には魔法とは違う超常的な力を有する生きているものが存在し、それらを総称して魔獣、あるいは亜人と呼ぶ。
魔獣の例としては巨大かつ強大な龍、亜人の例としては獣の特性を持つ獣人が挙げられる。
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「どうして止めるのかね?」
イグニスが放った弾丸は私が引き金を引くより早く拳銃を弾き飛ばした。手がかすかに痺れている。
「目の前で人が殺されるのを黙って見ているほど無情ではないので。一体どういう理由があって住民を殺そうというのですか?」
「それはその男がスワンプマンだからだ」
「スワンプマン?」
イグニスが怪訝な顔をする。銃口は相変わらずこちらを向いていた。
「そう、スワンプマン。魔獣の一種だが聞いたことは──なさそうだな。ではスワンプマンの説明をしよう。
一.スワンプマンは雷に打たれて死んだ人間に成り代わる。
二.スワンプマンは細胞の一片に至るまで雷に打たれて死んだ人間と全く同一である。記憶も同様。
三.スワンプマンの周囲ではありえない確率で不幸な事故が起こり、誰かが死ぬ。
四.前述の不幸な事故はスワンプマンに成り代わられる前の人物と縁の深いものから順に起こる。
五.不幸な事故に対してスワンプマンとその周囲の人は不審に思うことはない。
六.不幸な事故はスワンプマンと距離を置くことで防げる。
以上がスワンプマンという魔獣の特徴だ」
「聞いたことがありませんね」
「だろうな。雷に打たれて死ぬ人間なんてそういない」
だが、雷雨の止まないこの地域では雷に打たれて死ぬ人間はたまにいるのだ。
「疑うなら事務所に資料がある。見てもらえばこの地域で昔からスワンプマンがいたことが分かるだろう」
「ふぅん──ま、良いでしょう。それを見せてもらいますか」
イグニスが拳銃を懐にしまった。肩をなで下ろした私は状況についていけない男が口を開けてぽかんとしていることに気付いた。
「ああ、すまない。後日葬儀の手配をするからまた事務所に来てくれ」
「あ? は、はい」
男がとりあえずといった形で頷く。男の妻と子どもの死体を腐らぬよう、魔法で処置したところで私とイグニスは事務所に戻った。何か忘れているような気がしたが、思い出せなかった。
「資料はこれだ」
事務所に戻った私は積み上げられた書類の一番下にあったファイルを取り出してイグニスに渡す。書類の山は崩れた。
受け取ったイグニスはページをすごい勢いで捲り続けてあっという間に読み終わった。
「随分と前から存在するみたいですね。退治する方法はないんですか? ここには書かれていませんでしたけど」
「スワンプマンはその発生から既に超常的なな力が関わっている。魔法でどうにかできるほど簡単じゃない。少なくとも私はスワンプマンが生まれるのを止める方法は知らない」
「どうしてこんな物騒な地に──って聞くまでもありませんでしたね。前に言っていた住民がとてつもなく頭が悪いのもそれが理由ですか」
雷雨の止まないこの地域は元々は流刑地だ。ここへ流されてきた罪人は末代まで罪を償い続けなければいけない。最も、現在住んでいる人たちは罪人の子どもの子ども。三世か、あるいは四世である。今ではまっとうな家も建てられ、それなりに暮らしやすくなっている。
この地に流されてきた罪人には
一.魔法使いを絶対傷付けない
二.魔法使いの言うことを絶対聞く
三.魔力を持つ者は全て魔法使いに見える
四.この地域から出ることはできない
の四つの魔法が刻まれている。これらの魔法は罪人の血が絶えるまで、文字通り末代まで続くだろう。現にあの男は私とイグニスの区別がついていなかった。
「不幸な事故の発生にはバラつきがあるようですね。あの方を放っておいても良いのですか」
それを聞いて私は思い出した。
「放置すればまた誰かが死ぬ。だからスワンプマンは殺さなければならないんだ」
不幸な事故はスワンプマンの超常的な力によるものだ。スワンプマンがいなくなれば──スワンプマンが死ねば止まる。
「証拠がないですね」
資料を読んだにも関わらず私に向けられるイグニスの視線は懐疑的なままだった。
「スワンプマンをスワンプマンとする証拠というのは今までも見つかっていないんだ。『不幸な事故が連鎖的に起こっているならその近くにスワンプマンがいる』という推測しかない。だけど実際今まではそれで止められてきている。
あの男は一日に二人も身内が死んでいるんだ。不幸な事故で片づけるにはあまりにも不自然なんだよ」
「ではこうしましょう。ここに書いてあることと、あなたの言うことを信じれば、二、三日放置すればまた不幸な事故で誰かが死にます。その時にあの方を殺せば良いでしょう」
「随分と無情だな。誰かが事故で死ぬんだぞ」
「スワンプマンとやらを信じていませんから。仕事柄、いろんな地域に行きますが聞いたのはこれが初めてです。正直、この資料も含めてあなたの狂言である方が納得できる──と、ようやく終わりましたか」
そう言って振り返ったイグニスの視線の先にはいつの間にか真っ黒な人影がいた。目を凝らしても輪郭がはっきりとせず、黒い人影であることしか分からない。人影はイグニスに何事か耳打ちをする。
「ふむ、分かりました」
イグニスが頷いて黒い人影に帰るよう手で促した。人影は帰る前にイグニスに輪郭のぼやけた手で何かを手渡し、その手で玄関を開けて外に出ていった。雨が少し中に入り込んだ。
イグニスがこちらに向き直る。
「スワンプマンの真偽はひとまず置いておきます。流刑地第一区担当魔法使いのノム・インバー。あなたの魔法使いとしての一切の権限と資格を剥奪します」
そう言ったイグニスは懐から拳銃を取り出して躊躇なく引き金を引いた。弾丸は私の腰についていた撥水障壁装置を破壊した。螺子を回そうとしていた手を上に上げる。
「経緯を聞いても良いかな」
「監査局職員は二人一組で動きます。私が実際に働いている人間を、先ほど帰った彼が書類等の記録を調べます」
イグニスが拳銃を持っていない方の手をこちらに見せる。先ほどの人影が渡したのであろう。小さなメモがあった。
「彼が調べた結果、死亡者の数を大幅に誤魔化していることが分かったそうです。実際の死亡者は七割増しくらいだと」
「ちょっと待て、そんなことは記録に残していないぞ」
私は喋ってからしまった、と気付いた。
「でしょうね。彼の魔法がなければ分からないままでしたでしょう。これだけでも充分ですが、あなたの働きを見てあなたは流刑地の担当魔法使いとしてあまりにも相応しくない。そう私は思いました」
「今日一日はまともな仕事をしていないが──」
イグニスが来てからは男の妻と子どもが死んでその現場を見に行っただけだ。仕事らしい仕事はしていない。
「いえ、この装置です」
そう言ってイグニスは自身の腰についている撥水障壁装置を指で弾いた。
「便利な道具を作るのは結構。しかし、流刑地の罪人の生活は一定水準『以下』でなければなりません。そう決まっています」
「彼らは罪人じゃないんだぞ! その子どもたちだ」
「末代まで償わなければならない罪です。そのような考えが出る辺りも流刑地の担当魔法使いとして相応しくないですね。何か申し開きはありますか?」
「──最後に質問をさせてくれ。あの黒い人影の彼はどんな魔法を使うんだ?」
「さあ。記録に関する魔法じゃないですか?」
イグニスの返答はつれないものだった。しかし時間は稼げた。
「そうか。代わりと言うのも変だが私の魔法を教えてあげよう──『水の操作』だ」
イグニスの腰につけていた撥水障壁装置。そこに入っていた水が蛇のように動きだし、脇腹に噛みついた。渡す時にオルゴールを少しいじって時間差で魔法が発動するように仕込んでおいたのだ。水の蛇はイグニスの脇腹を食い破って腹内へ侵入し、弾けた。弾けた水は鋭く尖り、臓器を引っ掻き刺し貫いて傷付けた。弾けた水は再び蛇の形をとり、反対の脇腹から血と小腸を引きずって出てきた。
「がはっ」
口から勢いよく血を吐き出してイグニスが倒れた。血の海に沈んだイグニスを確認して私は悠々と玄関から外へ出る。
外に出た私はイグニスの仲間の黒い人影を探していた。イグニスの返事からして戦闘が得意な魔法使いとは思えない。見つければすぐに殺せるだろう。
ここでの暮らしは心地良いものだ。住民は言うことを必ず聞くし、魔法の実験に必要な素材は住民を解体すればいくらでも手に入る。他の職員が事故死でいなくなってからの一ヶ月はかなり好き放題にやらせてもらった。この生活を失うわけにはいかない。
「あれ、魔法使いさん。そんなにずぶ濡れになってどうしたんですか?」
私が雨の中を走り回っていると、金髪でそばかすの目立つ少女が私に話し掛けてきた。そこでようやく私は撥水障壁装置を壊されていたことを思い出した。
「ああ、人を探していてね。全身真っ黒な人なんだが、見たことはないかい?」
「うーん、見たことないです。ごめんなさい、魔法使いさん」
曇った顔をしてそばかすの少女は頭を下げた。
「そうか。ありがとう」
私は下げられた少女の頭を握り潰す。倒れた少女の腰についていた撥水障壁装置を貰って自分の腰につけて起動した。障壁が水を弾く。
「クソッタレなクソ野郎だな」
後ろから声がしたので振り向くとイグニスが立っていた。雨で額に髪が張り付いていた。腹部の傷はかなり適当に止血されており、血が滲んでいた。
「驚いたな。もう動けるのか」
「権限剥奪しようとするとてテメーみたいに反抗するクソみたいな魔法使いがいるから必然的に耐性が上がるんですよ――ごほっ」
こちらの口調が素か。話し終えた後に吐血した。
「ならばもう一度動けなくなってもらおう」
私は懐からオルゴールを取り出して螺子を回し、イグニスに向かって投げた。音叉が共鳴するような高音が響いてオルゴール周辺の雨が水の蛇と化し、イグニスに襲い掛かる。その数六本。
「タネは割れてんだよっ!」
銃声が六発分響いて水の蛇は撃ち砕かれた。手がぶれて見えるほどの速度で弾倉を交換して再び六発分の銃声が響く。一発は宙に浮いたオルゴールを破壊し、残る五発は私の元へ飛んできた。先ほど投げたオルゴールの呪文によって作られた雨の壁が銃弾を防──ぎきることができずに二発が私の体に食い込んだ。
「ぐふっ」
新しいオルゴールを取り出して螺子を回して投げようとするが、それより早く弾倉の交換を果たしたイグニスが引き金を引く方が早かった。銃声が響き、その分だけ私の体に銃弾が食い込む。衝撃で体が吹っ飛んで地面に落ちた。顔が泥で汚れる。
「ま、改めて。ノム・インバー。テメーの魔法使いとしての一切の権限と資格を剥奪する」
私が立ち上がろうと腕に力を入れるよりも苛立ちながらも弾倉を交換したイグニスが引き金を引く方が早かった。私に聞けた銃声は二発までだった。
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三.多くの魔法使いは原典の翻訳こそを至上の目的としているため、それ以外の事の優先度が著しく低い。国に務め、研究と実験に必要な資材が潤沢になろうともその性質は変わらない。
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「ま、これくらいにしといてやるか」
三十発以上の弾丸を叩き込んだところでやっと満足した。ノム・インバーは白目を剥いて地面に伏している。 倒れているノム・インバーの体を暴れないように一応縛っておいた。
私の弾丸で撃たれた魔法使いは絶対に死なない。撃たれた数に応じて魔法の才能と精神が欠落するだけだ。並の魔法使いなら五発も撃たれれば廃人である。
「クソっ、楽な仕事じゃあないな」
監査局は公的機関の中で待遇が最も良いと聞いて入ったが、実態は地獄だった。公的機関に属している魔法使いの三割は非人格者だった。まともな人間は一割いたかどうか。残りは今のような殺人鬼だ。自国の魔法使いとの殺し合いが日常である。軍属の魔法使いよりも殺しているかもしれない……まあ肉体的には死んでいないが。ノム・インバーが暴れることを見越して、非戦闘員であるマキナには離れてもらったが、どこにいっただろうか。
それほど苦労することなく、マキナを見つけた。
「……冗談だろ?」
おそらく、崖から落ちたのだろう。折れた骨が飛び出て、くしゃくしゃに丸まって死んでいた。
私は嘆息してマキナの死体と、ノム・インバーの体を来た時に使った馬車に乗せて中央への帰路へついた。非戦闘員なんて三度に一度は死んでる。事故で死んだ程度で心が揺らいでいてはやっていけないのだ。
「そういやこのクソ野郎がいなくなると流刑地の担当職員が誰もいないことになるな──」
馬車に揺られながら、そんな至極どうでもいいことが頭をよぎった。そしてどうでもいいと思っている自分に気付いて少し笑った。
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七.敢えて記すようなことでもないが、スワンプマン自身にスワンプマンである自覚はない。
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二か月後。その中央都市は、