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08.カタリナ・リィン

 リナリーことカタリナ・リィンは魔術師学校を主席で卒業し、その後に進んだ高等魔術院でもやはり主席という見事な成績を修め、わずか22歳で宮廷魔術師に抜擢された。

 10年にひとりの逸材と言われ、しかし属性は炎属性たったひとつという逆境にも関わらず、学生時代は主席の座を譲らなかった天才的な魔術師である。


 ……というのが、世間一般の私に対する認識でしょうね。


 リナリーは自嘲気味に内心で呟く。

 目の前では100年にひとりの逸材が魔術を学んでいるからだ。


 異世界には魔術はないそうなので、子供でも知っているようなことから順に説明をした。

 とりとめない説明になってしまったし、ところどころで脱線もしたが、とにかく長々と魔術とはなんたるかを説明し続けた。

 話は魔術学校の講義時間よりも長い時間、続いた。


 ……にも関わらず話の内容を理解し、大筋の流れもちゃんと理解している。


 ところどころで為される質問はカタリナの話の内容を理解していることを裏付けている。

 空恐ろしい理解力だ。


 だから興味をもった。


「サトミさんはその、異世界ではどのような仕事をされていたのでしょうか?」


「私ですか? ええと説明が難しいですね。この世界にはない道具でこの世界にはないものを作っていたので」


「職人だったのですか」


「あー近いです。ただ手先を動かすのではなく、頭を使うことの方が多い特殊な職人だと思って下さい」


「頭を使う職人……」


 この世界でいう魔術の研究者のようなものか。

 少なくとも頭脳労働に慣れているということは分かった。

 この退屈な講義についてこられるのは、ひとえにそのような職業に従事していた賜物なのかもしれない。

 カタリナはそう結論づけ、魔術の説明を続ける。


 ついに属性ひとつひとつについて特徴を述べると、サトミは身を乗り出すようにして「では私は攻撃も回復も可能な万能魔術師になれるんですね!」と無邪気に喜んでいた。


 しかしそれは正しくもあり、間違いでもある。

 魔術の習得数には限界があり、それを越えて魔術を習得することはできない。

 まあそれも普通の人間族の話だから、もしかしたらサトミはまた限界など素知らぬ顔で無視する可能性もないでもないが。


「サトミさん。魔術を習得することは実は簡単なのです。スクロールに手をおき、呪文を唱えるだけで魔術は魂に刻まれます。ですが魂の書き込める容量には限界がありますので、魔術の取捨選択が重要になるのです。恐らく6つの属性すべての魔術を習得するのは容量の関係上、難しいかと思われます。……もちろんサトミさんのスキルでこれをどうにかできると言われてももう驚きませんが」


「え、覚えられる数に限界なんてあるんですか? そうすると光を中心にして攻撃魔法を下位属性から幾つかですか。まあ十分に万能ですからそれで不満はありませんよ」


「それはバランスの良い選択ですね。しかし先程も言ったとおり、魔術の習得にはスクロールが必要です。このスクロールを管理し、貸し出しや販売をしているのは魔術師ギルドなのです」


 あからさまに嫌そうな顔でサトミがこちらを見上げます。

 それはそうだろう、カタリナも敢えてサトミと一緒に魔術師ギルドに近づきたいと思わない。


 ……根掘り葉掘り質問されたり、魔術師ギルドにしつこい勧誘をされたり、今から考えるだけでもウンザリしますね。


 しかし魔術の習得にはスクロールは必須だ。



 カタリナ・リィンは不慮の事故でサトミの奴隷となったが、実はこの境遇に対して悲観してはいない。

 もともと平民の出であったカタリナは、貴族ばかりの宮廷は息苦しい場所だったし、今回の召喚は人さらいにも似た非道な禁術である。

 どちらかと言えばサトミの境遇に同情的だった。


 それに今、魔術師としてのカタリナは6つもの属性を使うことのできるサトミに強い関心を抱いている。

 炎属性しか使えないカタリナにとっては属性が多いことは羨ましいという認識だが、さすがに6つともなれば話は別だ。

 羨ましいを通り越して、複合属性魔術の可能性について追求できるまたとない機会。

 魔術研究が10年以上進む可能性の卵は、カタリナを魔術の専門家であると認めて魔術の教えを請うている。


 ……今となっては簡単に奴隷から解放される方が困るかもしれません。


 カタリナはサトミが魔術師としてどこまで大成できるか、見届けたいと本気で思っていた。


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